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76話

 ルーミルの発見は本当に運がよかった。

 普通は絶対に見つからない。森に逃げた人を1人で探索するなど現実には不可能である。

 遭難者の捜索などは、現代でも警察や自衛隊の仕事だし、それも大規模な人手を割いて行うことだ。

 いくら『探知の魔法』があるとはいえ、俺1人での捜索など方角を間違えたら詰みだ。

 森へ足を踏み入れたとき、その不安がよぎった。

 だが幸いにも盗賊が追いかけた際の足跡、6人分が色濃く残っていた。おかげで進路がすぐにわかったのだ。


 そして盗賊も、逃げたルーミルを追いかけるのは困難だったようだ。

 6人が数メートル間隔に広がり、隠れているルーミルを探すのだ。

 止まって音を聞き、地面を見て血痕を探し、発見されて逃げてまた隠れる。その繰り返しだったのだろう。

 森へ入って200メートルも進めばすぐに反応がでた。


 光点は『100メートル先の青信号』みたいな大きさと色、すぐに気づいて向かう。

 距離が縮むとばらけるように7つに分裂、そして十数秒後には人影を視認できた。


 ルーミルが猫人だったことで人との違いがわかり、即座に見えた人影に向けて《中石弾》を発射。

 対物ライフルで頭を撃ち抜かれたようなものだ。

 スイカを撃ち抜く動画を見たことあるが、それはもう木っ端みじんに四散してた。

 目にした連中は何が起きたかすらわかるまい。

 放心している間に全員を視界に捉え、残る5人を落ち着いて始末した。



「ふい~! ギリギリ間に合った……」


 間一髪、盗賊を掃討することに成功した。

 周囲を探知したが他に気配はなく、急いでルーミルのもとへ向かう。

 彼は死にかけた猫のようにぐったりとし、身動き一つしない。

 だが探知の青い玉はまだ見えている……よかった生きている!

 ナイフを抜いて急ぎ《大ヒール》をかけた。


「ルーミルさん……ルーミルさん……大丈夫ですか? 瑞樹です」


 俺の声に、何とか意識を取り戻した。


「……瑞樹……さん!?」

「はいそうです。助けに来ました」


 彼の顔を見ながら笑顔を見せる。

 彼に矢が2本刺さっているが足と肩、致命傷ではなさそうでホッとした。

 さっさと抜いて治療してしまおう。


「ちょっと痛いですが我慢してください。矢を抜いて治療します」


 一気に抜く。


「あぁぁあ!!」

「すみません。もう1本いきます」


 幸い反しはついてなかったのでスルっと抜けた。


「んんんんん!!」

「よし抜けました」


 そしてすぐにもう一度《大ヒール》を詠唱した。


「体調はどうです? 傷は塞がりましたのでもう安心です」


 彼はその言葉にとりあえず頷く。

 どうやら助かったということだけわかったようだ。

 すぐに妙に体が楽になっていることに気づく。射られた肩を触ると傷が消えている。

 それに気づくと目を見開いて驚き、俺を見て硬直した。


「もう安心です。盗賊は全て倒しました。ラッチェルも待ってるので戻りましょう。立てますか?」


 あまりの出来事に理解が追いつかない。

 俺は笑みを浮かべて彼の肩を2回ポンポンと叩いた。


「ありがとうございます。痛みはありますが大丈夫……歩けます」

「よかった」


 俺はウエストポーチから鎮痛剤を取り出しルーミルに手渡す。


「これ痛み止めなんですが……猫人にも効くんですかね?」

「え? ああ……おそらく」

「じゃあ水を出します」


 粉薬なので飲みづらいだろうと思い、おでこから魔法で水をチョロチョロと出す。

 彼はそれを見て再び固まった。


「あ……えっと魔法です……。その……私おでこから水が出せましてですね……ちゃ、ちゃんとした水ですから!」


 掌に溜めた水を恥ずかしそうに差し出す俺を見て、ルーミルはやっと『俺が助けた』という事実を理解したようだ。

 そして薬を口に入れ、静かに水を飲んだ。



 二人で山道へ戻ると、姿が見えたのかラッチェルが勢いよく飛び出してきた。


「父ちゃああん!!」

「ラッチェル!」


 ルーミルも駆け寄り2人で抱き合う。

 ラッチェルはワンワンと泣き、ルーミルは彼女の頭を何度も撫でた。


 時間を確認すると16時過ぎたところ。

 ルーミルの荷物は全て持ち去られていたが、金が入っているウエストポーチは無事だった。

 荷物を奪われたことは残念だが、生きていたことをまず喜ぼう。

 追手がないことを確認しつつ、街道まで出ることにした。


 フランタ市に向かっていると、馬に乗った衛兵と出会う。

 ガットミル隊長から事情は聞いていたが、場所を知らないので近隣の村を見て回っていたという。

 俺は彼らを預け、ティアラに連れて行くように頼んだ。


「瑞樹さんは?」

「兄ちゃんは?」

「少し確認したいことがあります」


 2人はまた森に戻ることを心配してくれている。


「大丈夫だから先に戻っててください。ラッチェルも心配するな。ちゃんと父ちゃん助けたろ? すぐ戻るから待ってな」

「…………わかりました」

「兄ちゃん、すぐ戻ってきてね!」

「おう」


 そう言い残すと先ほどの現場に戻った。


 ルーミルを襲った盗賊は、まさか仲間がやられてるとは思ってないだろう。

 6人が戻らなければ必ず探しに来る。

 ラッチェルは7人いたと言っていた……1人いない。おそらく先に報告に戻ったとかだろう。


 ――つまり仲間が他にいる。


 6人の死体を見つけて「猫人にやられた」と考えるかはわからない。

 だが仲間が殺されたのだ。

 となると猫人親子をただで済ますとは思えない。

 行商人であるルーミルは必ずどこかで目にされる。見かけたら必ず殺しに来るだろう。


『絶対にそんなことはさせない!』


 もはや怒髪天を衝いている。絶対に許さない!

 探しに来るであろう連中を待ち伏せすべく、《隠蔽》したまま現場付近で待機した。


 ◆ ◆ ◆


 日が陰って辺りがそろそろ暗くなりそうな頃になって『探知』に3名かかった。

 森の中はだいぶ暗いので足元がおぼつかない様子。ぶつぶつ文句を言いながら捜索にやってきたようだ。


「ホントにこっちに行ったのかよ!」

「うるせえな、俺は荷を持ち帰る前に見ただけだ。こっちに行ったのはたしかだ」

「何やってんだよクソが!」


 怒りと不満を舌に乗せて吐き捨てる。

 彼らは村の近くで待機していた仲間の2人と、奪った荷物を運んだ1人。

 いつまで経っても戻らない連中を探しにやってきた。


「あーもうあいつら何やって――――おい、あれ見ろ!」


 苛立ちを口にしながら先頭を行く1人が、地面に倒れている何かを発見した。

 おそらく人間とおぼしきそれに近づいて確認する……追跡した仲間だ……。

 絶命している!

 すぐに辺りを見渡す。どうやら追跡した6人全員だ。

 見ると体は激しく損壊しており、1人は首が無かった。

 目にした途端、気持ち悪くなって1人が吐いた。


 オゥグゥエェ……アッ…オェエエェェ…


「おい! 吐いてんじゃねえよクソが!」

「だ……だってよぉお……体は千切れてるし、こいつ首ねえじゃん! 何があったんだよ!」

「ろ、6人全員死んでるぞ……どうすんだよ……」


 3人ともオロオロしながら辺りを見渡し、怖くなってこの場から逃げ出した。


「と、とにかく戻ろうぜ! 帰ってボスに報告だ!」

「そ……もう暗くなるし……急ぐぞ!」

「あ……ああ、そうだな」


 森の中はもうかなり暗い、そして死体を見たあとだ。

 何か得体のしれないものがいるかもという恐怖でパニックになっていた。周囲に警戒を払う余裕もなく何度も転びながら逃げている。


 なるほど……どこかに拠点があってボスがいるのか。


 俺は彼らの様子を静かに、ずっと姿を隠して見ていた。

 彼らの歩みが遅い。早く逃げたいのだろうが足元がおぼつかない。

 連中を逃走を冷めた目で見据えながら、透明のまま追跡する。


『隠蔽の魔法』――見た目は完全に透明人間、誰にも気づかれない。

 催眠、暗示、幻覚などで意識的に見えないのではなく、本当に透明で見えない。

 自分でも姿が見えないので結構ビビる。

 手足がなくなった感覚に陥るのだ。

 この状態は、歩くこと、立つ座る、静かに物を触る、は可能。声を出したり大きな動きをすると隠蔽が解ける。


 彼らは森を出ると村のほうへ、一目散で駆けだした。

 このままだと振り切られてしまうが、『探知』でマーキングしているので見失わない。

 隠蔽を解いてバレないように追跡する。


 彼らは村の反対側から出ると、別の森へ入っていく。

 足元には山道みたいな人の通ったあとが見える。おそらくアジトへ向かう道なのだろう。


 しばらくして木の上に1人いるのが判明する。見張りだろう……すぐに『隠蔽』をかけてゆっくり進む。

 そしてさらに進むと2人の反応が現れた。おそらく門番だ。

 だがその先に見えた建物群を目にして驚いた。


 これ遺跡ってやつじゃねえの!?


 あきらかに今住んでいる町並みとは違う。古代遺跡のような建造物だ。

 どうやら盗賊団はそこを根城にしている模様で、遺跡内の建物に十数名の反応が見てとれる。


 おおーいるいる!


 遺跡の外からマーカーの動きを追う。

 3人がその集団のいる建物に入ると、しばらくするとわさわさっと激しく動いた。

 おそらく「……6人が死んでいた」という報告を受けたのだろう。


 すると数名の女性の叫び声が聞こえ、別の建物に移動する数個の玉が見えた。

 あーあれだ、拉致された村娘とかいうやつだろう。

 連れていかれた先には動かないマーカーも見える。捕虜でもいるのだろう。

 お約束といえばお約束だが、現実に目にすると正直ドン引きでかなり怖い。

 普通なら見て見ぬふりして逃げるだろう……。


 だが今の俺は武力を有している。既に6人殺害した。

 そして彼らに対して何の罪悪感も湧かないし慈悲もない。殺すことに何の躊躇いもないことに自分でも驚く。

 ルーミルを襲い、ラッチェルを泣かせたことに頭にきている。

 だがそれだけではない。


 ああいう連中の存在が許せないのだ!


 俺も存外物騒な考えになっているなーと思わなくもない。

 だがこの世界、平気で人を殺す連中がいる……それが奴らだ。いつ俺も襲われるかわかったものではない。


 しばらくすると外にいる連中も呼び戻され、誰もいなくなった。

 それじゃ遺跡の中へ行こう。


 集まっている連中の建物を見る。

 青い玉の数も多く、思っていたより大規模な盗賊団だ。

 だがこいつら片付けないとルーミルとラッチェル2人に安息の日々は来ない。

 覚悟を決めてこいつらを潰すことに決めた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ねこの人が無事だった [気になる点] 目撃者無しで殲滅できる? [一言] 主人公格好いい
[一言] 暴漢たちにド級の質量弾(ルビ:て ん ば つ)を浴びせ、傷ついた者たちを癒すおでこ。
[良い点] いざとなったら玉をだせ!ご入用の時はF7を。強い方のCGCで義により助太刀申し上げ候。装填手だけでなく、搭乗員全員 アドレナリンだしまくりのつるべ打ちを御覧じあれ。∠(`・ω・´)
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