70話
席に着くと会長が店の人に合図を送る。そして食事が始まった。
最初に『サラダ』『ポトフ』『何かのムース』の3品。
それが済むと『羊の骨付き肉の香草焼き』『焼き飯』『何かのプディング』の3品だ。
コース料理だが2回で提供するっぽい。俺としては1品ずつ出されるよりはありがたかった。
しかもパンではなく米だったのは意外……思わずにんまりしてしまった。
味はおいしいのだがやはり香料が強い。この国はこういう料理なのだろう。
そして見た目も赤緑黄色の原色が多い。なんて言うんだっけこういうの……エスニック?
デザートはプディングとのことだが、全然プリンじゃない。
ぷるんぷるんした食べ物ではなく、まんまスーパーで売ってるフルーツグラノーラだ。
いやもうジャリジャリとすごく甘い。何の甘味かなーとつい考えてしまう。
俺が食事を口にする際、いちいち何か考えてるのをマグネルの2人はじっと見ていたようだ。
食事をしながらの会話は、グレートエラスモスのその後についてだ。
例の角を王宮の魔法鑑定に依頼したのだが、そのまま引き取らせてほしいという話になったらしい。
しかも皮もあると知るや、それもまとめてと引き取りたいと打診を受けたという。
マグネルとしても王宮の要求とあればまず断れない……諦めて素直に応じた。
だがそこは商人、金額についてそれなりをお願いすると、何と買い取り額の50倍が提示されたという。
さすがに驚きが顔に出てしまったという。
王族の場合「よこせ」の一言で取られることもある……まあさすがに近年はないらしいが。
会長は何とか買い取り額の5倍ぐらいはと考えていたそうだ。
それが50倍……笑いが止まらず何の文句はなかった。
するとさらに嬉しいことに、無税でいいと言われたそうだ。
理由は国の魔法研究機関の購入になるので税金での購入。税金で買うのに税金取ったら実質奪うのと同義ということらしい。
つまりマグネル商会は濡れ手に粟で大儲けをしたことになった。
俺たちはその話を聞き、笑みを浮かべつつ面白く聞いていた。
しかし50倍はすごいな。さすが国家予算からの捻出……人の金だもんな。
「その冒険者パーティーはその後ティアラには?」
「いやー顔を見せてないな。別のとこにいったんじゃないか?」
「そうか……」
会長はちらちら俺を見る。
何となく嘘だとバレてる雰囲気だな。まあ主任とは馴染みだし、会話の雰囲気で察しているのかもしれない。
まあいずれ本当のことを言う日が来るかもしれないな。今後の付き合い次第だ。
ちなみに素材を売却した魔法機関からもその問い合わせが来ているのだという。
なので情報が入ったら伝えるということになっているらしい。そりゃ永遠に伝わらないぞ。
そしてスマホの話を切り出してきた。
「瑞樹さん、仕事ですごい魔道具を使っていると耳にしたんだが、どういった物かね?」
「うーん、どういった物と言われてもですねー……」
少し口ごもると、みんなは今までの出来事を思い出してクスクス笑っている。
そりゃ散々やらかしてるからな。俺も思わず苦笑い。
「まあ、これなんですけどね……」
そう言ってウエストポーチからスマホを取り出して掲げる。
するとマグネルの2人は待ってましたとばかりに身を乗り出した。
ではさっそくわからせタイムだ。
いろいろ聞かれる前に彼らの席へ向かう。
「まあこれはいろいろできるのでざっとお見せすると……」
「こういう……写真っていうんですが、風景を切り取って絵にする道具です」
みんなにも見せた写真を表示して見せる。
「うぉ!」
「わぁ!」
そこに見たままの風景がある画像にびっくりする。
表示されるものは日本の品や風景……見たことない代物だ。
最初にリリーさんに見せたときと似たような反応、2人とも絶句している。
うーむ、これだけじゃ物足りないな。せっかくなので度肝を抜いてやろう。
「それでですねー、ちょっと2人とも席を寄せてもらっていいですか?」
何をする気かと不安な表情、だが言われたままに席を寄せる。
そして俺が間に入り……「スマホを見てください」とフラッシュOFFで自撮り撮影。
一瞬何されたかわからずポカンとする2人。
そしてスマホをテーブルに置いて画面を見せる。
「うわぁ!」
「きゃっ!」
そこには笑顔の俺と、怪訝な顔をした2人が映っていた。
「これ、今……え、儂か!?」
「はわわぁああ!」
驚きで身じろぎし、テーブルの皿がカタカタっと鳴る。
ティアラのみんなはもう何度も見慣れた光景、むしろ2人の反応を楽しんでる様子。
店に来たイキッた魔法士連中を追い返したときみたいな反応だ。
「まあこんな事ができるわけですね」
「そしてですね……」
ここでもう一撃を加える。
音楽再生――曲はクラシックの『威風堂々』だ。さあ驚きやがれ!
♪ジャッジャッ ジャカジャカジャカジャカ ジャッジャッ ジャカジャカジャカジャカ……
テーブルに置いたスマホから音楽が流れ出す。
すると先ほどまで余裕ぶっこいてたティアラのみんなも驚いて飛び上がった。
「は!?」
「なっ!」
「うぇええええ!?」
「うひゃ!」
うちの職員が慌てる様子に、ファーモス会長もカルミスさんもただ事ではないのだと、恐怖が顔に張り付いている。
だがキャロルがスタスタと駆け寄る。
「瑞樹さ~ん、それ私知りませんよ~!」
会長は主任に目をやるが、彼も知らないと首をぶんぶん振る。
カルミスさんはとっとと逃げ出したいのを口をギュッとして耐えている。
自分が写真に写っていたことがいまだにショックのようだ。
ラーナさんとリリーさんは耐性が付いたのか、すぐに落ち着いて音楽に聴き入っている。
キャロルは意に介さずサッとこっちに来たな。もうスマホに慣れたのだろう……相変わらずの順応性。
「これは写真の音版、音楽を保存してあるんです。それを流したものです」
主任もひさびさに驚かされて苦笑いを浮かべている。
俺はマグネルの2人にも大丈夫ですからと促した。
キャロルが触りたそうなので手前に差し出すと、サッと取って音の出るところを探し始めた。
その肝の据わり具合に主任は呆れていた。
リリーさんが曲について聞く。
「それは瑞樹さんの国の……曲ですか?」
「いえ、別の国の曲ですが演奏はうちの国の楽団です。まあ有名な曲なので大体の人は知ってます」
「あ、ここから鳴ってる!」
キャロルが音の出所に気づいたので、俺はウエストポーチからイヤホンを出す。
また見たことない品物の登場……みんな一斉に注目する。
スマホに取り付けると流れてた音が止み、キャロルにこれを耳に付けてみてと促す。
すると彼女は躊躇なくイヤホンを耳につけた。
「うひゃああ! 耳から聞こえますー!」
他のみんなは何が起きてるのかがわからずにいる。
キャロルの肩をポンポンと叩いてみんなを指さした。
「えっと、これからさっきの曲……が流れてますー」
「大勢のいる場所でさっきみたいに音楽流すと迷惑なので、このイヤホンを付けて1人で聞くんですよ」
俺の説明にみんなポカンとしている。
まあいきなり音楽を聞かされてパニックのところにイヤホンの説明したところで無理だわな。
キャロルに「帰りにまた貸してあげる」と言うとめっちゃいい笑顔で笑った。
「まあ大体こんな感じです」
会長とカルミスは硬直していた。
そして俺は、ティナメリルさんに聞かせたときの状況を思い出していた。
普通はこんな感じになるよなー。
やっぱティナメリルさんが動じなさすぎなんだよな……うん。
みんなの驚き具合に妙な安心感を覚えていた。