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63話

「タラン、これを――」

「副ギルド長!」


 エルフのティナメリル副ギルド長だ。彼女の声に皆が顔を向ける。

 もちろん俺も手を止めて彼女を見やる。姿を見られるだけで気分が高揚する。


「王都からギルドに通達です。皆に伝えておいて」

「わかりました」


 職場に少し緊張が走ると同時にみんなに笑みが浮かぶ。

 今まで表に顔を出すことはほとんどなかった人だ。年に1回も会えればいいレベル。

 それが今は月1ぐらいはやってくる。

 俺が「たまには顔を見せてください」とお願いした効果だ。


 店内にいた冒険者たちも顔がパッと明るくなる。レアキャラ登場だぞ。


 職員との会話は二言三言交わす程度。まあまだ仕方がないだろう。

 男性陣とは「調子はどう?」ぐらいの会話だが、女性陣とは和やかに会話をしている風に見える。

 さすが女の子同士というところか。いい傾向だな。


 ここでは俺とはそんなに話はしない。「何か問題は?」と聞かれて「特にありません」と答える程度だ。

 会話もエルフ語なのかマール語なのかわからない。彼女も気にしてる風でもない。


 前回の呼び出しから2ヶ月半経っていて、その間に表に来たのは今日を含めて4回目。

 また個人的にお話がしたいなーと思ってはいるのだが、俺からお願いしていいのかわからずに悶々としている。

 上司でもあるし、やんわり断られたら心が折れそうとか思ってたりする。

 そう考えて尻込みしていた。


「……瑞樹!」


 彼女が帰り際に俺に声をかけたので振り向く。


「今日時間取れる?」


 その言葉を聞いた瞬間、顔が真っ赤になるのがわかる。


「あ……は、はい!」

「そう、じゃあ終わったらまた話をしましょう」


 そう言うと彼女は上司然として戻っていった。


 来たぁぁああああああ!! お誘い来たぁぁあああああ!!


 彼女との会話は間違いなくエルフ語だろう。

 なのでみんなに内容はバレてない……と思う。


 おかげで俺の心臓がフルスロットル運転、周りに爆音が聞こえないかと焦る。

 顔がほころびそうになるのを必死で我慢する。


 ――が、ダメだ。どうしてもにやにやする。


 考え事をする仕草で下を向く。気づかれないように深呼吸を数回した。

 もう頭の中は今夜のティナメリルさんとのことでいっぱいだ――


 だが少し気になることを思いつく。


 2度目のお呼びがかかったのが2ヶ月半ぶり。

 人間の感覚では久しぶりなのだが、エルフの感覚だとどれくらいのペースなんだろう……。


 以前の会話内にあった時間の単位を思い出す。

 知り合いのエルフと会ったのが70年前……手紙をもらったのが20年前……出来事が十年単位だ。

 もらった日記のイベントは、最初の方は一行数十年と長く、最後の方は縮んで一行数年……それでも年単位だ。


 とにかく出来事の判定が人間に比べてとてつもなく長い。


 彼女の言う「また今度」「近いうち」「すぐに」は人間で言うとどれに当たるのか。

 もしかすると『十年後』『一年後』『一ヶ月後』だったりするのだろうか……。

 いやいやいや困る……それでは困るな。


 少し計算してみよう。


 エルフの寿命――は、わかんないから仮に千年とする。

 この世界の人間の寿命――まあ即死イベントが多いが、何もなければ70歳ぐらいまでは生きられるんじゃなかろうか。

 これで考えるとエルフの生存期間は人間の14倍。

 2ヶ月半は75日だから、それを14で割ると…………約5日。


「6日と捉えるとちょうど1週間ぶりって計算……それなら普通に『週末にもう一度』的な感覚になるのかなー」


 目頭を押さえながら考え込んむ。


「いや違う! 違うなーこれ。違う違う!」


 寿命は千年以上だが、忘却するから三百年ちょいの記憶しかない。

 となると年齢は三百年で計算すべきだろう。


 計算し直すとえーっと…………『3週間ぶり』な感じか。


 ちょっと久しぶり感はあるかなー。

 人間様的にはもうちょい頻度を上げても良いのでは?

 そうだなーさっきの『週末ごとに……』ってのは悪くない感じだと思う。


「べべべ別に恋人とかじゃないけど、会うのに一週間は違和感ないだろうしな。うん、悪くないはずだ」


 人間の週末ごとをエルフ換算してみよう……ぶつぶつ言いながらペンで紙に数字を書く。


「……ふむ。一ヶ月毎なら週末お誘いの感じになるかな」


 何となくわかってきた気がする。

 よし、今日お話しする上での目標ができた。


『次のお約束を俺から言うこと。来月の今日ぐらいはどうかと提案すること』


 うーん……思わずため息。しばらく目をつむって考え込む。


 難易度高いけど頑張って言おう。断られてもへこまない。

 ダメだったときは、次いつぐらいがいいかを聞く。

 質問したいことはリストアップしておく。

 何か日本のネタで受けそうなことを用意する。


「………き。瑞樹!」


 深刻そうに考え込んでる俺を見てガランドが声をかけていた。


「ん、あ……はい、何?」

「いや、何か難しそうな顔をしてたのでどうしたのかと……」


 思いっきり今晩のことを考え込んでて気づかなかった。


「いやいや、ちょっと確認したいことがあったなーって考えてただけです」

「……そう」


 苦しい言い訳で適当にごまかした。

 ふとあることが思い浮かぶ――


 この前のお話のとき、お茶しかなかったな。


 いや別にお茶だけで嫌だったというわけではない。

 茶菓子があったらもっと話が弾むかなと思っただけだ。


「お呼ばれする時って手土産とか持ってくもんじゃなかったっけ?」


 前回は怒られるものと思っていったので気にもしなかった。

 だが今回は楽しいお茶会って決まってる。

 何か甘いものでも持ってった方がいいのかなー……といっても菓子を売っているところを知らない。

 そういやこの世界で菓子類を見ていない。


 いや待て。

 そもそもこの世界のエルフって何食うの?


 それをまず確認しないと何も持っていけないよな……。

 おそらく人の食べ物でいいはずなんだけど……好き嫌いはあるはずだ。


 アニメや漫画じゃ『エルフは肉食べない』って設定もよくある。

 手土産に肉の串焼き持っていくわけにもいかん。食べる食べない以前にそれはない。

 それに何か持っていって「私それ食べないので」とか言われたらつらい。

 好感度も下がってしまう。


 うーむ……もう一点確認事項追加だ。


『ティナメリルさんの好きな食べ物を聞き出すこと』


 今日は残念ながら手土産なしだ。

 好きな食べ物を聞いて次回頑張ろう。


 菓子類ってこの街にもあるはずだ。

 富裕層が住んでる辺りなら売ってるはずだ。


 そのうち日本の菓子類作れるようになった方がいいかな……。

 それを思うとやはり早急に料理が出来る体制づくりをしないといけない気がしてきた。

 コンロだかオーブンだかを魔道具か何かで用意したいところだ。


 夜に女性の部屋に誘われたことにテンションMAXである。


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― 新着の感想 ―
[一言] 仮にエルフの里では肉食NGだったとして、その辺の記憶が消えてるはずだからこの都市での基本的な食生活になってると思うわ
[一言] 受付嬢トリオの冷たい視線を浴びてそう…
[一言] 分かりやすく浮かれてますが用事が何か判明してないのにそんなに浮かれてて大丈夫かー?
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