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52話

 ティアラ冒険者ギルド前の広場では、空前の紙飛行機ブームが起きている。

 きっかけはキャロルが紙飛行機の作り方をあっさり取得してしまったことだ。

 見たのはラッチェルに作ってた時とキャロルがせがんで作った時の2回だけ。

 その後完成品を自分で分解して覚えたらしい。


 そしてある出来事が起こる。

 受付に来た若い冒険者達が、カウンターに置いてある紙飛行機を指して何かと聞く。

 すると彼女が「紙飛行機です」と答えてギルド内で飛ばす。

 主任が目にしてキャロルを怒る――というお約束の展開だ。


 で次の日から『室内での飛行禁止』という、小学校でありそうなお触れが出される。

 まあキャロルだけに出された通達だ……。

 その後、キャロルは昼の休憩時間に広場で紙飛行機を飛ばして楽しみだす。

 なかなかに好奇心旺盛だ。

 するとそれを目にした子供達が物珍しさに寄ってくる。

 そして子供達のために数個作っていっしょに遊ぶようになったわけだ。


「うわぁ……たくさん飛んでるなー」


 今日も昼休憩に一服しようと表に出ると、大人も子供も紙飛行機を飛ばしている。

 空を飛ぶという誰も見たことない挙動をする物体だ。

 子供のみならず大人も興味を引かれるのは当然だろう。


 ただし中々上手に真っすぐ飛ぶ飛行機が少ない。みんな作りが雑なのだ。

 飛行機という乗り物を知らないのと、左右均等に折る必要があるという知識がないので出来が悪い。

 なのですぐに落ちてしまう。


 そこへキャロルが俺の作った紙飛行機を手にしてやって来る。

 なかなか飽きないものだなと、童心のキャロルが可愛く思える。

 彼女を見かけた子供達は、「飛ばして飛ばして」と促す。ギルドの外でも人気者だ。

 そしてキャロルは俺が作った飛行機を華麗に飛ばしてみせる。

 そよ風を受けた紙飛行機はスゥーっと静かに真っすぐ飛び、人が羨ましがるほど遠くに飛んでいく。


 まさに『紙飛行機の女王』という風格だ。


 俺は思わず笑みがこぼれる。

 最初にキャロルが作った紙飛行機はバランスが悪くてあまり飛ばなかった。

 だがすぐに自分で原因を理解し、丁寧に作るようになった。

 そういうところは賢いなと感じている。


 本来、紙飛行機というものは『紙を折ったら空を飛ぶ』という発想が浮かべば、子供は勝手にいろいろなのを作って遊ぶ。

 それが飛ぼうが飛ぶまいが、自分の考えた最高の紙飛行機を作ろうとするものだ。

 しかしこの世界は子供に教育が行き届いてないためか応用が利かない。

 どうも自分で考える……というところまではいかない模様だ。

 日本の教育が如何に凄いかと思い知らされる。


 そうだな、俺もまた作ってみるか……。


 ギルドに戻ってリリーさんに紙を頂戴と言って数枚もらう。

 彼女はやんちゃな子を見るような目で俺を見上げる。

 だが俺は気兼ねすることなく、宿題済ませて遊びに行く子のような気分でギルドを後にする。


 俺はキャロルに対抗したくなった。

 というよりいいとこ見せようと『気になる女の子の気を引きたがる男の子』のような感情だな。


 外へ出て、飛ばして遊んでた子供を一人手招きで呼ぶ。

 別の紙飛行機を作ってやろう。


 通称『イカ飛行機』と呼ばれるタイプだ。


 長方形タイプの紙飛行機は『ジェット機タイプ』と呼ばれ、真っすぐによく飛ぶ性質がある。

 子供は投げる際、思いっきり手を振って投げてしまう癖があるので、投げ方をゆっくり押し出すようにと教える。

 すると『イカ飛行機』は綺麗に真っすぐ、広場の端から端まで飛んだ。


「なっ!?」


 キャロルはそれを見て唖然とした。

 女王陥落の瞬間である。

 目にしたキャロルが飛んでくる。


「瑞樹さん、それ教えて!」

「えーっ!」


 俺が得意気な顔をすると、彼女はこれ見よがしにふくれっ面になる。

 可愛いキャロルのぷんぷん顔を見てにやりと満足し、作り方を教えてあげる。


 だがいざ作り始めると、周りに子供達がわっと寄ってきて「僕も僕も」と騒いだ。

 さすがに皆の分を作るのはめんどくさい。

 ゆっくり作るから見て覚えような……と諭して勘弁してもらった。


 そしてキャロルが『イカ飛行機』を華麗に飛ばす。


 風も文字通り空気を読んでタイミングよく上昇気流を産み、彼女の飛ばした紙飛行機はふわっと高く舞い上がった。


 女王復活である。


 俺は一服しつつ、キャロルが子供達と元気にはしゃぐ光景を嬉しそうに眺めていた。


 ◆ ◆ ◆


 ガランドは自宅にて、妻と食事をしながらギルドでの出来事を話している。


「今日また瑞樹が凄いことやってた」

「あなたここ2ヶ月ずっと彼の話ばかりね」

「いやだってホントに凄いんだよ。今日だって彼、マグネルとの取引で大金貨52枚得たからな」

「大金貨!!」


 妻のスーミルは驚いて、思わず手に持ってたコップから水をこぼしかける。

 だがそれはギルドの仕事ではないのだと聞くと首を捻る。


「え!? でもあなた、瑞樹さんは経理なんでしょ?」

「それが休みの日にグレートエラスモスの討伐に関わったみたいなんだよ」

「グレ……それって魔獣か何か?」

「ああ」


 彼女は普通の女性なので、冒険者がする討伐など知識は全くない。

 もちろん森に出没する獣や魔獣が恐ろしいことは理解している。


「冒険者もしてるの?」

「いや知らなかった。この前初めて知ったよ」

「でも52枚ってことは凄い魔獣なんでしょ?」

「そうだな。俺も初めて見たよ。凄く大きな皮と頭してた」

「一体何人ぐらいで倒したんでしょう……」

「さあなぁ……20~30人ぐらいじゃないかな?」


 瑞樹の口ぶりじゃ一人で倒したみたいなことを言っていた。

 だがガランドもそんなことが可能とは思えなかったので適当に人数を増やした。

 彼のスープの皿が空いてるのがスーミルの目に入る。


「おかわりは?」


 頼むと頷く。


「彼はとにかく計算が物凄く早い。俺も実家が商店で手伝いしてたからわかるんだが、彼は相当高等な算学を有してるな」

「他国の学生なんでしたっけ」

「日本って国だな」

「へぇー凄い国ねー」


 彼女がスープを注ぐとガランドは軽く頭を下げる。


「今日も何か冊子をめくりながら考え事しててな、時々何かわかったように知らない単語を口にするんだ」

「何て?」

「んー何だったかなー。今日言ってたのは……『ゲンセン…チョウシュウ』だったかな」

「何それ?」

「瑞樹に聞いたら、税金の払い方がどうとか言ってたな」

「税金の払い方……ってどういう意味?」

「いや俺もわからん。だが何か気づいてニヤニヤしてた」

「不思議な人ねー」

「全くだ」


 ガランドはスーミルに酒にしようと告げる。


「だが彼が来てからギルドは活気が出てきたし、来店する依頼主や冒険者も増えたんだ」

「そうなの?」


 彼女がガランドのコップに酒を注ぐ。


「彼はどうも特殊な能力を持っててな、マール語が得意じゃない相手にそいつの国の言葉で話すんだ」

「いろんな言葉を知ってるってこと?」


 彼は首を傾げる。


「んー詳しくはわからないんだが、言葉が全部わかるらしい」

「全部って……何でも?」

「多分な。この前なんか猫人語しゃべってたぞ」

「猫人……ってあの猫人?」

「そうそう。ニャーニャー言っててみんな唖然としてたわ」

「まあ!」


 ガランドは笑いながら語り、スーミルは目を丸くした。


「それに最近は副ギルド長も店頭に顔を出してくれるようになってな、それも瑞樹が頼んだらしい」

「副ギルド長ってエルフの?」

「そうそう。それ見たさに来る冒険者も増えたんだよ」

「何それ!?」


 彼女はくすくすと笑う。


「いや……俺も入って2回ぐらいしか目にしてなかったからさ、この前話しかけられて凄い緊張したよ」

「――――美人なの?」

「そりゃもうエルフだからな。凄い美人さ」


 スーミルは冷めた目で彼を見る。


「あっ……や、エルフで珍しいだけだ。勘違いするな」

「――――ふぅん……」


 ガランドは慌てて取り繕う。


「そ……あ、瑞樹が副ギルド長を『さん』付けで呼ぶ仲なんだよ。エルフ語仲間なんだそうだ」

「え? 瑞樹さんってエルフ語も話せるの」

「言ったろ! 全部の言葉がわかるって……そういう意味さ」


 彼女は目をぱちくりさせながら驚いている。

 ここぞとばかりにガランドは話を言語の方に誘導する。


「瑞樹が言うには、副ギルド長もエルフ語を話す機会がなくて寂しかったんだそうだ。なので話し相手になってるってな」

「あーそうよねー。人間社会に1人だけだもんねー」

「だろ? だからなるべく人前に出て人と接した方がいいと諭したんだそうだ」

「いい人じゃない」

「いやホントいい奴だし凄い人だよ」

「あなたも頑張らないとね」

「ああ」


 2人は酒を酌み交わした。


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― 新着の感想 ―
[一言] wotシリーズの宣伝見て来ました。 設定がしっかり考えられていて、面白かったです。 執筆頑張ってください! P.S. wotは見る専です
[一言] 色々とやらかしまくってる瑞樹ですが評価は悪くない様ですねー 次は何をやってしまうのやらw
[一言] 紙飛行機は翼の両端を曲げたものとか色々作ったものだな 最近はイカ飛行機のミミを太くしてワッカ状に繋げた紙飛行機とか、円盤と板を組み合わせたどうみても紙飛行機ではないけど何故か飛ぶマグヌス効果…
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