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49話

 さて、野宿決定ということでいろいろと準備が必要だ。

 早速焚火の準備をするとともに、実は前々からしてみたいと思っていたことがあるのだ。


『露天風呂を作ろう』


 木々を拾って大きめの焚火を作成する。

 辺りを見渡して漬物石ぐらいの大きさの石を数個探して焚火の中に放り込む。

 そして土魔法で穴掘って水魔法で水を張る。

 穴掘りスキル1回分――1メートル四方で深さ50センチだ。

 斜めに入れば体を何とか沈められなくもないだろう。

 そして熱せられた石を木の棒で転がして水の中に落とす。

 犬達は何かなと尻尾ふりふり見ている。


「これはなーお風呂作ってんだよー」

「ワウゥー(作ってるー)」

「石さわんなよ! 熱いからな」


 話相手がいながら作業するというのは寂しくなくていいな。


 そして何とか日没までに完了。

 湯気が立ち上っているので手をつけて確認する。


「OK!」


 さっそく服脱いで風呂に入ろう。

 掘った穴の対角になるようにゆっくり体を沈める。


「いよっしゃあああああああ!!」


 この世界に来て初のお風呂である。

 お湯は泥が混じって濁っているが、それでもお湯の気持ちよさはたまらない。


「ふいー、やっぱお風呂入らんと疲れとれねーよなー。毎日入りたいなー」


 顔をお湯で洗って頭を後ろにもたげる。

 すると2匹が俺の頭のところにやってきた。

 相手してほしそうに伏せたので、頭を撫でて話をする。


「じゃ何か? 父ちゃん知らずに突っ込んだのか!」

「ワン!(突っ込んだー!)」

「お前馬鹿じゃないの!?」

「ワフゥー(ホント父ちゃん馬鹿ー)」

「ワウーン(父ちゃん馬鹿ー)」

「自分で言ってりゃ世話ないわ」


 死にそうな目に遭ったのに危機感ない犬達が妙に可愛かった。


 風呂から上がるとドッと疲れが来た。なので早々に寝ることにする。

 休むと告げると犬達もそばに寄ってきた。

 2匹に挟まれ、子犬達が俺の頭のところに体を寄せる。

 獣臭いな……と顔をしかめるが、夜が怖くないのはありがたい。

 すぐに眠りについた。



 次の日、朝5時に目覚める。

 アラームが鳴って犬達がスクッと立ち上がったが、俺が大丈夫と言うとすぐ座った。

 そして出立の準備をする。


「これとこれ、お前たちにやるから食べろ。あとあそこに散らばってる内臓も食べていいから」

「ワフゥ?(ご主人のだよ?)」

「いや持って帰れないから……だからお前たちにあげる。食べなさい」

「ワン(食べるー)」

「よし」


 肉は残り3つあるがもう運びたくない。

 一番いい真ん中のやつは重そうだし、大穴を空けてしまったので犬達にやることに決める。

 なので帰り1回だけ我慢して運んで終いにする。


 犬達にお別れの挨拶。


「じゃあ俺帰るから。肉守ってくれててありがとな」

「ワン(ご主人ー)」

「ワンー(守ったー)」

「もうおうち帰っていいからな」

「ワウーン(また来てー)」

「ワンー(待ってるー)」

「気が向いたらな」


 子犬達はまだ寝てたが、父ちゃんと母ちゃんの頭を撫でてやったら目を細めて喜んでた。

 森に来る機会が早々あるとは思わないが、また来ることがあれば会いたいものだ。

 犬達は俺の姿が見えなくなってもしばらく俺の去るのを眺めていた。



 あばら肉2つ目を運ぶと6時半。

 荷車のところに置いておいた肉も盗られたりすることなく無事だった。

 野生動物に食われたりしていない。

 そういや虫も湧いてなかったことを今更思い出す。


「『保存の魔法』の影響なんかなー。劣化もしない状態を不気味がって来ないとか……そういう効果あったりするんかな?」


 今度ティナメリルさんに聞いてみよう。

 多分知らないと言われるだろうが話のネタにはなる……。


 昨日出かけたのに帰らず朝帰り、東門を目の前にしばし考える。

 風呂に入って身綺麗、着替えもした。

 大丈夫……問題ない。

 大きな荷車を引いて戻ってきた俺を目にした衛兵がすぐさま門の中へ駆け込む。想定の範囲内だ。

 数名の衛兵とガットミル隊長が顔を見せる。


「おはようございまーす」


 1オクターブ高い声で挨拶をする。


「何だそれは、何処へ行ってた?」

「いやーそれがですねー……冒険者達が素材の解体に手間取ってですね、しょうがないので1泊しました。で朝方積み終わったので帰ってきたわけです」


 隊長が布を剥ぐと、目にした者は皆ギョッとした。

 くっきりあばらが見えてる胴体の一部と、明らかに足とわかる肉の塊が4つあったからだ。


「これ……お前、あれじゃないのか! この前のグレートエラスモスの……」

「え~!?」


 よくわからないという態度でとぼける。


「あれって先週じゃないですか~! 違うでしょ~!」

「いやでもお前解体する現場見てたんだろ?」


 大きく手を振る。


「いやいや……それが森の奥深くらしくてね~、俺は危険だからって行ってないんですよ~」


 隊長は物凄く疑った目で俺を見ている。

 だが運んでいるのはただの肉だし、依頼を受けてのことだと話しているので咎める理由はない。

 鼻をふんっと鳴らし布を思いっきり被せると、顎で行っていいと指図した。

 よっしゃとばかりに作り笑いを浮かべ、頭を下げて門を通過する。

 そしてグレートエラスモスの肉の搬出作業は無事完了した。



 時刻は7時半、ギルドの裏手に到着。

 一旦また倉庫に置いとこうと運び入れようとしたその時、出社したリリーさんと鉢合わせになる。


「あっ」


 大きな荷車を引いてる俺を明らかに怪訝な表情で見やる。


「おはようございますー」

「瑞樹さんそれ……」


 もたもたしていられない。挨拶をしてそそくさと運び入れる。


 ガタガタッ……ダンッ…


 リリーさんがこっちに来ようとする寸前に俺が倉庫から出る。

 そしてそばに寄り、後で後でと誤魔化してギルドの方へ誘導する。


「また何か危ないことを……」

「違う違う!」


 大きく手を振り、ちゃんと主任の許可も取ってあると告げる。



 部屋に戻って制服に着替え、朝8時に出社。ギリギリセーフ!

 主任は既に出社していたので事の次第をリリーさんから聞いていた模様。すぐに質問してきた。


「ミズキさん、肉あったんですか?」

「はい、残ってました」

「……でも腐ってるんじゃないんですか?」


 俺がしたり顔で指を倉庫の方に向け、見に行きましょうと誘う。

 そして主任は肉の状態を見て驚いた。

 それは腐るどころか新鮮そのもの、たった今倒してきたと言っても通用する状態だったからだ。


「ミズキさん、これ……」

「あー実はですね……状態を維持する『保存の魔法』がかかっています」

「は!?」

「詳しくは言えないけどそういう話なんです」


 主任は「どういう話なんだ?」とばかりに呆れていた。


「これもマグネル商会に売っぱらいましょう……主任、連絡お願いしまーす」


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― 新着の感想 ―
[一言] 今日も文学をありがとう。 保存の魔法を女性陣のお顔に掛けたら美容になるのだろうか。
[気になる点] なろう系テンプレライフ [一言] 情報学部の大学生らしさまだかな
[一言] 秘技なし崩しだw
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