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48話

「まあいっか。どうせ棚ぼた肉だ」


 下手な考え休むに似たりだ。諦めてとっとと解体開始だ。

 まずは魔法でパワーアップ。でなきゃ肉なんか切れやしない。


《剛力》


 とにかく真っ二つだ。まずはエラスモスの体の真ん中あたりに立つ。

 あばらとあばらの間を切るように(のこぎり)を構え、真っ白な脂身に乗せて一気に引く。

 するとどうだ――

 ベチョベチョっという音と共に全身に脂身のカスが降りかかりやがった。


「うっわ!」


 思わず目をつむり脂臭さを味わう。


「…………」


 辛さが一気に急上昇。

 一旦バックし、そしてしばし考える。


「……これ石弾ぶち込んじゃダメかな」


 いける気がしてきた。

 10メートルぐらい離れて大石弾、戦車砲を撃ち込んでみよう。

 とととその前に、犬達に肉から20メートルぐらい離れた位置に移動してもらう。


「お前達、えーっと……この辺に伏せ!」


 するとサッと立ち上がって指示されたところに二頭並んで伏せる。

 チビ達はわからず親についていき、向かい合うように伏せる。

 実に微笑ましい。


「ではいくぞ!」


 鋸を入れた辺りめがけて撃ち込む。


《詠唱、大石弾発射》


 刹那、スパンッと床をスリッパでぶっ叩いたような大きな音が響き、衝撃波で地面の草が揺れた。

 同時に肉壁を貫通、反対側も上手くあばら骨の間を通過し、石弾は遠方へ飛翔していった。

 だが貫通した場所は約1メートルの円錐状に肉が吹き飛んだ。

 その周辺は見るも無残にあばら骨が数本残る状態になってしまった……。


「「ワンワンワン(何々!?)」」

「「キャンキャン!!」」


 犬達も何事かと驚き咄嗟に起きて後ろへ離脱。

 チビ達も右往左往し、父ちゃんと母ちゃんのもとへ駆ける。


「ああああすまんすまん! 大丈夫だから! 安心しろ!」


 肉の惨状が目に入ったがまずは犬達をなだめよう。

 近くに駆け寄りしゃがむ。そしておいでと手を広げる。

 驚きすぎてしばらくうろうろしてたがやがて俺の元にやって来た。


「ゴメンゴメン、驚かせたな。もうやらないから」


 怖かったようで耳を伏せた顔をしてたので二頭を顔に寄せて撫でてやる。

 すると飛び散った肉を舐めるように俺の顔をペロペロした。


「ハハハ、肉の味がするだろ」


 チビ達も足元に来たので撫でて落ち着かせた。

 肉に目をやると、大穴ではなくえぐり取られたような感じに肉がなくなっていた。


「こりゃダメだ。肉自体が粉砕するんか」


 せっかくの肉をだいぶ無駄にしたなとがっくり肩を落とす。

 幸い肉の間をきれいに通過したからこの程度だが、あばら骨に当たってたら衝撃波で本体粉砕してたかもしれんな。

 仕方ないので素直に鋸で切ってくことにする。

 めんどくさい作業に思わずため息が出る。

 だがしなきゃ来た意味がない。自分の頭の中でやる気スイッチを入れる。


「これはA5松阪牛! めっちゃおいしい肉! 1キロうん万円! 頑張れ俺! やる気出せ!」


 グニョグニョ揺れる肉に必死で鋸を引く。

 横を切断したのち、土魔法で横向けにして背骨のところを地面から露出させる。

 見ると脂身に土が付いているが、草原のおかげでそこまで土だらけではなかった。

 そして皮を剥ぐときには気づかなかったが、背中側に出っ張った骨が結構デカくてびっくりした。


「これで背中がもっこりしてるのか……」


 脊髄の継ぎ目を狙って鋸を入れる……すると思ったより簡単に切れた。

 途端、重量で前と後ろが勢いよく離れたので飛びのく。


「おおぅ!」


 パカンと舟が真っ二つに折れたように見えた。

 骨自体は凄く硬そうだけど継ぎ目を狙って切っていけば解体はできそうだとわかりホッとする。


 そして次に足の切断に取り掛かる。

 俺の腰ぐらいまでの長さに丸太並みの太さ、踏まれたら西瓜潰すように頭パッカーンだな。

 爪も3つの奇蹄目、爪ッていうかもうこれ石だもんな……。コンコンと叩いて苦笑い。


 まずは右前足から。

 何となくこの辺りかな……って所を鉈でぶっ叩く。

 何度も叩いて関節を露出させ、継ぎ目に小型ナイフを突っ込んで鉈の棟でガンガン叩いて外す。


 メキリと音がしたと思うと関節が外れ、肉が繋がってるところでぶらんと下がる。

「これあと3回かー……」

 とりあえず1個外して休憩を取る。



 地べたに座って一服すると、犬達がすぐに寄って来て横に座る。


「お前ら家帰ってないのか?」


 多分母ちゃんの方が首を捻る。意味がわからないか。


「住んでる所、寝てる所に帰らないのか?」

「ワン(ここいる)」


 おそらく肉があるから帰らないという意味なんだろう。


「そうか」


 右手で頭をくしゃくしゃっとすると目を細めて喜んでる様子。

 するとそれを見た父ちゃんが左腿に頭を乗せ、俺も俺もと上目遣い。

 ふふっと笑って左手でくしゃくしゃする。

 子犬達も胡坐を組んでる俺の膝に前足を乗せてヘッヘッと期待してるような眼で俺を見る。

 右手と左手でそれぞれの頭を掴むように揉み揉みしてやると、にっと笑うような表情を見せた。

 その表情を見つつ、この世界の種族について思う。

 猫人はいたが猫はまだ見てない。犬は見たが犬人は見てない。猫と犬人もおるんだろうか……。



 一休みした後、残る3本の足を切り離す。

 終わると大体お昼になったので飯にする。


 だがここで問題発生、飯は俺の分しかない。当然飯を食おうとすると犬達がそばに来る。

 なのでグレートエラスモスの肉を切り取って彼らに渡す。


「一緒に食べよう」

「ワン(やったー)」


 俺の飯は前日に屋台で買っておいた『串焼き肉の葉っぱ巻き』だ。

 香辛料たっぷりなので犬達には無理だろう。知ってれば素焼きの肉でも持ってきたのだがな。

 だが犬達も生肉を喜んで食ってたので問題なさそうだ。

 高級肉らしいからな……味わって食うのだ。



 さて足を切り離した胴体をどうするか……掴むと簡単に動く。


 あれ!? 軽くなってるか?


 どうやら幅は広いが重量はそれほどでも無くなっている。

 つっても《剛力》あってのことだから本来は相当重いと思う。

 持ち上げようとすると脂身がぐちゃっとなって手が埋まる。

 だが抱えられない重さじゃなくなってる気がする。


 背負子を見る――壊れる気がするなー。

 切り落とした足に目がいく――先にこれ運んどいたほうが良さそうだ。


 さすがに移動で素っ裸は良くない。水魔法で水浴びをして体を洗おう。

 頭を上に向けて詠唱――


《詠唱、放水拡散発射》


 すると公園の噴水のように水が空に向けて散水される。

 少し散り過ぎなので威力を弱める……。


「ワフン!(遊ぶの?)」

「ワフーン!(遊ぶー!)」


 すると噴水の光景を目にして犬達がはしゃぎだした。そして俺の周りを駆け回る。

 チビ達はわけもわからず親犬についてピョンピョン跳ねる。


「いや……ちゃうちゃう! 違うんだが……」


 おでこ噴水のため、常時上を向いてないと水を被れない。

 首がめちゃくちゃしんどい状態で犬達が俺にしがみつく。


「いやいやお前達、体洗ってるだけ……ってお前達の毛も汚いな!」


 やむなく済ませ、親犬に向けて散水する。

 どうやらめちゃくちゃ楽しいようで、水から逃げようとするのを俺が追いかける。

 チビ達は逆に俺の足元に抱きつこうとする。


「ちょ……チビ、踏んじゃう! てコラお前ら逃げんな!」

「ヘッヘッ(アハハ!)」

「ハッハッ(フフフ!)」


 呼吸が笑い声に聞こえる。指輪の翻訳ホント凄いな。



 さてと、一時遊んでやってからぼちぼち運搬準備に取り掛かる。

 まず足1本を布でぐるぐるっと巻く。

 そして背負子に裸の肉を1つ、布で巻いたのを両腕で抱えて計2つ、まずは荷車のところへ運び出そう。

 それで運搬の所要時間もわかるはずだ。


「ちょっとこれ運ぶから待ってて……てか遊んでな」

「ワン(あいー)」

「ワフ(わかったー)」


 そう言って《剛力》《俊足》《跳躍》と3つ駆使して出立した。



 ――そして戻った。


 時刻を見ると14時。出たのが13時10分だ。

 包んだりする準備で10分、運び出しが30分、戻りが20分弱といったところか。


「……かかるなこれ」


 考えてる暇ないなとわかりすぐさま残る2本の足の運び出しにかかる。


 ――そして時刻は15時。移動2回で結構疲れた。


「うーむ……」


 正直もう肉見るのが嫌になってきている。だがもうひと踏ん張りしてみよう。

 2つに分けた胴体だが、やはりこのままでは背負子に積めないしおそらく壊れるだろう。

 できれば背骨とあばらを分けたいところだが、そんな時間はなさそうだ。

 なので半分をさらに半分にする。


「ぬぉおおおおおー」


 ――そして何とか4等分に成功。


 4等分の1つ、頭側のやつの背骨のところを布で巻いて背負子に乗せてみる。

 するとあばらが俺の前に両手を広げたような形に出っ張り、何かの兵器に見えなくもない。


「これ走れないな」


 前回の皮を運んだ時より難しい、慎重にバランス取らないと簡単にこけそう。


「これ4回……うん、絶対間に合わない」


 片道確実に1時間はかかりそう……1回で18時になってしまう。

 とにかく1回分を運んでみよう。それでどうするか考えることにする。

 犬達に待っててと声をかけて出立、彼らは黙って座って見ていた。



 ――そして戻ってきた。


 頑張った結果17時半。それでももう無理だ。

 解体で体力使ってる上に3回も行き来したらそりゃバテる。普通は軽トラで運搬するような距離だ。

 正直3度目の持ち運び時は「俺何やってんだろ……」って思ったもんな。


 ふと試しにヒールをかけてみたのだが、解体での疲れは多少和らぐ感じがする。

 だが移動の疲れは取れた気がしない。

 おそらく無酸素運動の疲れは軽減される。有酸素運動の疲れは取れないという感じか。

 持久力はちゃんと体を鍛えてないとダメってことらしい。


「絶対持久力回復系のヒールもあると思うんだがなー……」


 とにかくもう今日は運搬したくない……。


 大人しく伏せてる二頭と、その周りではしゃいでるチビ達を目にする。

 今日は帰宅する予定でいたのだが、犬達を見たら今日は野宿してもいいかなって気になった。

 肉も持ち帰れなかったしな。


 よし、野宿決定だ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] しっかり調べて書いているのか、bell氏の実体験かは知らないが、いちいち挙動が正確で細かいのである。今日も文学をありがとう。
[一言] こういうでかい獲物狩った時って普通はどうしてるんだろうなあ 換金率高いとこだけ持って帰るんだろか
[一言] めんどくさいからって砲撃w けっこう大雑把だなwww
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