45話
少し反省して大人しくする。
トルビスさんが鑑定の説明を終えたと会長に頷く。
すると会長が秘書のほうを向いた。
「それではうちの鑑定金額をお見せします」
カルミスさんが鞄から書類を取り出しテーブルに置く。
それを俺と主任が覗き込む――
「「大金貨18枚!」」
揃って声を上げた。
即座に頭が算盤をはじく。
ギルド長室での話では6枚だった……それの3倍、153万の3倍……約460万だ。
軽から乗用車へランクアップだ。
見ると主任も驚いている。
こんなに高いものだとは思ってなかったようだ。
「ちょ……冊子じゃ6枚でしたよね! 金額が3倍も違うじゃないですか!」
すぐに先日ギルド長室で話した『大金貨6枚』と全然違う結果に噛みつく。
そして冊子を手の甲でパンパンと叩いて文句を垂れる。
「これ古すぎじゃないですか?」
2人してトルビスさんを見やる。
すると彼は説明してくれた。
グレートエラスモスの今の時価は『大金貨10~12枚』だという。
今は冊子の倍ぐらいの値段になっている。
今回の値段上乗せの理由は当然、『大きな一頭丸々綺麗な状態』という非常にレアな状態だったからだ。
「私でなくても討伐を主としている冒険者は『倒し方を教えてくれ』と聞きに来るんじゃないですかね」
トルビスさんは笑みを浮かべる。
この素晴らしい倒し方に感心していた。
思わず口にしかける――もうギルドに押しかけてきたよ。あしらって追い返したけどな。
俺と主任が顔を見合わせると、お互い何となしにほくそ笑む。
ファーモス会長は俺たちの様子をじっと観察していた。
そして主任が口を開く。
「うちはこれで問題ないので買取はこの金額ということで――」
「いや……」
ファーモス会長が手で発言を遮る。
するとカルミスさんが書類をもう1枚取り出す。
会長に見せて彼が頷くとテーブルに置いた。
「こちらがうちの買取金額になります」
「「大金貨36枚!?」」
鑑定の倍の金額に、俺と主任はまた揃って声を上げ顔を見合わせる。
頭の中で『倍率ドン、さらに倍!』という何かの動画で観た台詞が流れた。
460万が倍の920万にアップ。乗用車が外車にランクアップだ。
その光景を見てファーモス会長はにやりとする。
「理由を聞いても?」
主任の発言に、会長はトルビスさんに目をやる。
彼は咳ばらいをすると、
「皮の大きさからおそらく『数点の揃い装備が作れる』のではないかと思います」
上から下までフルセット……とはいかないまでも、点数多いのが金額アップの理由だそうだ。
それを聞いて俺のゲーム脳が再起動する。
「それって同じ素材の部位で揃ってると、特殊効果が発動したりします?」
「ご存じなんですか?」
その発言にトルビスさんがおっという表情を見せた。
「いえ、何となくそう思ったので……」
もちろんゲームでの話だ。
「確か『マナ保持量が増す』『強度が増す』などの効果が付くと言われています。理由はよくわからないそうですが……」
「なるほど、『エンチャ装備のセット効果』というやつですね」
実際は魔法の付加効果ではなく素材の共鳴効果みたいな話だろう。
だがセットで強くなるという点は同じだ。
この世界の装備にもそういうのがあるんだなーと心が躍る。
だが俺の話す内容は誰も理解できない様子……まあ当然だな。
俺も主任も特に異存はないのでこれで決めようという目配せをする。
「じゃあこの金額で異存はないよ」
「それなんだがな……」
会長は申し訳なさそうに口を開く。
「あくまで『とりあえず』ということにしてくれ……」
「ん、どういうことだ!?」
トルビスさんがやや神妙な面持ちで話す。
「――あの角は専門の機関できちんと調べたほうがいいと思います」
どうやら角が尋常じゃない物のようだ。
グレートエラスモスの角は最大でも50センチが最上級らしい。
それも滅多にない。
ところが今回のは優に1メートルを超えている。
大きさも太さも尋常じゃない。
そして角は大きければ大きいほどマナの保有率?だか圧縮率?だかがすごいのだそうだ。
結論を言うと『角が大きすぎて真の価値がわからない』とのことだった。
マグネルではそういう詳細な鑑定はしていないしできない。
なので支払いは最上級扱いの値段でとりあえず了承してほしいとのことだ。
「いい値をつけると豪語しといてなんだが……どうだろう」
口ぶりだとよそに持っていかれるのは嫌だなという感じ。
でもあとで価値が上がればその分は払ってくれるのだろう――
払うよね?
トルビスさんも詳細は知りたい様子。まあ鑑定士だもんな。
「その……専門の機関というのは?」
「それなんですが、王都の知り合いにお願いすることを考えています」
トルビスさんの師匠が王宮の魔法研究部門にいるとのこと。
連絡を取って方針を尋ねるらしい。
「王都ですか……」
主任が俺のほうを向く。
どうするか俺に判断を委ねたようだ。
「いいんじゃないですか?」
「そうですね」
正直突き返されても困る。ティアラじゃどうしようもないしな。
調べてくれるというなら任せるだけだ。
俺が頷くと特に問題はないという事で『大金貨36枚』での売却が決まった。
話が終わり、主任が彼らを玄関まで見送る。
「タラン、今度また飲もうや!」
「そうだな」
お互いに握手を交わして彼らはティアラを後にした。
席に戻るとガランドがこちらを向いてどうだったかと尋ねる。
「いくらだって?」
ロックマンもレスリーも顔を上げ、手が空いてた女性陣もこちらを向く。
俺はにんまりしながら金額を告げる。
「大金貨36枚」
「「「36枚!」」」
「しぃぃぃ!!」
男衆が思わず声を上げたので、静かにと口に指を当てる。
女性陣は驚きの表情でお互いを見合っていた。
「すごいな!」
「うーんまあね……こんな金額だとは主任も思ってなかったようだし……」
「そうなんだ」
うちの算定金額が低かった話をすると、その差の大きさに驚いていた。
「それ瑞樹が全額貰うの?」
「いやいやいや、ちゃんとギルドの取り分入れますよ」
ロックマンの質問に大きく手を振る。
「そうなん?」
「あったり前ですよ!」
これはギルド経由の取引だからと理由を説明する。
詳しい話はまた後ほど……と告げると、皆よかったねと喜んでくれた。
少しこそばゆかったが、そのことが妙に暖かく感じられた。
そして今頃自分は気づいたらしい――
ああ……俺、生きて帰れてみんなの笑顔が見れたことがすごく嬉しかったんだな……と。
大金貨の数え方でご指摘がありましたので補足。
四進数というのは「硬貨の繰り上がりが四進数」という意味で、大金貨36枚はそのまま十進数の36枚です。
小銅貨56枚も十進数の56枚ですが、上位硬貨では「小銀貨3,大銅貨2」に変換されるという意味です。
瑞樹は十進数で数えますが、自動翻訳されるのでマルゼン王国は何進数で数えてるかはわかりません。
ただ彼らの使っている算盤の珠が10個なので十進数だろうと思われます。