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44話 マグネル商会

 マグネル商会――フランタ市に本店を置く商会。


 フランタ市を含むフランタン領に販売網を形成している多角経営企業だ。

 物品販売、飲食店、農場、工務店のオーナー様と思ってもらえればいい。

 企業規模でいうと『地方ローカル展開の企業』である。

 ローカルCMでおなじみ……というやつだ。

 ティアラにも人材派遣の依頼がときどきある。


 マルゼン王国では中堅どころで、堅実な商売と評判はいい。

 数年前に代替わりをして今は若社長が頑張っている。

 その若社長がタランと親しい。

 友人関係の意味での馴染みだ。


 タランはギルド長室で話が済んだ後、すぐに手紙を出した。

 するとその日の晩に時間が取れると返事をいただいた。

 早速グレートエラスモスの皮と頭についての話をしにマグネル商会へ伺った。


 コンッコンッ


「はい」

「ティアラ冒険者ギルドのタラン様がお見えになりました」

「通してくれ」


 部屋に入ると机から恰幅のいい男が立ち上がる。


「いよぉタラン、調子はどうだ!」

「相変わらず声がデカいな、ファーモス」


 明朗闊達な性格の彼――マグネル商会2代目、ファーモス会長である。

 彼は威勢のいい声で出迎える。


 タランは早速うちが手に入れたグレートエラスモスの皮と頭についての話をした。


「その噂はうちのもんが店に来た冒険者から聞いて知ってる、でどうするんだ?」

「うん、うちの考えでは商業ギルドでオークションでも開いてもらって……という感じなんだが……」

「おいおいおい…そんなことしなくてもうちに売れよ! いい値で買うぞ!」

「そう言ってくれると思ってな」


 ファーモスの快諾に思わず顔が緩む。


 タランがここに持ってきた理由は『早く穏便に事が済む』からだ。

 噂では『どこぞの冒険者が倒してティアラに任せた』という話になっている。

 オークションするにしろ他の商会に売るにしろ、いろいろ詮索されては困る。


 うちに素材があるのは知られている。

 時間が経つと次々に各商会が売ってくれと来るだろう。


 だが早々にここに話を持ってけば「もうマグネルが買ったので……」と言えば済む。

 友人のファーモスならその辺の事情は汲んでくれる。

 そして情報を漏らすこともない。

 彼は「話せない」と言えば「わかった」で済む男なのだ。


「いろいろ事情があって話せないんだがそれでもいいか?」

「俺にも内緒か…まあティアラに持ち込まれる時点で普通じゃないしな。何かあるだろうなとは思うさ」

「助かる」


 しばらく最近のお互いの仕事の話をした後、明日の夕方に商会が取りに行くという段取りで話は終わった。


 ◆ ◆ ◆


 そして5日後、マグネル商会の面々がティアラに到着した。

 素材の買取査定が完了したのでその報告と、売買契約の締結のためである。

 来店したのはファーモス会長、秘書のカルミス、鑑定士のトルビスの3人。


 主任は彼らに挨拶をして俺を呼ぶ。


「今回うちの新人も同席させます。とても有能なので勉強させてやってください」

「御手洗瑞樹です。よろしくお願いします」


 主任は皆を奥の談話室に案内した。


 席に着くとファーモス会長が今回の鑑定をした人物の紹介をする。


「うちの鑑定士のトルビスだ」

「トルビスです。よろしく」


 マグネル商会の先代社長の頃から勤めてる40代のベテラン鑑定士だ。


「ティアラ冒険者ギルドのタランです。この度はお手数をおかけしました」

「いえいえ。私としても久しぶりに面白い素材を鑑定できましたので……」


 ドアが開き、リリーさんがお茶を運んできた。


 説明はトルビスさんが行う。


「早速ですが、鑑定結果をお見せします」


 秘書のカルミスさんが数枚の書類をこちらに渡す。

 だが俺はおっさん2人より、秘書のカルミスさんに気を取られていた。


 ショートボブのブロンドが素敵な女性で、ティアラの受付嬢達にも負けず美しい。

 年齢的にはリリーさんと同じぐらいに見える。20代前半だろうか。


 書類を渡される際、前かがみになった姿勢の胸元に目がいった。

 思わず目を伏せる。

 主任が書類を受け取ると、俺も慌てて覗き込んだ。

 そして写しを見ながらトルビスさんが説明を始めた。


 まずグレートエラスモスは、魔獣の素材として評価が高い。


 素材にマナの保有量がとても多く、皮の硬質性が非常に優秀、そして肉の味がよい点だ。

 頭についてた肉の状態から討伐して2日も経っていないだろうという点も良かった。

 皮をなめす加工は早いほうがいいらしい。


 そして今回評価が一番高かった点――


『皮に傷一つなかった』ことだ。


「今まで長いこと大型獣の素材鑑定をしてきましたが、ここまで綺麗な状態なのは初めて見ました。どうやって倒したのかが想像できません」

「普通はどういう状態なんです?」


 俺が素人っぽく尋ねる。

 すると彼は端的に説明してくれた。


 大型獣の倒し方は、罠を仕掛けてそこへ誘導し、大勢で袋叩きにするというのが一般的な手法である。

 漫画みたく大剣で一撃必殺とか魔法で瞬殺とかではない。


 そしてグレートエラスモスは異常に表皮が固い魔獣。

 ボコボコにしたり刺しまくったりするので討伐後の皮はズタボロだ。

 それがまっさらな一枚皮で持ち込まれたわけだ。

 正直目を疑ったという。


「あの……基本的なこと聞いていいですか?」

「はい?」

「……魔獣の素材ってそもそも何が良くて何に使うんです?」


 トルビスさんはしばし沈黙する。

 おそらくド素人かよと思ったに違いない。

 まあ実際そうなのだから仕方ない。


 彼は会長に目をやる。

 頷いたので説明してくれた。


 利点は『自分の最大マナ量が増える』装備品が作れることだ。


 魔法を使う職種はもちろん垂涎の装備品。

 角は加工しなくても持っているだけでものすごく使用マナが増えるそうだ。


 いやまあ……あのデカい角を背負って戦うとかはできないがな……。


 そしてグレートエラスモスの皮は、金属の鎧に匹敵する強度で軽いものが作れる。

 マナも豊富なので身体強化術を会得した戦闘職にもぴったり。


 ただし一点ものなので当然とてもお高い。

 なので購入するとしても、一流の討伐専門の冒険者だそうだ。


 そして肉もマナ保有量が多い。


『食べるとマナの回復が早くなる』という効果があるのだそうだ。


 途端、俺のゲーム脳がはしゃぎだした。


「あーあれか、マナ増える装備品……底上げして詠唱回数増やせたりデカい魔法撃てるようになるやつ。ゲームまんまですね」


 皆キョトンとするが止まらない。


「あと料理して食べるとマナ回復量アップとか……ゲームでレシピありました。戦闘前に食ってバフアップ……効果時間1時間とかかなー」

「ダメージアップ……CD(シーディー)短縮……はエンチャか。あ、付加効果とかあります?」


 ちなみにCDとはクールダウンの略、『次の魔法が撃てるようになるまでの待機時間』という意味。


「……付加効果……とは?」

「たとえば、魔法の威力がアップするとか、防具は火の耐性が付くとか、要はエンチャント――あー魔法を追加して装備を強化できるか……みたいな話です」


 トルビスさんは少し考え込んだ。


「『魔装具』とかのことでしょうか?」


 思わず指をパチンと鳴らす。


「おおーそれっぽい名前……あるんだ。魔装具ってのが」

「あ、いや……」


 自分は素材鑑定が専門なので魔法に関する知識はあまりないとのこと。

 魔装具についても見たことはあるが、価値については専門外だという。


「なるほど、変な話してすみませんでした」


 主任は俺を見ながら少し楽しそう。

 だがちらっと目にした会長は少し険しい顔つきをしていた。


 どうやら新人のくせに調子に乗りすぎたようだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 後ろ足だけでも確保しとけば良かったな 今まさに魔力豊富な肉を食っているであろう狼親子は強化されているのだろうな
[一言] 肉の味良かったのかー そんな事言われたら少しは持ち帰っておけばって思っちゃいますねえ
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