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42話

 少し考えて、鑑定だけ他に頼むという案を思いつく。


「ヨムヨムの鑑定職員に頼んで鑑定してもらい手間賃を払うっては?」


 その言葉で主任は何か思い出したみたい。


「ヨムヨムには以前うちに勤めていた人物が鑑定主任をしているはずなので、頼めば受けてくれるかもしれません」

「へぇ……」

「まあ……そうですね。聞くだけ聞いてみるのはいいかもしれません」


 うちの元職員がよそのギルドにいるのか。

 だが何となく歯切れが悪い。

 やはり他店に頼るのは気が進まないのか、それともその元職の人と何かあったのかもしれない。


 ならば別案を考えよう。

 ふとネットでたまに見る、骨董品の売買などの記事が頭に浮かんだ。


「あっオークション! オークションってのはどうです? オークションわかります?」


 主任はあると頷いた。

 意味は通じたし取引自体もあるようだ。


 オークションは商業ギルドにお願いすれば扱ってくれるとのこと。

 ただし日数がかかる。

 そしてそれなりの価値あるものに限られる。

 まあグレートエラスモスの素材なら問題はないだろう。


「競り落とされた値段からティアラの手間賃引いて、残りを私が貰えばいいかと。要はよそに丸投げです」


 主任は何か考え込んでる様子。

 それをギルド長はじっと見つめている。


 俺は決断を促しやすいように追加で口添えする。


「私は別にすぐ金が欲しいとかそういう気はないので、とっとと商業ギルドに投げたほうが楽かなと思いますけどね。買う人いなきゃうちの倉庫の肥やしにしときゃいいですし」


 ギルド長が薄笑いを浮かべる。


「ずいぶん気前がいいな」

「正直価値がわかんないだけですよ。そのグレートなんちゃらがどんな奴か知らないですし」

「知らずに戦ったのか」

「不意を突かれて逃げられなかっただけです。両足首折られましたから……あっ!」


「「両足折られたぁあ!?」」


 思わず口を滑らしてしまった。

 ギルド長は驚いて体を起こし、主任は目を飛び出さんばかりに驚いている。

 俺はしまったという表情で小さく頷く。


「両足折られて勝ったのか!」

「……はい」


 主任は俺の足を見る。


「え? でも歩いてますよね?」

「はい。自分で治しました……あっ!」


「「自分で治したぁあ!?」」


 ヒールが使えることも言ってしまった。

 ギルド長は机に手をついて立ち上がり俺の足を見る。

 主任は俺の足を見て固まっている。


「試してなかったんですが、うまくいってよかったです」


 聖職者の治療の様子をスマホで撮影して覚えたと説明する。

 まあ当然理解されないな……。


 もはや呆れてものも言えない様子……毎度毎度聞く話が突拍子すぎるようだ。


「治せなかったら森から帰れずに死んでましたね、ハハハ」


 2人して俺をじろっと睨む。

 今の軽口にはさすがによろしくなかった。

 怖い顔に恐縮する。


 主任が場を収める意味で、俺にある案を提示する。


「今日明日にでも私の友人に相談しに行ってみます」

「どなたです?」

「『マグネル商会』の会長です」


 するとギルド長はピンときて眉が動く。


「マグネル……そういやタランはファーモスと馴染みだったな」

「ええ」


 話が見えないが、素材を扱う商会に知り合いがいるようだ。


「オークションの件も含め、素材の売買について相談してみようと思います」

「わかりました」


 先ほどのヨムヨムへ頼むと言ったときより表情が明るいのがわかる。

 おそらくこちらが頼みやすいのだろう。

 まあ急ぐこともないので任せることにする。



 ギルド長室を退出し、席に戻ると主任に尋ねる。


「そういえば主任、グレートエラスモスについて詳しいんですか?」

「いやそれほどでも。何でです?」

「最初聞いた時、グレートついてないやつのこと言ったじゃないですか」

「ああ」


 主任は思い出した様子で軽く口を尖らせる。


「グレートエラスモスは魔獣で、エラスモスはただの獣です」

「魔獣!」


 これまたゲーム脳が反応する。とても強そうな翻訳だ。


 主任によると、獣の特殊個体が魔獣だという。

 生まれたときに魔獣だったり、成長して突然魔獣になるなど、いくつかパターンがあるらしい。

 そして魔獣の多くは群れからはぐれて単独行動になるらしい。

 俺はそのタイプに出くわしたのだろう。


「魔獣と獣の違いは?」

「魔獣は魔法を使います」

「は!?」

「魔獣は獣に比べて力や能力が桁違いに違います。それは魔法のせいだと言われています」


 いきなり凄い情報がさらっと出てきた。

 獣のくせに魔法を使うだと!


 どうも魔獣も魔法らしきものを使い、能力アップとかするらしい。

 人間が使う『身体強化術』に近いものを会得しているんだろうという結論に至っている。


「ああそれでか」

「ん?」

「あいつ異常に足が速かったんです。それで避けきれなくて」

「ふむ」

「あとこっちの状況とか観察して行動してましたしね。知能も高そうでしたし、舐められましたよ」

「それは怖いですね」


 獣が人並みの知能を持っているというのは正直恐ろしい。

 よくよく生きてたのが奇跡だったんだなと痛感した。


「あ、あと肉のこと聞いたじゃないですか。肉も価値あるんですか?」

「魔獣の肉は高級品です。詳しくないですが味以外に効果があるとか……」

「効果!?」

「あとエラスモスは草食獣なので旨いそうです」

「あーやっぱり旨いのかー。そんな気はしてた」

「でも持ち帰れなかったんじゃしょうがないでしょ」

「まあそうなんですけど……」


 席に戻るとすぐに肉のことが頭に浮かんだ。


「肉込みなら金額もうちょい上乗せできるな……」


 金額はじき出したせいで欲が出た。

 そして肉に思いを巡らせると、確認したいことが浮かんだ。


 それは『保存の魔法』による肉の状態だ。


 次の日に解体に行ったとき肉は温かった。

 それは魔法によるものだろうか……。

 倒した動物は1日ぐらい温かいのかもしれない。狩猟したことないのでわからない。


 だが数日経てば話は違う。

 冷たいだろうし、どうなっているかも見られる。


 まず魔法が効いてるかどうかの確認、保存が効くというのはどういう状態なのか――

 それが確認できるいい機会だと思う。


「あっ」


 よく考えたら他の獣に食われてる可能性が高いな。

 犬の親子のそばに置いてきたし。

 まあそれはそれで仕方がない……だが見に行く価値はある。

 それに保存状態によっては回収もできるかもしれない。


 理由は『エルフの身体強化術』で移動がかなり楽だったことだ。


 皮を背負っての帰りはだいぶ時間がかかった。

 だがあれは荷物のバランスが悪かったせいである。


 あの皮と角付き頭が運べたのだから、肉も担いで運べると思う。

 迷ってたどり着けないかと思っていたが案外経路を覚えてた。

 次はもっと確実だろう。


 それに次は襲われることはないはずだ。『探知の魔法』も使い方がわかったし。


 となると次の休み――6日後ぐらいになるか。


「ふむ……」


 どうしても確認したい好奇心が湧き上がる。

 ということでもう一回行ってみる計画を立てることにした。

 もちろん今度は主任に一言告げてから行く。

 怒られるかもしれないがな……。


「さてと……」


 積んである書類束を手に取ると、いきなり店内がざわついた。


 何事かと目をやる。

 入口に見えたシルエットに思わず笑みがこぼれる。


 猫人行商人の親子、ルーミルとラッチェルの来店だ。


いつもお読みいただきありがとうございます。

とてもモチベアップになっております。

今後も頑張りますのでブックマーク、評価を5つ星をぜひよろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 今日も文学をありがとう。 [一言] 瑞樹君、仲間内だと嘘のつけない人である。
[一言] 口を滑らせるのを早めに治さんと厄介事にドンドン巻き込まれそうだなあ
[一言] 森の中に置いた肉なんて消えるでしょ
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