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36話

 どれくらい時間が経ったのだろう――

 一時泣きじゃくったらすっきりした。

 だが途端、現状を思い出させるように疲労と激痛が襲う。


「あーくっそ痛ぇー!」


 動くのもだるい。

 この馬鹿でかサイ野郎におでこをくっつけた姿勢でしばらく脱力していた。


 だがいつまでもこうもしてられない……そろそろ移動しよう。


 ペタンと女の子座りの状態。

 まず『水の魔法』でおでこから水を出して掌に溜める。

 その水でぐしゃぐしゃに泣いた顔を洗う。


 そうそう鎮痛剤持ってるんだった。これも先に飲んでおく。


「うしっ!」


 そして体の向きを変えようとしたら、下半身が動かずそのまま横に倒れた。


「うわっ!」


 驚いて足を見る。


 両足首骨折。

 両ひざはズボンに血が滲んでて擦り傷打撲状態だ。


 もう腰から下が、ぶわんぶわんしている感覚に襲われててよくわからない。

 わからないくせに痛いのはわかる。

 でも幸い上半身は怪我もなく両腕も動かせる。

 とりあえずこのデカブツのそばにはいたくないので離れよう。


 腰のウエストポーチをぐるっと背中に回す。

 腕しか動かない状態だ。

 腹ばいになって、肘を交互に出して前進する。


 匍匐(ほふく)前進だな。肘使うのって第四だっけか……。

 あーでもあれでも足は使ってたな。腕だけ匍匐はつらい。


 そこそこ離れ、疲れて突っ伏す。

 ここは森の奥深くで助けも呼べない、場所もわかりゃしない。

 このまま寝落ちしたかった。


 だが激痛がそれを許さない。

 これを何とか治さなければならない。

 となると思いつく案は一つしかない。


 ――『治癒魔法』だ。


 だが一度も使ったことがない。発動するか確認してないのだ。

 聖職者のお姉さんが使用してたのを録画したのだが、その後使用する機会がなかったのだ。

 こんな事なら覚悟決めて指切って試しときゃよかった。


 だが今更いうてもしょうがない。


「詠唱は大丈夫、憶えてる。おそらく無詠唱でもいけるだろうがここは慎重に詠唱しよう」


 仰向けになり、まず発動するかを確認する。


《詠唱、ヒール》


 おでこに目をやる。

 何となく光ってる。


「よし、短縮での発動確認! やっぱり魔法だこれ。あとはこれで自分を治療できるかだ」


 体を起こす。

 そしてまず体育座り……ができない。


 手で足を抱えて起こし膝を立てる。

 ズボンの裾をまくり上げ、膝を露出させる。


「うっ……」


 膝の皮がベロンとずるむけていた……。

 思わず目をつむる。

 そのままおでこを膝に当てて詠唱する。


 効いてくれと願いながら……。


 ――どうだ!?


 十数秒後、光が消える。

 目を開けると、血はついてるがずるむけては治っている様子。

 静かにスリスリしてみる。


「――うん……綺麗になっとるな!」


 治療の成功を確認した。


「いよっしゃあああああ治せるうぅうううう!」


 自分にも治癒が効くことを確認した。

 改めて傷が消えたことに驚き、そして嬉しさがこみ上げる。


「よし、じゃあ続いて足首……うっ!」


 だがここで問題発生――おでこが足首に届かない。

 体が硬い……足をおでこまであげられない。


「いやそもそも中国雑技団でもなきゃあげられないっしょ」


 自分の体の硬さに文句を垂れる。


「どうしよう……これじゃ治せない」


 左足の激痛がひどくなる。

 そして右足も何となく痛くなってきたような気がしてきた。


 膝立ち歩きで街まで戻るか……いやさすがに無理がある。


 現在地がどこかわからない。

 一度ジャンプして確認する必要がある。


 しばし膝を抱えて途方に暮れる……そしてまた涙が滲む。

 すぐ泣いちゃうな俺。

 何かいいアイデアないかと今日の出来事を思い返す――


 そういや今日、水の魔法や風の魔法で威力調節ができたな。


「治癒魔法も大とかねーのかな。体全体をヒールする的なやつ」


 ゲームではある。

 詠唱長いとか、マナ凄く使うとかでHPがっつり戻すやつだ。


「おそらく威力のパラメーターは水とかと同じだろう。違ってもこれを試すしかもう方法ないしな」


 やるだけやってみよう。

 体育座りで体をさらにギュッと縮め、なるべく効果範囲を少ないようにする。

 そして治癒魔法の詠唱を開始。


《詠唱、大ヒール》


 するとおでこが今までの光より大きな感じがした。

 そして体全体に効果が行き届いてるような気がした。


 ――足首が勝手に動いてる気がする。見えてないけど結構怖い。だがおそらく治療している。


 そして十数秒後、光が消えた。


 そっと両足首を見てみる。

 ぶらぶらしてた右足は正常に戻ってた。


「ふぉお……やった……やったあああ……いいいぃよっしゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 大ヒールが成功した。

 左足首も、触ると熱を持ってて痛みはするが、こちらも治ってる感じだ。

 全身の傷が一発で治ったようだ。


「やったやった! 治った治ったあああああ!」


 嬉しすぎて思わず拳を握り締める。

 そして慎重にゆっくり立ち上がる。

 足首がくにゃっとなってこけることもなくしっかり立てた。


「うおおお!」


 静かに屈伸……よし大丈夫。

 そして歩く。

 アキレス腱も伸ばし、動作による痛みはないことを確認。


「よし、問題ないっぽい。すげえな!!」


 改めて治癒魔法のすごさを実感する。

 ホントに全快してしまった。

 腰を下ろしてホッとする。


「いやあ詰んだと思った……ヒール録画できてなかったらここで死んでたな」


 大きく深呼吸する。

 安心から一気に脱力感が襲う。


「そういう意味では襲撃食らったのも運命だったのかもな。ハハハ」


 襲撃事件を都合のいいように解釈して助かった喜びを噛みしめていた。

 そして大事なことを思い出す。


「ととと…そうそうスマホは無事か?」


 背中に回したウエストポーチを腰前に戻してスマホを取り出す。


 電源ボタンを押す――点いた!


「よかったー。ガラスが割れたりもしてないみたい。これも今後気をつけんといかんなー」


 アウトドア仕様のスマホというわけではないからな。

 何か強度の強い入れ物を探す必要がある。


「出かけるたびに耐ショック気にせんといかんってのも何だかなー」


 2度出かけて2度襲撃に遭っている……遭遇率100パーセントである。


 腰を下ろして再び体育座り。

 膝を抱えてしばらくぼーっとした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 異世界に行ったとき用にCAT社のすさまじい硬いスマホを!用意…できるかぁい!(実在)(ただしOSめっちゃ古いのでもはや使い物にならない。)
[一言] 骨折を即時で治療出来るとはなあ これも翻訳で正確に発動してるおかげなんですかねえ?
[一言] はやくおでこしばり脱しないかなあ?読んでてもどかしい。
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