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35話

「な……あれ効かねーのかよ! ふざけんなっ!」


 俺様の戦車砲が敵の傾斜装甲に見事に弾かれた。

 奴は一瞬止まったが、何事もなかったように再び突進体勢をとる。


 石弾がダメなら逃げるしかない。


 左に俺が来た森が約200メートル先にある。

 あの中に逃げ込めば奴の突進は避けられるかもしれない。


 魔法を使おう――


《跳躍》


 魔法発動で左足だけでジャンプ。


「よし、1回で10メートルは跳べてる。いけるいける」


 両手と左足の三点支持で逃走開始――カエル飛びだ。


 すると奴が2回足を蹴り上げ再び突進。

 俺を追尾するように緩やかな弧を描いて迫る。


 タッタッタッダダダダダッ


 奴が迫る音がする――――後ろを見る。

 もう目の前にいた!

 咄嗟左に跳ねる――


 カスッン


 左足が奴の体に接触。

 反動で体がコマのように回転して地面に投げ出された。


「あ……あっぶねええええ。《跳躍》かかってなかったら体ごと撥ねられてた!」


 急ぎ上体を起こして立とうとする――


「うわっ!?」


 だが左足に力が入らず再び転倒する。

 見ると痛みがないが足首から下がぶらんぶらんしている。


「んなっ! 折れてるぅううううううううう!」


 かすった勢いが強すぎて足首を持っていかれてた。


 両足首骨折――かなり絶望的な状況だ。


 奴は突進が終わって後ろ向き状態。

 ラストに向けてこちらに体を向けようとしているところだ。


「くそっ!」


 森まで約30メートルぐらい。

 足が無事なら跳躍3回で森へ入り、木の上へ逃げれば回避できる。


 だがもう動けない。


 奴が体勢を立て直すとすぐさま突進――


 かと思いきや来ない!


 50メートルの距離を保ったままスタスタッと半円を描いて移動。

 再び俺の後ろに森がある位置取りを取った。


 背後に森というのは俺が逃げやすい位置取り――

 何だ!?

 その動きにどういう意図があるのだろう……。


 首をクイックイッっと左右に振ったかと思うとこちらを一睨み。

 気のせいか笑っているようにも見える。


 あ……これあれか!?


 強者が弱者を上から見下す目線。

 どうも「頑張って逃げてみせろよ!」と煽っているらしい。

 それで理解した。


「こいつ俺が動けないのわかってんな!」


 哀れに這いつくばって逃げようとするのを吹っ飛ばして笑おうって魂胆だ。

 知能が高いのだろうか、それともそういう習性なのだろうか。

 奴の態度にむかっ腹が立った。畜生のくせに生意気な。


 怒りゲージが溜まる。

 痛さも感じないし恐怖もなくなった。

 ムカ着火ファイヤーだ……こちらも煽ってやんよ。


「来いよサイ野郎! 角なんか捨ててかかってこいッ!!」


 敵を煽るにはこのお約束の台詞が一番効果的だ。


 俺は膝立ち状態で両手を広げる。

 奴の突進を受け止めてやるぜという意思表示だ。


 奴は小馬鹿にするようにブフッと鼻を鳴らした後、右足を2回蹴り突進を開始!


 すぐさま俺は地面に伏せる。

 そして体をなるべく小さく丸めた。


 タッタッ――


 突進と同時に魔法唱える――


《詠唱、土下げ》


 すぐ体を横に寝せる。

 駆け足の音は目の前……と思った刹那、俺のいた場所に奴のぶっとい角がメリッと音を立てて着地。


 次の瞬間――奴の体が宙を飛んでく風切り音がした。


 ブゥン―――――フゥン―――――――ズガァアアアン!


 すさまじい衝撃音が響き渡る。


 やったか!?


 俺は体を起こし振り返る。

 見ると奴が太い広葉樹の根元に張り付いている。

 どうやらその巨体が縦回転に吹っ飛び、森の一番手前にある木に腹から激突してそのままずり落ちたようだ。

 その姿を目にして喜びが込み上がる。


「――――よっしゃああああああああああ!」


 奴への対抗策――突進に合わせて『土の魔法』を詠唱。俺の手前の土1メートル四方を下げたのだ。


 突進時の奴の足跡を見て歩幅は小さいことは確認していた。

 なので俺の手前の土を下げると、前足を踏み外して体が前のめり、俺の手前で頭が地面に釣っかかってそのまま弧を描いて飛んでくと考えた。


 おそらく誰もが経験あるはず――


『階段降りてて床だと思ったらもう一段下で、空を蹴って体が前に吹っ飛ぶ』


 あれを狙った。

 角が横に見えたときは失敗かと思ったがむしろそれが正解!

 鼻っ柱がギリギリ穴の境目に突っかかり、反った角が()()の原理で体に遠心力を与えそのまま空中へ投げ出したようだ。


 奴の角で凹んでる地面に目をやる。

 横に避けなかったら角で圧殺されていた。

 よく避けれたと自分でも感心する。

 かなりの博打(ばくち)だった。


 ――役に立たないと思っていた『土の魔法』で助かったのだ!


 奴は動きが止まっている。

 だがまだ死んではいない模様。

 すぐ動き出すかもしれない……急いで止めを刺さねば!

 おれは膝立ち状態で奴に向かう――


 だが足が動かない! 何で!?


 気づくと手が震えてる……。


 怖かったのだ!

 奴が動けなくなったことに心が安堵してしまい、襲われた恐怖で体が固まっている。


 ビビってしまってる!

 一気に涙が溢れ、太腿を拳で叩く。


「んんんんんんんん!!」


 足を掴んで無理やり引き出す。


 するとゆっくりだが歩み出した。

 急げ急げ!

 奴が動き出すかもしれない。

 どうするか――


 そうだ魔法だ。


《俊足》


 エルフの身体強化術の足が速くなる魔法を使用する。


 すると膝立ち歩行のスピードが上がり、普通の駆け足並みなっている。

 まるで『松の廊下を長袴履いてダッシュ』している見た目だろう。


「よしいけるいける、急げ急げ」


 ズボンは普通の布地、膝立ちで走ると擦れて痛い。

 だが死ぬか生きるかの瀬戸際だ。必死で奴のところへ急ぐ。


 ドフゥードフゥー


 まだ呼吸音がする。

 その重量が猛スピードで木に激突したのだ。内臓ぐらいはやられてるだろうか。


 まあいいさ、どうせお前はここで終いだ。


 奴に両手をついて、おでこをくっつける。


 ――『雷の魔法』だ。


《詠唱、最大雷》


 怒りにまかせて雷の魔法にも大きさのパラメーターをつけて発動!

 するとババババッと、ものすごい音と共に奴の体が揺れる。

 そして奴は動かなくなった。

 動くものはなく、俺の激しい呼吸音だけがしている。


「あは……ああは……はっ…はあっ」


 終わった――


「あう……ううう……うぅぅうわぁぁぁああああああああ」


 涙が止まらない。

 天を見上げて大声で泣きじゃくる。

 緊張の糸が切れて感情が爆発する。


 もう死ぬと思った……森の中で誰にも知られずひっそりと――


 それがとても……とても怖かった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 確か鎮痛剤も買い込んでましたっけ?早速効果が確認できますね。 ……こいつを持ち帰るとたぶんお金になるのですけど、流石に無理ですかね。
[良い点] 命ギリギリの戦闘の描写が上手い。止めもちゃんと刺している。ちゃんとしていますね。(某管槍使い) さてはて、折れた両足は回復魔法の実地試験になるのかな。明日が楽しみな文学をありがとう。 […
[一言] なんとか倒せたもののこのままじゃ死にますわなあ どうしたもんか
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