34話 魔獣と遭遇、そして戦闘
時刻は14時前。
魔法の練習は今日のところはこの辺にしとこう。
さて、森へ来た理由はもう一つある。
それが『薬草の採取』だ。
いや何かこの世界、普通に山や森に入って食料調達が行われている。
もちろん穀物生産は当然ある。
麦、豆、野菜、果樹などは市場で売られている。
だが薬草は栽培されていない。
あと肉も狩猟だ。
いやあるのかもしれないがこの街では聞かない。
天然のものを取ってくるのが基本らしい。
ギルドに就職してから冒険者向けに定期的に行われる講習がある。
薬草採取のコツを教わったり、この辺りの地形の情報、魔物や魔獣の報告例、食料となる獣のいる地域の情報提供だ。
ギルドとしても冒険者を放って空振りでは困るのだ。
俺も冒険者に交じって講習を受けた。
職員がちょこんと座ってて珍しがられた。
とはいえ元々学生だからな。学ぶことは大事だ。
ということで、この辺りに生えてるだろう山菜や薬草をゲットだ!
――なんてそんな甘くはなかった!
全然見つからない……というより全部ただの草にしか見えない。
「これお話にならないぞ」
そりゃ当然か。
いきなり素人が山歩きして野草取ってこいと言われてもできるほど甘くはないってことだ。
一応準備としてスマホで絵の写真も撮ったし買取の手伝いもしたのだがな……。
「漫画みたいにゃいかねえか……『鑑定の魔法』とか欲しいなあ」
ゲームは道端に名前付きで薬草が生えてるからな。ゲーム脳が激しく悔しがる。
せっかく森へ来たのだ。何かしら見つけるべく頑張ろう。
地形は比較的歩きやすい。
なだらかな丘だったり平坦な森が続いてる。
だが切り株のあった地域はとっくに過ぎ、森の奥の方へ進んでいることに気づかなかった。
下ばかり見て歩いていたせいだ。
森が途切れ、草原地帯に出る。
「おっ? 何かいい感じの場所だ」
川はないが雰囲気的には河原を思い浮かばせる。
遠足やピクニックで弁当広げてのんびりするにはうってつけって感じだ。
正面には草花があちこちに見え、右手は俺の背丈ぐらいの高い草が生い茂っている。
そして左手ずっと先に枯れた川のような石だらけの地面、その先がまた草原だ。
「なるほどな、こういうところに生えてるのだろうな」
基本的に探し方を間違えてたのだな……と勝手に解釈。
浮かれ気分で辺りを散策する。
それっぽい花や草を目にしては、お目当ての薬草はないか探した。
何となくそれっぽい草の群生を目にして歩み寄ろうとしたその時――
ブゥン――
何かの物体が右から左に目の前を横切った。
突然の風切り音に驚く。
立ち止まって反射的に飛んでった方へ目をやる。
――――ドサッ
それは真っ黒に汚れたモップの塊のような物体。
20メートルぐらい先まで飛んでいた。
「え…何?」
ドッドッドッドスッドスッ――
間髪を容れずに右の方から何かが近づく足音が聞こえてくる。
だが生い茂った草で見えない。
瞬時に嫌な予感が襲う。
だが時既に遅かった。
奴は茂みからヌッと姿を現した。
何だこれ!?
四足動物だと認識する以前に目に映ったのは――
巨大な……柱……鉄骨……それ角なのか!!
正面から見たら『ミニ油圧ショベルのアーム』と見間違うほど角がデカい。
幅広で反り返った太い角、その横につぶらな瞳――だがそれは怒りに満ちて真っ赤っかだ。
そして三角頭に付いてる可愛らしい耳、体表は灰色で鎧のようだ。
角と体表の色だけで知ってる動物の名前が瞬時に浮かんだ。
――サイだ!
いやでもサイじゃない! 角が全然違う!
こんなデカい角見たことない。
地球上の生物で思い浮かばない。
それに角の色がおかしい……黒褐色だ。
そんな色の角など知らない。
しかも反りかえってて先が背丈超えてて見えない。それじゃ刺せないだろ!
サイの角は白っぽくて短かったはず……爪と成分一緒なんだっけ。
いやそんなことはどうでもいい!
あれはどう見ても黒曜石の色合い……ゲームで知ってる。とても硬いやつだ。
そしてデカいデカい!
体長が軽自動車ぐらいある。
それがゼロヨンスタート決めようとアクセル全開で待ってる感じ。
めちゃくちゃ興奮状態だ。
――えっ!? これもう敵対認定されてんの!?
そう思った矢先、奴は俺に正対し頭をちょいと下げた。
そして助走準備か――右前足を2回ほどタッタッと蹴り上げると躊躇なく突進。
「なっ!?」
不思議と体が咄嗟に反応、左に跳んで回避――――だが距離が近かった。
カンッ
脳に響く音がしたかと思うと右足が奴の角に撥ねられくるぶしに激痛が走る。
「ッテェエエエ!」
痛みに耐えて振り向く。
奴は何と50メートル先ぐらいまで行っていた。
速い! 動物の動きじゃない。
いくら何でも車でダッシュするスピードにはならんだろ。
急いで立とうとする。
「ああああああくそうっ!!」
だが右足が激痛で立てない。
おそらく骨がヒビか骨折している。
「んにゃろう! 何の躊躇なく来やがったッ!」
だが街で襲われて生き残った経験が生きている。
奴に対して怖くて動けないという事態にはならなかった。
動けないなら反撃するしかない。
よし『石の魔法』だ、デカい石弾食らわせてやる。
練習しといてよかったぜ。
「目にもの見せてくれるわ!」
《詠唱、大石弾発射》
スパァァァン!
おでこから3インチ戦車砲弾発射!
衝撃波で地面の草が揺れる。そして見事奴にヒット!
ゴォォォォン
だがそれは奴の表皮に弾かれてしまった!
水の入ったドラム缶を叩いたような音がしたかと思うと、あらぬ方向に飛んでった。
「ええええええええええええ!!」
角度が悪かったのか……。
奴の皮膚が想像以上に硬いのか……。
とにかく綺麗に弾かれた。
俺の持つ最大威力の攻撃が効かなかった。
そしてそれは、同時に絶体絶命のピンチが訪れたことを意味していた。
大型獣のモデルは『チベットケサイ』という太古の巨大サイ、体表は『インドサイ』です。