33話
気づくと時刻はお昼過ぎてて13時。思ったより時間が経っている。
さすがに腹が減ったな。
早朝出がけに買った屋台のテイクアウトを食べよう。
薄く焼いた穀物生地に、何かの肉と野菜をぐるっと巻いて棒状の持ちやすい形状にしてある料理――タコスだっけ。
よく知らんがまあ一口。
「おお……ん? あ…辛っ!」
唐辛子っぽいものがピリッと利いてて旨い。
ただ肉が何かがわからない。それに硬い。日本人的には歯ごたえがありすぎ。
まあでもおいしいので合格点。
2本買ったのだが1本でお腹がいっぱい。もう1本は夕方にでも食べよう。
「あ、そうだ」
ペットボトルの水は持ってきたのだが、せっかく放水ができるようになったので飲めるか試そう。
掌で水を掬う形にして顔の前に手を出す。
《詠唱、ちょっと放水発射》
「おっおおっと」
水がこぼれまくるが何とか溜められた。
そしてそれを飲んでみる。
「んー……大丈夫っぽいな。これで遭難しても水には困らなそうだ」
ただしこれ……自分の体内から水出して飲んでるように見えるんだよなー。
下だったらまんま……いや止めとこ。
とにかく魔法はすごい。
一服しながら魔法について考える。
魔法とは『プログラミング言語』に似ていると思う。
放水の『放』、送風の『送』は繰り返し処理(while文)
『拡散』は条件分岐処理(if文)
『水』、『風』、『石』が出力処理(print文)
『大中小』『ちょっと』『絞る』などが出力指定で変数(int、char)
最後が『発射』『停止』(Enterキー)
とこんな構造だ。
条件分岐を細かく設定出来たら呪文一つで風と水を切り替えられる感じする。
もしくは同時処理もいけるかな?
「水と風の同時発射……あっそれまんま台風じゃねーか!」
既知の魔法はこんなとこか。
だがまだ情報は全然足りない。
お約束の『火』は試してみたが発動しないし見つからない。
座ったまま『雷』を発動するがやはり見えないし威力もわからない。
威力調節できれば殺さずに使えるはずなんだが……。
たとえば《詠唱、小雷》とすれば『スタンガン』か『テイザーガン』みたいに使えるのではないかと思う。
誰かに試せないかな……。
そして重要な技術、『付与』がしたい。
逐一呪文を唱えて発動するのは億劫……というか術的に稚拙な気がする。
やはり剣や杖に魔法を付与して強力な武器として使えるようにしたい。
というかな――
『銃が作りたい』
ものすごく作りたい。
せっかく『石の魔法』で石弾撃てるのだ。
棒切れにでも付与できればそれ持って石を撃ち出せるのではないか。
もっと言えば筒のようなものに『風の魔法』を仕込めばエアガンが作れるのでないか。
しかも超強力なのがだ。
何とかおでこ発射を改善する手立てを講じたい。
手で撃てないなら物に頼るしかない。
このアイデアは早い段階で思いついていた。
だが付与する方法がいまだ見つからず、ずっと保留のままである。
本屋にあると思ったのが当てが外れたからな。
「付与魔法は絶対あると思うんだがなー」
現代でもハイテク機器が作れるのだ。
滅んだ文明もきっと魔法技術が進んでて付与魔法はあるはず……俺はそう確信している。
魔法学校で教えてたりするのかな……。
クールミンに話が聞ければいいのだがなー。
休憩後、次に試したい魔法はエルフの魔法。
先日使ったのは『生育の魔法』だ。そして他にも『保存』や『隠蔽』『探知』などもある。
だが実は別系統の魔法がある――
何と『エルフ版の身体強化術』があるのだ。
《剛力》弓を引く力が強くなる。
《跳躍》ジャンプ力が強くなる。
《俊足》足が速くなる。
この3つ。
完全にアーチャーシフトだ。
やっぱり『エルフは弓』といった感じなのだろうか。
ということで早速《跳躍》を試してみよう。
詠唱かけて軽く飛ぶ――
《跳躍》
ズバッ―――スタッ
すると高さ5メートルぐらいまで跳ねた。
「おおースゲー!」
もう少し跳ねてみる。
ズバンッ――――――――ズサッ
すると今度は15メートルぐらいまで跳ねた。
「うっひょーヤバイヤバイ! 超怖い! これは無理無理!」
そりゃそうだ。
跳ねた後いきなり高さ15メートルから落っこちるんだ。魔法がどうとかじゃなく単純に怖い。
腰がヒュンと抜ける感じがした。
そして調子に乗って高く跳んだせいで気分が悪い。
「これ三半規管にくるな……」
俺は三半規管が強くない。車酔いとかすぐする。小学校のときのバス遠足は地獄だった。
そして即行へばった。
「あ~気持ちわる……」
少し休んで体調整える。
縦方向はつらいので、横移動で《跳躍》を使いこなす練習をする。
平地に枯れ木を数メートル間隔において狙った位置に降りる練習だ。
だがうまくいかない。
「全然狙ったとこに着地できねー!」
置いた木をめがけて跳ぶのだが乗れない。
正確に降りられるのはそれこそ2メートルぐらい。
「これは《跳躍》関係ないな……単純にジャンプがへたくそだ」
テレビのバラエティー番組で『丸太をピョンピョン跳んでく競技』がある。
見てるとあれもバンバン落っこちまくってる。
人間がジャンプして目標地点に着地するというのは難易度が相当高いのだろう。
それを魔法で距離延ばしてやるとなると――
何度も練習繰り返して体に覚え込まさないとダメってことだ。
元々俺は運動が得意でも好きでもない。1日中パソコンの前に座ってる人間だ。
そんなのがすぐに体動かして華麗にステップ……なんてできるわけないのだ。
「アニメみたく木の枝を次々飛んでく……なんてのはまだまだ先かなー残念」
腰に手を当て思い悩む。
体使う系はちゃんと訓練しないとダメ。
それがわかっただけでも練習しに来た甲斐があったというものだ。
それに屋根にスッと乗ったり降りたりすることはできる。
襲ってきた弓使いがしてたことぐらいはできるようになって嬉しい。
身体強化術の練習後しばし休憩。
強化しようが体を動かせば普通に疲れる……当り前と言えば当り前ではある。
別に運動好きな人間というわけでもなく、普段の移動は車だ。
見事に運動不足である。
やはり体力はつけないとこの世界ではやっていけないと痛感した。