24話
ティナメリルさん性格的に希少種のエルフである。
森を飛び出して人の街で生活するようになった珍しいエルフだ。
だが街で暮らしているエルフは他にもいるらしい。
「ちょっといいですか?」
「はい」
「ティナメリルさんみたいに街で生活するエルフは珍しいんですよね?」
「おそらくね」
「そんなエルフ、他にいるんですか?」
彼女は再び立ち上がると、机の引き出しから色褪せた木製の文箱を取り出した。
見ると中身は手紙の束だ。
そのうちの一つを手にして戻る。
「これは?」
渡された手紙をひっくり返してという素振り――中身ではなく宛名を見ろという事か。
裏を見ると差出人の名前――『ミスティルリル』とある。
「……ミスティルリル……これは?」
「メイベルミーン領の小さな商会に勤めてるエルフよ」
「え?」
「文通しているの」
「は!?」
「文通しているの」
「いや聞きました」
「そこの商店主と一緒に暮らしているわ」
「なっ!?」
思わず目をぱちくりさせる。
いきなり日常感溢れる展開になった。
何だろうこの展開は――
今までの話の流れ的に『アムネジアのティナメリル』ってタイトルで映画作れそうな感じだったじゃん。
過去を忘れたくないけど忘れなきゃ生きていけない的な、一人孤独に生きている悲しいストーリー展開してたんじゃないの!?
いたじゃん二人目。人間の街で暮らしてるエルフ。
しかも一緒に暮らしてるらしい。一つ屋根の下だよ……。
めっちゃ羨ましい!
そして文通してるという。しっかり友達いるではないか。
「あーとですね……そのミスティルリルさんは女性のかたですか?」
「ええ」
「その……ご結婚されてるってことですか?」
「いえ…そうではないみたい。ただ一緒に生活していると書いてあったわ」
あちゃー! 期待した展開ではなかった。
「それはちょっと残念」
「ん?」
「いえ…こっちの話です」
夫婦とかそういうのかと思ったが残念……残念なのか?
「会ったことはあるんですか?」
「んー……この国はまだ無かった頃かしらね」
この国は建国何年なんだ?(後に約70年と知る)
「私がここにいるのを彼女が少し前に知って手紙を寄越してくれたの」
「少し……」
あなたの少しは人間の単位ではないよね……十年単位な気がする。(後に約20年と判明)
「自分も一所に落ち着いてるわと連絡が来て、それからの文通付き合いね」
「はぁ……」
何ともほっこりする展開である。
彼女は一人孤独に生きてるのかと思ってた。
何となく安堵してる自分がいる。
でも文通で済ませてるってことは会ってるってわけじゃないんだな。
寂しいから顔見に来たとかないのかな……。
ティナメリルさんは、俺がしんみり気分から立ち直ったのを感じた様子。
するともう一撃加えてきた。
「……もう1人いるわよ。マルゼン王国には」
「あ゛!?」
思わずだみ声が出た。
「王都の商会ギルドで副頭取しているという。名前は確か……オルディアーナ」
「なんと……」
「でも彼女とは文通していないからよく知らないわ」
付き合いの基準は文通なのか。
てか知らないということは会ったことはないのか?
おそらく王都にいると誰かから聞いたのだろう。ギルド長かな……。
まあエルフがこんだけ少なければ、どこにいるかぐらいは伝わるか。
「それに他国にも街に住んでるエルフはいると聞いたから、数は少ないなりにいるのよ」
「そうなんですね」
そこまで話すとお茶を口にした。
他にいると聞いても会いに行こうとは思わない感じだ。
エルフはボッチ耐性が高いらしい。
「じゃあ人とパーティー組んで冒険してるってエルフもそういった人たちなんですか?」
彼女はカップを置くが、手を放すのに数秒かかった。
その止まった動作に一瞬焦る。
「いえ……冒険しているエルフたちはかなり事情が違うわ」
エルフが人の街に出るもう一つの事情について話し始めた。
エルフが人と接するようになるのには二通りある。
一つはたまに出現する異端児。
ティナメリルさんみたいに森の生活を飛び出して人との接触を選んだエルフ。
そしてもう一つが、森を出て生活せざるを得なくなったエルフ――
それは『世界樹を失ったエルフ』である。
世界樹を失う出来事というのは『災害』と『戦争』だ。
失うレベルというのはもうコミュニティが全滅に近い損害を受けててほとんど生き残りはいない。
だがそんな状況でも一桁、もしくは二桁ぐらいの生き残りがいる場合がある。
そういうエルフ達が森を出て、新たにコミュニティを再建するところから始まるという。
その場合、世界樹がないので森にこだわる必要がない。
壊滅的打撃からの復活なので排他的でもいられない。
定住先を見つけ、人と付き合いながら細々と生活を始める。
そして千年も経てば数百人程度のコミュニティには復活するという。
ただし世界樹がないから記憶の保持ができない。
なのでそのうち『なぜここで暮らすようになったか』という理由も忘れる。
そうすると他のエルフとはまったく違うタイプのエルフが誕生する。
自分たちが基準と思うエルフたちができあがる……というわけだ。
俺のゲーム脳が反応する――まんま『数名からの村開拓シミュレーションゲーム』だな。
「まったく違うタイプとはどういう意味ですか?」
「森じゃなく山や海、山岳や峡谷に住んでるエルフのことよ。砂漠に住んでるエルフもいるわね」
「何して生活してるんですか?」
「山なら林業、海なら漁業、山岳や峡谷なら狩猟や放牧、鉱石採掘もしているそうよ。砂漠は……傭兵業だったかしら」
「た、たくましいですね」
「あなたがさっき言った、エルフの里へ人が行き来したりっていうのも、この手のコミュニティならあるわね」
「ああ、取引してるからか」
世界樹を失って森を出たけど、再び森で生活するようになったエルフたちもいるらしい。
その場合、人と同じく森を開拓し、家を建て、農業などで生計を立てるスタイルになるそうだ。
積極的に人と交流しているから、エルフの里として認識されてるだろうとのこと。
森の奥深くに侵入して純粋種に遭遇したらおそらく生きて帰れない。
だからそっちはまったく知られないわけだ。
なるほど……純粋種が引きこもりだから、復活組のエルフが人にとっての基準になるのか。
「じゃあ人とパーティー組んで冒険者やってるって手合いも……」
「その手のコミュニティーのエルフ達ね。何年か前に砂漠に住むエルフが私を訪ねてきたのよ。商隊の護衛でこの街にやってきたと言ってね。この街にエルフがいるからと聞いて挨拶……というか見に来た感じね。私がいわゆる純粋種だからと」
「そういうことでしたか……」
やっとアニメや漫画の話に近づいた……。