206話 報いを受ける王子たち
クールミンから説明された情報を確認する。
王子と近衛騎士団、総勢四十二名。約十人ずつに分けて四ヶ所に収容。
騎士団長のギュンターは身体強化術が使えるっぽいので専用の手錠を使用。他の連中も前手錠で拘束し衣服はシャツとパンツのみ。もちろん王子もだ。
ここには貴族用の収容施設などない。なので王子も一緒に地下牢に投獄……というか近衛兵は全員貴族である。
防衛隊員が姿を見せれば文句を浴びせ質問には答えないという。とにかく傲慢、尊大、そういった連中だ。
シーラが言っていたのだが、連中、王国軍にしてはびっくりするほど弱かったそうだ。
それを聞いてすぐにピンときた。日本でもよく聞く縁故採用にコネ入社、おそらくその類だろう。能力のないくせに偉そうにしている社員とかだ。
近衛兵といったらかなりの実力が必要な部署だろうに、これだと案外王国軍の腐敗も進んでいるってことかな。
とはいえこちらは四人。十人に一斉に襲われる可能性もなくはない。それなりに警戒は必要だ。ふ~む……。
そうだ! 先制パンチして度肝を抜いてやるか!
地下へ続く階段を降り、地下牢の扉前に到着。灯火を持った先導の隊員が扉の鍵を開ける。
「あの、扉を開けたら脇にそれて前を空けてもらえます? しばらく音楽……音が鳴りますけど驚かないでください」
三人に小声で伝えるとコクリと頷いた。
扉が開いた途端、むわっとした湿っぽい空気に襲われて思わずうっとなる。大の大人四十人も収監されているせいだろうか空気が生温い気がする。
――さあて、いっちょかましますか!
左手に持つスマホの画面をタップ。さあ聞きやがれ!
SF映画の超有名曲『インペリアル・マーチ』が大音量で地下牢に鳴り響く。別名『ダースベーダーのテーマ曲』である。
♪ダンダカダダンダカダダンダガダガダガン……ダーンダーンダーンドーダダードーダダーン……
圧倒的な威圧感、強者の出現を思わせる主題、悪役の登場としては最高の曲だ。
ん? 三人がスマホを凝視したまま固まっている。あーまず三人の隊員の度肝を抜いちゃったか。しかし声を上げないところはさすが。
収監されている連中にも動揺が走り、すぐに何人かがこちらを見ようと檻に近づいた。
キリのいい一分弱のところで曲を止めて部屋に入る。
前に来たとき同様相変わらず薄暗い。そのため顔はよく見えないが呆気にとられている感じは伝わってくる。
――んじゃもう一発かましとくか。
「あの、目を手で覆ってくれます? 少し眩しくなりますので……」
小声で伝えると、自分も目を覆ってから神聖魔法の『光の魔法』を唱えた。
《詠唱、灯りを》
おでこ付近がピカーっと光り、室内が眩しいほどに明るくなった。
「うわぁあぁああ!」
近衛兵たちから悲鳴が上がり一斉に顔を背ける。ふん、暗闇に慣れた目には眩しすぎて痛かろう。
灯りを消して連中の様子をしばらく確認……いい感じに動揺しているな。
さあていよいよメインイベントの開始といくか!
「私は冒険者パーティー“ホンノウジ”のランマルです。今日は貴様らにヤキを入れるために特別に許可をいただきました」
挨拶を済ませると、手伝いの三人に近衛兵一人を出すように指示した。
「――な、なんだ貴様らッ!」
最初の犠牲者は、悪態をついてくるぐらいには元気そうな近衛兵。宿で捕らえられた奴かな。
兵士というには細い身体。手伝いの隊員のほうがあきらかに強そう。アメフト部員に引きずられるお笑い芸人みたい。
手伝いの三人に「四つん這いにして頭を押さえ、足を広げてパンツを下げて」と耳打ちする。
「お……オイヤメロ! 何をする気だッ!?」
右手に持っているバケツを彼らに見えるように通路の真ん中に置き、慎重に『保存の魔法』を解除する。
《解除》
するとバケツを置いた床からジュワワーという音を立てて白い湯気が立ち昇る。床の湿り気が蒸発したのだ。
空気を伝わってバケツの高熱が部屋中に伝播する。そのせいで連中の表情が恐怖で引きつっている。
その様子に満足し、バケツから真っ赤に熱せられている鉄棒を引き抜いた。右手に鍛冶師用の籠手をしているのはこの鉄棒を持つため。なかったら俺の右手は大火傷だ。
ここに至り、連れ出された哀れな子羊第一号は何をされるかを悟ったようだ……。あらんかぎりの力を振り絞り、拘束から逃れようと暴れ出す。
「ふ……ふざけ……離せェ! き、貴様らぁ! こんな……こんなことして……」
必死に悪態をつくも目には涙が溢れている。
そんな彼に顔の近くに高熱の鉄棒をコンと床に突く。そしてしゃがみ、彼にする行為の説明を滔々と述べる。
「うちの国のバラエティー番組でな、タレントの直腸検査をするってコーナーがあるんだよ。そんでな、プロレスラーとか格闘家のマッチョメンが肛門に指突っ込まれてグネグネされるんだけど、もうね……やる前はオラオラーってイキがってたくせに、終わって診察室から出てきたらな、しおしおーってションボリメンになってんのな。それがウケるわけよ」
「???」
「まあ俺は貴様らの肛門に指突っ込むのなんざぁお断りなんでな、代わりに熱々の鉄棒突っ込むことにしたんよ。どうかな?」
ニヤリと笑うその目を彼は何を思って見つめているのだろうか?
ゆっくり立ち上がって彼の後ろに回る。彼は必死にケツを振って逃げようとする。しかし両サイドについた隊員がガシッと押さえて固定した。
「今からお前ら全員にこれを処す。貴様らがこの町でしでかしたことを猛省しろッ!!」
そう言って一気に肛門に鉄棒を突っ込んだ!
「ウギャアアアアアアアアアアアアア――――ッ!! アアッ、アァ…………!」
肉の焼ける音、皮膚の焼ける匂い。思わずオエッとなりかけて息を止める。
手に伝わる振動……以前、バーベキューで巨大な肉に鉄の串を刺したことがあるがそれと似ている。腹の中の臓物がブツブツと焼けているのだ。
懲罰を受けた彼は断末魔の悲鳴とも呼べる絶叫を数秒あげたのち、痙攣し、口からゲロを吐いて悶絶した。
やべ……やりすぎたか?
慌てて鉄棒を引き抜くと、横たわる彼に左手を当て、そこにおでこを近づけて治癒魔法二つを重ね掛けする。
《詠唱、更新》
《詠唱、大ヒール》
初めての拷問なので加減がわからない。何もしなければ一分と持たずに死ぬダメージだろう。ピクリとも動かないが……死んでないよね?
治療後、尻の穴を確認する。男の肛門をじっくり確認するなどしたくないがこれも必要なこと……。ふ~う、ちゃんと治っている。
内心ホッとする。
だが今のは結構ギリだったかもしれんなあ。鉄棒を刺す時間はもうちょい短めがよいか……。あとは……ショック死しないことを祈ろう。
パンツを上げて檻に放り込むと、次の近衛兵を引っ張ってくるように告げた。
「――ん、じゃ次!」
ここからは本当に地獄絵図だった――
白目をむいてこと切れているように動かない一人目。それを目の当たりにした彼らは、今から自分たちはこうなるのだと恐怖した。
連れ出されまいと必死に叫びながら抵抗を試みる……。
腰が抜けて踏ん張れない足で必死にもがく。引きずり出されまいと床のほんの出っ張りをつかもうとする。そんな彼らは屈強な三人に無慈悲に連れ出された。
哀願する絶叫が響き渡る中、鉄棒を肛門に突き刺されて悶絶する。その繰り返しが続いた。
中には「貴族である自分に対する暴力は許されない」と強がる者もいたが、支払う代償は鉄棒をより深く突き刺されたことだった。
四回目、五回目、と絶叫が続く。そのせいで連れ出される際に失禁する者、恐怖が度を越してゲロを吐く者が多発。檻の中が悲惨なことになっていった。
一つ目、二つ目、三つ目の檻の近衛兵三十名が終了。そしていよいよ残りの檻――ここにはユリウス王子と近衛騎士団長ギュンターがいる。
先にギュンターからなのだが彼は身体強化術がつかえるだろうとのこと。手伝いの三人に連れ出す際に注意を促す。
「ふざけるなよ貴様ら!」
ギュンターは専用の前手錠をされた状態で抵抗する。格闘術を心得ているのか、つかまれた腕を振りほどき、つかんだ隊員を蹴り飛ばす。なんて往生際の悪い奴だ!
「おーいぎゅーんたー!」
「あ゛?」
小馬鹿にする感じで名前を呼ぶと、カチンときたのか動きを止めた。
《詠唱、小石弾発射》
「グアァ――ッ!!」
彼の足元に向けて石弾発射!
室内にバチンという音がしたあとギュンターは絶叫して倒れた。彼の右足首が吹き飛んだのだ。
蹴られた隊員を労い、もんどりうって倒れているギュンターを連れ出してもらう。
「おまえー、調子に乗ってると次はあのバケツに顔突っ込んで焼くぞ!」
「うっ、ぐぐぐっ…………」
四つん這いにして彼を押さえつける。このとき蹴られた隊員が彼の首根っこに膝を乗せて体重を掛けている。そうそう、仕返しはせんとな。
程なく鉄棒を突き刺されたギュンターは悶絶、治療して檻に放り込む。もちろん吹き飛んだ足首も元通りである。
背中を刺した男のケツに鉄の棒を刺して復讐の完遂である。
そして締めの王子の番である。シャツとパンツ一丁の姿はみじめそのもの、ティアラに来たときの威勢は見る影もない。
「や、やめろ! よ……余は第一王子、ユリウしゅであ、あるぞ! こんなことしてただで済むと――」
「思ってるよ! 思ってる。だからな、心配すんな。安心してその身に苦痛を刻め!」
「!?」
俺の彼女を攫ったクソ王子。大事な人たちを傷つけても気にしないバカ王子。絶対にただで済ますわけにはいかない。俺の怒り、皆の怒りを思い知れ!
焼けた鉄棒が王子の尻に突っ込まれる。
「アッアッ、アアアアアアア――――ッ!!」
王子の絶叫とともに地獄の宴はお開きとなった。
地上へ戻り、手伝ってくれた三人に感謝を述べる。
「お疲れさまでした。あの、蹴られたところを治すのでお腹見せてください。治癒魔法かけますんで」
「あ、はい」
にしてもこの三人……あの壮絶な仕置きにまったく動じていなかったな。俺が頼んだ人選ではあるのだが……すごいけどちょっと怖い。
「それと……手を出してください」
ウェストポーチから硬貨の入った小袋を出す。小金貨三枚を取り出すと、それぞれの手に一枚ずつ乗せた。
「はいこれ」
「え? いや、受け取れません! 隊長に怒られます!」
「いやダメ。これはちゃんとした報酬だから。業務外手当に危険手当……あなた蹴られたでしょ?」
「…………」
「それに私服もたぶん臭くなっちゃってます。ゲロとかしょんべんとかで。なので新しい服をこれで買ってください」
三人とも互いを見合う。
「――それにこれ、口止め料込みなんで。……つっても隊長には聞かれるだろうから話してもいいです。けれど他の隊員には迷惑がかかる可能性があるからダメ。いいです?」
「わかりました」
ちょうど終わったことを知ったカートン隊長とクールミンがやってきた。
「おい瑞樹! お前一体何をしたんだ? ものすごい悲鳴が聞こえると隊員たちが騒いてたぞ!」
「まあまあね。でーそれでですねー隊長、明日と明後日も来ますのでよろしく!」
「ん――は?」
「うん。あと二回ぐらいしたら心折れるかなーと思うので」
カートン隊長がジロリと睨む。
しかしダメとは言われなかった。この件には口出ししないと決めたのだろう。
手伝ってくれた三人に「明日と明後日もよろしく」と告げるとさすがにちょっと嫌そうな顔を見せた。
このまま帰ろうとしたとき、クールミンから相談を持ち掛けられた。
王子一行の逮捕の件を領主のコーネリアス侯爵に報告しなければならないが、俺がしたほうが効果的ではないかという話である。
「……いや、その必要はないですね」
「えっ?」
「聴取した内容をそのまま書けばよいかと」
「うーん……それで大丈夫ですかね?」
「大丈夫。ちゃんと今回の一件を上手に収める策はあります。そのために侯爵にはここに来てもらう必要があるんですよ」
「そうなんですか?」
侯爵が来るという言葉に、二人は顔を見合わせて不安げな表情を浮かべた。
たしかに普通に考えたら「王族を逮捕しちゃいましたけど何か?」って状況で会いたい人物ではないな。二人とも軽く首が飛ぶ事案だもんな。
「まあ私は面識があるので何とかなりますよ。侯爵も貴族ですがあの連中みたいに話がわからない人ではないですよ……たぶん」
二人の不安はわかるけど、とにかく侯爵に来てもらわないと次に進めない。どのみち王子逮捕の事実を知ったらすっ飛んでくるだろうしな。
まあでも策のために報告の仕方を少し工夫する必要があるし、このあと手紙の草案をアドバイスするか。
「そうだなー……手紙の最後に『御手洗瑞樹が激怒している』と書いときましょう」




