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19話

 防衛隊本部での事情聴取を終えた。

 部屋でタバコを一服。いろいろ思い返していた。


 今回の襲撃事件は防衛隊でもだいぶ話題になってたらしい。

 去り際、俺を目にしては足を止める隊員が多くいた。


 まあそれはそうだろう……1人は顔面粉砕レベルの死にっぷりだ。

 何をしたらあーなるのだろうと訝るのも当然だな。

 カートン隊長も魔法士のクールミンもだいぶ素性を疑っている様子……何かと話しかけられた。


 日本でいう警察機構の連中に魔法の威力を知られたのは痛い。

 しばらくは彼らの動向には注意して行動しよう。


 スマホを取り出し日付を確認する――7月20日。

 この地に来たのが4日だったから半月過ぎたところか。

 ベッドに横たわり目をつむる。


「…………イベント多すぎだろぉおおおおおおお!!!」


 思わず口に出る。


 正直生活は不便極まりない。

 それでもテーマパークで働いてると思えばまだ我慢できる。


 だが殺されかけたのはないな……思い返すだけで怖い。

 ヘタレ日本人にはつらすぎる。


 森で冒険者の死体を発見して、街の外は危険なのだとは思ってた。

 だが街でも普通に死にかけるのだな。

 平和な日本で生きてた学生にいきなり殺伐とした世界に順応しろというのが無理な話だ。

 街の中も外もヒャッハーな世界……今後どう対応していけばいいのやら。


 やはり決め手は魔法だろう。


 今回も魔法が使えてなければバッドエンドだった。

 魔法については早急に調べたい。

 まずはどこぞで練習できる環境を探さないとだな。



 ベッドに寝ながら情報を整理してみる。


 まず魔法、魔法とは発掘物。

 今の世界の人たちが作ったのではなく『過去の遺跡から発見』した知識である。

 過去に滅んだ文明が魔法を使っていて、それをこの世界の人たちが活用しているという感じ。

 創造主の話にあった大量絶滅の件も踏まえればその頃の産物だろう。



 現状知っている魔法は――『風、水、石、土、雷』、まだ試していない治癒も加えて6つ。


 風と水と石は撃ち出す魔法。

 石の弾の大きさはテニスボールぐらいだと思う。結構大きい……そら顔面潰れるわな。


 土は何か地面を上げ下げできる。

 穴掘りとか盛り土などの土木作業だろうか……使いどころがわからない。


 雷は体が帯電する。

 だが魔法学校出の魔法士が使えない高難易度技らしい。

 じゃあなぜ初級にあるのだろうか。

 読みが違うか、発音が違う、とか言ってたな……。

 日本語にしか見えない俺には確かめるすべはない。


 さて呪文について。たとえばこの石の呪文――


 《私は今から唱えます。石の魔法。石の神ヌトス。よろしくお願いします。石発射》


 このクソださ詠唱、これ……『魔法言語を直訳で読んでしまっている』せいだと判明。

 実はちゃんとかっこいい詠唱なんだろうけど、必要最低限の表現で理解しちゃってるみたい。


 そして最初呪文と勘違いした文章――


『今こそ我が言の葉により疾き風を放たん、風神ウィンドルの名のもとに、疾風』


 この中二病全開の台詞が呪文の説明文。おそらくマール語と思う。

 なぜこちらは直訳じゃないのだろうか。

 まあ……俺のゲーム脳がそう訳してる気がするな。嫌いじゃないし。


 そして俺の魔法の異な点――『おでこから発動』と『無詠唱』の二つ。

 だが実はもう一つある――それが『詠唱の短縮』だ。


 詠唱で必要なのは、実は「唱えます」と「石発射」の2単語だけ。

 創造主から『神はいない』と聞いたので、もしかしてと省いたら見事正解。

 そこからいろいろ削って最終的に2単語まで減らせた。


 過去の文明の呪文製作者が何を思って必要のない単語を入れたのかは不明。

 宗教的な賛美をしたかったのだろうか。

 たまたま開発中に発動して『撃てたからヨシ! もういじらない』と決め打ちしただけかもしれない。


 だが今の人たちは発見した呪文が正しいと思っているのでそれを見直すことなどしない。

 無駄な部分が付いてるとは露ほども思わないだろうしな。

 それに魔法学校でも言語の解析がまだ完ぺきではないのかもしれない。

 魔法士のクールミンの言ってた『雷魔法が使えない』という話からもおそらくそうだろう。

 使えるとバレたら連れていかれそうだ……気を付けよう。


 そして詠唱の単語だが、これ『好きな単語に置き換え可能』である。

 魔法の翻訳が直訳だったことからピンと来た。


 つまり「唱えます」を「詠唱」。「発射」を「撃て」でも可能で、意味が同じ単語ならよいのだ。


 先の弓使いに放った呪文は、無詠唱で《詠唱、石撃て》という短縮呪文を使用した。

 短くできてたからすぐ撃てたのだ。

 素の呪文をだらだら詠唱してたら死んでたな。


 おそらくもうちょっと頑張れば《唱・石・射》と、『悪・即・断』にはできそうな気がしてはいる。

 どうせなら横文字のカッコいい詠唱にしてみたりして――


 《chant(チャント) stone(ストーン) shoot(シュゥ)


 おおう……これいいんじゃね?


 そして襲われたことで得られた新魔法――『治癒(ヒール)』だ。

 まだ試してないけど……。

 いやだって自分で指切って……とか怖くて無理だ。


 よく漫画で自分の指をナイフで切っちゃうシーンとかあるが、できねぇだろ普通!

 とにかく自分で切るのは根性なしの俺には無理。

 そのうち怪我人見つけたら試したいと思う。


 そして気になった点があれだ――『魔法とお祈りが違うという認識』


 俺には同じ魔法にしか聞こえない。

 だが違うと言ってるのでおそらく言語が違うのだろう。


 教会がお祈りと言い張るから指輪の翻訳もそれを受け入れてる感じ。

 治癒魔法が幅を利かせているこの世界での医療行為は教会が独占している。

 彼らの言い分には逆らえない。


『健康保険料(お祈り)も国民負担(呪文)なんだから税金(魔法)と一緒でしょ?』


 と言っても絶対に認めないのと一緒だ。

 ということは今後、言語が違う魔法が見つかる可能性がある。


 ――『火』はおそらく別言語だ。


 何となくこの世界の(ことわり)がわかってきた気がした。



 今後の課題を考えてみよう。


 魔法については魔法学校出身者に聞きたいが、今はやめたほうがよさそう。

 クールミンに雷を使えることが知られたのは痛かったな。


 立場上、彼がペラペラ言いふらすとは思えない。

 だが衛兵たちの態度からすると漏れるのも時間の問題な気がする。

 変なことにならないことを祈るしかない。


 本を読んだだけの人間が、学校出のやつより能力高いと知られていいことなんか絶対にない。

 これ以上のネタバレは避けないといけない。


 そういえば、彼は『呪文の威力は詠唱の精度』と言っていたな。

 つまり俺の場合、指輪のおかげで呪文全てネイティブランゲージになってるから精度100パーセントってことか。

 チートだねー。


 それと治癒魔法。

 これは教会が聖職者に呪文を教えてるはず。なのでテキストが必ずあるはずだ。

 なんとか手に入れたい。

 とりあえず給料出たら教会にお礼の寄付に行き、そのときに探ってみよう。


 そして最後、カートン隊長が言っていた『身体強化術』だ。

 これは今のところ内容は不明だが騎士学校で習うと言っていた。おそらく教本はあるはず。

 できるなら修得したほうがいいスキルだ。

 何せ3階から飛び降りて普通に歩いてたからな。

 まんまアニメや漫画の世界だ。


 あとはやっぱりいつかは王都だなー。

 本屋の店主は「魔法関係の本は王都だ」って言ってたからな。

 いずれ行きたいな。


「魔法……王都……学校……」


 ひとしきり頭で状況整理をしたら眠くなってきた。

 今日はこのまま寝てしまおう。


 ◆ ◆ ◆


 ギルド終業後のギルド長室。

 タランはギルド長に聴取の結果を報告している。


「嫉妬!?」

「はい。襲った4人はミズキがキャロルやリリーと仲がよかったのが気に入らなかったようです」


 ギルド長は唖然とする。

 襲われた理由が色恋沙汰とは思ってなかったからだ。


「彼はそんなに仲がいいのか?」

「いえ、職員として普通に接してるだけだと思います」

「スマホを狙ってたのは事実ですが、単にそれがなくなれば彼女らがミズキに近づくことはなくなるだろうと……」


 ギルド長はこめかみに手をやる。


「いやでも矢で撃たれてただろ!」

「はい。弓使いが主犯で、路地裏で襲った3人は奴に唆されたと。奴はミズキの殺害も辞さなかったようです」

「嫉妬でか!」

「はい」


 タランは瑞樹が言ってたストーカーの心理とやらを話す。

 ギルド長もこの手合いの行動原理について知らなかったみたいで興味深く聞いた。


「てことは最終的にはキャロルやリリーが殺されていた可能性があるということか」

「そうなりますね」

「うーむ……」

「彼の国ではよくある犯罪だと言ってました」


 ギルド長はため息をつく。

 とにかく罪に問われるようなことがなくてよかった。


「ヨムヨム、アーレンシアの様子はどうでした?」

「上の連中に会ってきた。職員が襲われた件を憂慮していたな」

「スマホの件はどうでした?」


 ギルド長は首を振る。知らないらしい。


「だが知ってる可能性はある。うちに来た冒険者もスマホを目にしているからな」

「そうですね」


 噂の魔道具を持ってた人物が襲われたと耳にしたら、存在を知っていても口にはしないだろう。

 だがもう問題はそこではない。


 一般職員に冒険者が殺されたのだ。


 しかも4人のうち1人は討伐依頼を受けられる実力者だ。

 聴取が済んだ今、両ギルドにも情報が入っていることだろう。


「どう出ますかね?」

「何もせんだろう。会っても少し聞かれる程度だ。だが魔法士連中はどうか。耳にすれば――」

「うちに来ますかね?」

「……あの手合いはなぁ……馬鹿数名はおるかもな」


 カートン隊長やクールミンが外へ話を漏らすとは思っていない。

 だがこの手の話が漏れなかったというのは、ザルで水を掬えると吹聴するほどありえない話だ。


 魔法書読んだだけの一般人が魔法士より実力が上らしい……などと聞かされたらちょっかいかけてくる奴はいるかもしれない。


「瑞樹には相手にするなと釘を刺しとけ」

「彼はそんなタイプじゃないでしょ」

「そうか? 3人殺してるぞ!」

「セートーボーエーでしょう」

「じゃあ襲われたら殺すんじゃないのか?」

「あー……」


 ギルド長の指摘にタランは不安になる。

 瑞樹に注意するように言っておこう。


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― 新着の感想 ―
[一言] よくよく考えると襲撃してきたやつを殺さないように手加減するのって難しそう とはいえそんなすごい魔法使えるのに手加減できないのかって疑われるのも仕方なくはある
[一言] 海外旅行で財布を尻ポケットに入れて取られたり、治安の悪いところに無警戒に入り込む、日本人ならではの無防備さが良く書けてますね。
[一言] そら、命の危機を感じたらやり返せるならやり返すでしょうよ、、、、。 主人公も別に殺人鬼じゃないんだから、殺すなよっていうなら平穏無事に暮らせるよう環境整備して言えよってやつやな。
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