18話
クールミンはどうしても納得いかない様子。
「さっきの雷の話ですが、ホントに使えたんですよね?」
「……まあ、はい」
「いや……あの詠唱を本読んだだけで使えたってのがいまだに信じられなくて」
「はあ」
あまり触れられたくないので塩対応を決め込む。
「……ちょっと見せてもらえませんか?」
「何を?」
「雷の魔法」
「「「は!?」」」
その場にいた全員がびっくりした。思わず隊長が咎める。
「何言ってんだお前!」
「隊長! 魔法学校の生徒が誰も使えない魔法を彼は使えるんですよ! どう考えたっておかしいでしょ!」
それに関しては俺も同意見……だが断る。
「嫌ですよ! 何かあったらどうするんです?」
何かあったらというか……確実にやらかす。
なぜなら制御ができないからだ。
そもそも効果範囲もわからない。
部屋全体だったら隊長殺して死刑確実だ。
隊長は彼に言い聞かせ、俺に手で制止する仕草をする。
「あー……お前が気になるのもわかるが今日は被害者の聴取だ。それ以外のことはできん」
「…………わかりました」
そら自分が使えない魔法を使えると言われりゃ見せろってなるわな。マズイな……。
雷の魔法が使えたならその詠唱を疑われてしまう、使えないなら倒した方法を疑われてしまう。手の打ちようがない。
「隊長さん、一つ確認ですが……」
「何か?」
「今日の聴取の内容は外に出すんですか?」
「あー報告書として上司に提出するから隊長間で情報は共有する。それ以外には出ない」
クールミンを一瞥する。
「他の隊員には?」
「んー……各隊長には釘を刺しとくが……正直漏れる可能性はある」
「そうですか」
さすがにしょうがないか……。今後聞かれたら誤魔化し通すしかないな。
隊長が話題を変える。
「ところで、この国の人じゃないようだが出身は?」
「日本です」
「ニホン?」
隊長はしばし考え込んだが知らないと言い、クールミンも知らないと首を振った。
すると主任が口をはさむ。
「彼はニホンの学生なんですが、帰れない事情があり、うちで雇いました。彼の通ってた学校は凄い魔法の知識があるようで、特に言語が得意な様子を何度も見ています。先日うちに来た猫人とも猫人語で話をしてました」
「猫人語!」
クールミンが驚愕の表情を浮かべる。
そして隊長は思い出した。
「そういえば少し前に東門で猫人が道で倒れてその救助をしたって話があったな……。その時猫人語を話す旅人が通訳して協力したと――」
「ああ…それ私です」
「なるほど」
言語が得意だけでは納得はしないだろうが、これ以上話をしても無駄だと判断して打ち切った。
隊長は書類をめくって再び話す。
「で、彼らが瑞樹さんを襲った理由ですが……嫉妬です」
「「嫉妬!?」」
俺と主任は仰天して思わず顔を見合わせた――スマホじゃないのかよ!
まったくもって思い当たる節がない……。
カートン隊長は尋問して得られた話をした――
容疑者の連中は俺が受付のキャロルと仲良くしてたのが気に入らなかったらしい。
そこに弓使いの奴が少し痛めつけてやろうと持ち掛けてきたので話に乗った。
荷物にキャロルが夢中になっている魔道具があると、弓使いに言われたので奪うよう指示された。
それが無くなればキャロルも興味がなくなるだろうと。
何とまあ……呆れて物も言えないとはこのことだ。
まったく面識のない赤の他人からキャロルとの恋愛疑惑をかけられ袋にされたわけだ。
そういえば蹴られてるときにキャロルの名前を聞いた気がする。
彼らがウエストポーチを狙ってきてたので魔道具狙いの物盗りだと思っていた。
それは間違いではなかった。だが事の発端が嫉妬とは思いもよらない。
「弓使いのやつも嫉妬ですか?」
隊長は頷いた。
「あいつはリリーという職員にお熱だったそうで、本人は隠してるつもりだったらしい。まあ3人にはバレバレだったらしいがな」
その話を聞いて怒りが湧いてきた。
「そんなんで俺を殺そうとしたんかあのクソどもは……ストーカーかよ、クソッ!!」
「ストーカー?」
隊長はそれは何だという顔だ。
「私の国で『しつこく相手に付きまとって迷惑かけるやつ』の総称です。断られても何度も交際を申し込んだり、付きまとったり待ち伏せしたり、好意を引こうと嫌がらせをしてね。全ては相手のためにやっている――という、常識とかけ離れた思考になります。そしてそれでも自分の好意を受け入れてもらえないとわかると、好意が激しい憎悪にかわり――」
少し間を置く。
「最終的には好きな人を殺します」
クールミンと主任は驚いた。
「え? 好きな人を殺すの?」
俺は頷いたがカートン隊長は動じてなかった。たぶん知っているんだろう……そういう連中の行動心理を。
事情聴取は終わった。
「取り調べで奴が素直に自供してくれたんで、おおよそ状況は把握してたんだよ」
「なら俺は不問ですか?」
「3人殺害してるが殺されかけたのは明らかだしな」
「当り前です」
少しムスッとする。
「君がひどい状態だったのは治療院からの報告でも聞いてるし、君のいうセートーボーエーだ」
「よかった」
国も政治体制も違う以上何がどう判断されるかわからない。
罰せられないとわかって安心する。
「まあでも彼らの死因については不明な点もあるが、君から聞いた話で調書はまとめ上げるよ」
「わかりました」
帰り際に一つ気になったことを思い出したので隊長に聞いた。
「そうだ……1つ教えてほしいんですが――」
「ん?」
「弓使いが屋根の上からサッと降りてきて平気で歩いてたんですが、あれは何です?」
「ああ…『身体強化術』だな。知らない?」
「知りません。魔法ですか?」
「んー魔法といえば魔法になるのかな?」
隊長はクールミンのほうを向く。
「そうですね。魔法学校ではなく戦士学校で習いますが、マナを使う点では一緒です。なので魔法といえば魔法です」
「力が強くなるんですか?」
「まあそんな感じだな。力が強くなったり高く飛べたり足が速くなったりだな」
「なるほど。ちなみに隊長は?」
「使えるぞ」
「ですよねー!」
馬車が手配される間、防衛隊の隊員が数名俺を見て何やら話しているのを目にする。
俺が弓使いを倒したことを噂でもしているのだろう……少し憂鬱だが仕方がないことだ。
面倒なことが起こらなければいいが……。
そして俺と主任は馬車に乗って防衛隊本部をあとにした。