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174/211

174話 賊がティアラに侵入

 フランタ市内、真夜中深夜。

 人気のない通りを、月明りに照らされた人影が動く。

 彼らの見た目は、商人や荷下ろしの使役人の恰好をしているが、もちろん生業は違う。

 とある目的のためにこの町に侵入した集団――ジーオ隊長率いる十五名のダイラント帝国の隠密兵たちである。

 数名ずつで人目につかぬように市内を移動し、ティアラ冒険者ギルドの旧広場近くに到着した。


「見回りが結構多いですね。途中ヒヤヒヤしました」

「あちこち人のいないところもあるからな。不審者のたまり場にされても困るだろ」

「俺たちみたいなのですか?」


 部下の軽口に鼻で笑う。


「……そうだな」


 薄暗がりで見る仲間の表情にやる気を感じる。信頼されている証だと思う。

 帝国からの命令を受け、占領された国の兵である自分たちは、ほとんど捨て駒のような扱いで送り込まれたのだ。

 何としても任務を達成して無事に皆を返してやりたい。


 路地裏の暗闇に潜み、点呼を取ると作戦の確認をする。

 目的は『ドラゴンの牙を回収』すること。長さは五十センチが二本。鱗もあればそれも回収。

 本館を五名、旧館を四名、倉庫を三名で捜索。金庫室を最優先。

 人と遭遇しても殺すのは禁止。牙以外は盗るな。

 残り三名は衛兵の見回りの警戒、見かけたら口笛を鳴らせ。


「あと最後に、『エルフと出会っても絶対に手を出すな』……いいな?」


 皆、黙って頷く。


「もし出会ったら『ドラゴンの牙を探している』と正直に言え。おそらく無視してくれる」

「――もし叫ばれたり、人を呼ばれたら?」


 部下の問いに口ごもる。

 命令でそう受けただけで、自分もエルフなんぞに見たことも会ったこともない。

 耳が長くて容姿端麗、人のすることに無関心らしい。なので巻き込まなければ大丈夫なはず――


「口を塞いで手荒な真似をせず、静かにするように懇願しろ。あと俺を呼べ」


 指示を聞くと全員頷いた。


「では行くぞ」


 路地裏を出ていざギルド裏の旧広場へ。


 ところが広場の一角に、見たことない小屋が建っているのを彼らは目にした。

 隊長が手で制止する。

 本館と旧館の角、目隠しの衝立が施され、外から建物が見えないようになっている。

 入口にはランタンが灯されており、このままいくと姿がバレてしまう。


「隊長! あれ何です?」

「――っ、いや、聞いていない! 情報にはなかった!」


 全員腰を下げ、陰に潜む。

 さっそくこれだ……話と違う出来事に遭遇するのはお約束。帝国の情報はいつも当てにならない。


「……住屋……ですかね? 煙突らしきものが見えます」


 隊長は判断に悩み、振り返って部下を見やる。

 一人指さすと、「様子を見てこい」と指で指示した。

 部下の男は建物沿いを進み、風呂場の裏手に着くと、静かに近づき偵察する。

 木でつくられた小屋で、床下が少し空いている。

 外に釜を見つけた。円柱形の釜……その上で煮炊きするような仕組みではなさそう。

 パッと見、何を目的としたものかがわからなかった。


「人の気配はありません」

「何の小屋かわかるか?」

「……わかりません。住屋だと思われますが、何やら水の入った大きな桶が外に張り出してあります」


 水桶……そういえばそこに井戸があるな。

 ということは飲み水などを溜める桶ということか。なら住屋だ。

 ドラゴンに襲撃を受けた町だし、仮住まいの小屋でも建てたのだろう。


「――どうします?」


 あまりグズグズはしてられない。人気がないというなら無視して構わないだろう。

 それにあんな掘っ立て小屋に、重要なドラゴンの牙を置いたりはしないはずだ。


「放っておく。時間がない、急ぐぞ!」


 それぞれに分かれ、ドアのカギを解除すると静かに侵入した。



 倉庫に侵入した三人は、窓のない建物ということで、ランタンを掲げながら棚を確認する。


「――っ、草ばっかだな」


 一人がここは薬草の棚だとわかるととって返し、別の場所の捜索に移ろうとしたそのとき、仲間のランタンが動いていないのに気づく。


「……おい、あったのか?」


 囁くような声で仲間を呼ぶ――しかし返事がない。

 訝りながら灯りのところへ向かう。


「どうした……何やって――」


 男の意識は文句を言いかけたところで途絶えた。



 別棟に侵入した四人。

 二人は地下室へ向かい、一人は一階の職場、一人は二階の各部屋を探索する。

 足音を消して階段を上がり、部屋の端から調べていく。

 客間らしき部屋には人はいない。次に開けた部屋は……どうやら上長の執務室らしい。

 中へ入りざっと調べる。

 棚、書類棚、机、見渡しても特にそれらしき物はない……ハズレか。

 静かに部屋を出てゆっくりドアを閉める……と突然、隣の部屋のドアが開いた――


「……誰?」


 女性の声に、男は心臓が飛び出るほど驚いた。

 思わずランタンを向ける。

 灯りに照らされた人物――白い衣装に長い金髪、そして顔の横には長い耳……エルフだ!!


「――ッ!!」


 その場に固まってしまい声が出ない。まさか遭遇するとは思っていなかった。

 隊長から言われていた指示を必死に思い出す。


「あ、い……き、牙を探している。おとなし――」


 男の意識はそこで途切れ、身体が崩れ落ちる……が、後ろに別の男が立っており、物音を立てないように倒れる男の身体を支えた。

 静かに廊下に寝かせ、ランタンを手に取り掲げると、背後にいた男の顔が浮かび上がった。


「――瑞樹?」


 ◆ ◆ ◆


「ティナメリルさん!」


 薄明りに浮かび上がる白のワンピース姿。美しいお顔には驚いた様子は見られない。


「どうやら賊が侵入してるようです。部屋に戻っててもらえます?」


 俺の指示に彼女は小さく頷くと、静かに部屋へ戻った。

 二階を先に確認に来てよかった。ちょうどティナメリルさんと賊が鉢合わせたとこだったとは……。

 間一髪だったことに安堵した。

 ……にしてもティナメリルさん、賊と遭遇したのに「キャー」とか悲鳴も上げないのな。

 怖いとかいう感情はないのかな。無関心にも程がある。

 と、それよりとっとと侵入した賊どもを処理してしまわないと。

 残る一階の一人、地下に行った二人を『隠蔽』で近づき、『雷の魔法』で失神させた。


 最後に本館。

 目を向けると青い玉が五つ……全体的に散らばっている。まあ本館は広いからな。

 個別に処理できるのはありがたい。とっとと片付けてしまおう……。


 ◆ ◆ ◆


 ギルド長室を隊長のジーオが捜索している。

 引き出しや棚の下の扉を開けて中を確認する――だが空振り。

 いまだ部下からの発見報告がない。

 どこだ……このギルドにあるはず。

 ……まさか、あの小屋ってことはないよな?

 そのとき、閉めずに少し開けておいたドアが、風で押されたように静かに開いた。

 小さくキィっと鳴った音に素早く振り向いた。


「誰だ!?」


 声を抑えて尋ねる……が、返事がない。

 ドアの辺りは暗くてうっすらとしか見えないが、人の気配がないことに訝る。

 ――勝手に開いたのか?

 警戒するも、誰かが入ってくる様子もなかった。

 しばらくドアをじっと見据え、何やら不気味な感じにキョロキョロした。

 ……何かが変だ。

 急ぎ部屋を出ようとしたその瞬間、彼の意識は闇夜に消えた。


 ◆ ◆ ◆


「――ッ、瑞樹さん?」

「ん?」


 宿舎に戻って服を脱いでいると、リリーさんが目を覚ました。


「……どこか出かけてたんですか?」

「んーちょっと。明日、話しますよ」

「何かあった――」


 人差し指を彼女の唇に当てる。


「リリーさん、起きましたね?」

「えっ?」

「……ボク~、リリーさんと~~続きがしたいんですけど~……」


 掛け布を取り、甘える声で裸のリリーさんに抱きついた。


「……もう、バカッ!」

「それ大好き!!」


 リリーさんとの初めての夜に邪魔が入ったものの、その後は空が白み始めるまで二人でしっぽり過ごした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 片手間で倒したw まあ、アレより大事たものはないな
[一言] 情報を得るのが中々早いなあ まあ、流れてる情報程度じゃドラゴンから瑞樹にはたどり着けませんわなあ
[良い点] 竜のドロップ品狙い…またクソ貴族関係か壊れるなあ。
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