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17話 防衛隊本部

 一昨日、行商人のルーミル親子が帰った後に衛兵が手紙を持ってきた。

 先日の襲撃事件の事情聴取に来てほしいとの内容である。

 主任に告げると、特に問題はないとの事だったので了承すると自分も付きそうと言ってくれた。

 正直心細かったので助かる。

 なので今日、俺は主任と馬車で防衛隊本部に向かっている。


 ――だが気が重い。


 襲撃を受け大けがを負わされた身ではあるが結果的には3人殺した加害者でもある。

 この国ではそういうのはどう扱われるのだろう……正当防衛とかあるのかな。

 そして確実に倒した方法を聞かれる。何をどこまで言えばいいだろうか……。

 外の街並みを見ながら考えていた。


 東大通りから中央市街地へ向かい、西大通りに入ってしばらく進んで北に折れる。

 すると馬車から2階建ての洋館が目に入る。


 あれか……。


 防衛隊本部である。

 なんとなく歴史の教科書で見た『鹿鳴館』みたいだなと思った。

 門をくぐると、いかにも兵士の駐屯地らしい重々しい雰囲気が漂っている。


 そして主任と2人、窓のない取調室に通される。

 そして治療院で会った人物が入室してきた。防衛隊第一小隊のカートン隊長だ。

 相変わらずのイケメンオーラ……だがここは彼らのホームグラウンド、圧が前より明らかに強い。

 アウェーの俺は1人だったら心折れてるなきっと。

 そしてもう1人、前回もいた魔法士と思われる隊員だ。


「その後どうですか?」

「おかげさまで大丈夫です」

「そうですか。それはよかった」


 軽く挨拶から始まり、襲撃の聴取が始まった。


 まずは時系列の再確認。

 事件の内容が治療院で話したのと齟齬がないかの確認だ。襲われて助かったところまで話す。

 特に問題はない。

 次に加害者の素性と現状。


 犯人は4人。

 路地裏で倒れてた3人は冒険者でいずれも剣士。ティアラ冒険者ギルドで登録、1年以上の経験者。

 もう1人の弓使いも冒険者。ティアラで登録、最近はヨムヨムで活動。3年以上の経験者。

 俺を襲撃して返り討ちに遭い、剣士2人、弓使い1人の計3人死亡。1人は聖職者の治療で回復。


 生きてた1人は俺に蹴りをかましてた奴だそうだ。

 バッグを奪おうとして密着してたやつがガッツリ感電、蹴りのやつは一瞬だったから助かったってとこか……。


 彼らとの面識を聞かれたがまったくないと答え、襲われた理由を尋ねる。


「その前に聞きたいんだが――」

「襲った彼らを返り討ちにして3人死んでるんだが……」


 おっと先に本題を切り出してきたな。

 隊長はやんわりとした口調で話している。だが態度は重罪人を相手にしてるそれだ……圧が急に強くなったな。


「何をしたか教えてくれますか?」


 目が全然笑っていない。

 まあ目の前にいる人物は3人殺した殺人者だからな。

 ただの一般市民のギルド職員が武力を商売にしてる冒険者を倒したのだ。


「よくわかりません……殺されかけたんです。正当防衛です」

「正当……防衛……」


 意味は通じている。


「襲われたから反撃しただけ……というわけだね」

「反撃かどうかもわかりません」


 彼は首を捻る。


「というと?」


 へたに隠し立てして嘘つくと碌なことにならないが、かといって全部話すわけにもいかない。


「実は魔法が使えます。森で亡くなってた魔法士の本を読んだら使えるようになったんで、咄嗟にそれを使いました」

「何の魔法?」

「雷の魔法と石の魔法です」


 そう聞くと後ろに控えてた人物に目をやる。


「雷の魔法を詠唱した……ということですか?」

「あなたは?」

「第一小隊の魔法士クールミンです」


 やはり魔法が使える人だ。


「わかりません」

「……わかりませんとは?」

「雷の魔法は練習で『体が帯電する』って気づきました。で、やつらがバッグを奪おうと被さってきたので咄嗟に唱えました」

「タイデン……ですか」

「……はい」

「それで倒したと」


 隊長が口をはさむ。


「だからわかりません。気づいたら倒れてただけです」


 頑なにわからないで通す。

 実際本当にわからないのだ。多分そうだろうとは思うけど自分から言う必要はない。


「雷……なんだよね?」


 クールミンが何やら納得いかなそうな表情を浮かべている。


「はい」

「本読んで使えたと……」

「……何か?」


 隊長はクールミンに目をやる。


「雷の魔法はその……学園でも使えた人は誰もいません」

「は!?」


 思わず耳を疑った。


「なんでです?」

「わかりません」

「は!?」


 魔法士が『使えない理由がわからない』と言っている。どういう意味なのか――


 彼によると、雷の魔法は『文字通りに詠唱しても発動しない』呪文らしい。

 教える教授たちもなぜ発動しないのか、とんと理解できていない。解読のための情報が足りないと悩んでるそうだ。

 なので『何がどうなるのかわからない』らしい。


 ――相当ヤバい!


 魔法学校の教授ですら発動しない魔法を使っちゃったわけだ。

 そういや魔法書の『雷の魔法』のページが他の魔法に比べ、少なかったな……。

 んなもん初級魔法書に載せるなよ……。


 じゃねえわ! 載せてくれたから助かったんだった……感謝感謝だ。


 雷の魔法が難しいとか知らない。簡単に使えたとなれば不審者レベルが急上昇……弁明せねばなるまい。


「俺は袋叩きにされてバッグを奪われそうになったのでその場に丸まって……で雷の魔法を詠唱したらやつらがその場に倒れてた……。それしかわかりません」


 一気にまくしたてる。

 焦りが顔に出てるかもしれないがもうそれしか答えないことにする。

 俺が何か隠してると、隊長は見抜いてる感じがするな。

 だが追及はできないはずだ。


「……まあいいでしょう」


 よし乗りきった。

 隊長は書類をめくって次に移った。


「では次に弓使いを倒した状況を教えてください」


「這う這うの体で路地から出た瞬間に左肩を撃たれ、しばらくして右足を撃たれました。このままじゃ死ぬと思って手で頭を隠したら屋根の上に人影を見たんです。そしたらそいつ…3階建ての建物の上から飛び降りてこちらに歩いてきました」


 隊長はじっとこちらを見ている。


「俺は顔の前に手をやったまま怯えてる風を装い、それで俺が怖がってるんだろうと気にせずバッグに手をかけた。そのとき、やつの顔の前に手をやって魔法を撃ちました」


 おでこの前に手を当て怖がる演技をする。

 するとクールミンがすかさず質問する。


「石の魔法を使ったんですね」

「はい」

「詠唱したんですか?」

「はい」

「詠唱バレませんでしたか?」


 やはり無詠唱はマズいっぽいな。


「あー聞こえないように小声でしたし、やつも俺が魔法を撃つとは思わなかったんじゃないですか?」

「それで石の魔法を間近で食らったってわけか」


 やつの顔面は陥没し、直視できない状態だったと隊長は説明した。

 俺は練習で威力を知ってたので直撃したらどうなるか……まあグロ画像だろう。

 隊長がクールミンに目を向ける。


「間近で直撃食らうとあんな感じになるのか?」

「いやーわかりません。逃げるやつの背中や足に撃ったことありますが、近距離で顔面直撃はないので……」


 そこまで言って俺を一瞥、何か含むところがある様子。


「ただ……」

「ん?」

「威力は詠唱の精度だと言われてるので、相当上手な詠唱だったことにはなります」


 彼はしばし俺をじっと見つめる。


「魔法書読んだだけで撃てるか……と言われたら正直……」

「……なんだ」


 隊長がせっつく。


「いえ……信じられないなーと」


 なるほど……『威力は詠唱の精度』か――指輪の能力でネイティブランゲージだから完璧ってことか。


「クールミンさんは石の詠唱は得意で?」

「そこそこ」


 隊長が振り向いて眉をひそめる。


「おまえ『そこそこ』なの? 前んときは『完璧』つってなかったか?」

「あ、いや……完璧です」


 彼は少し不思議に思っている様子だ。


「ただその……自分が石の魔法を使ったとしても、せいぜい顔面骨折ぐらいかなーと思ったので。中身吹っ飛ばすまでは……と」

「そんなにひどかったですか?」

「隊員で吐いてたやついたんでね……不甲斐ない」


 よかった……布かけといてくれて。


 いくつか補足で質問を受けたが、結局――


『路地裏の3人は雷の魔法食らって感電、2人死亡1人重傷、弓使いは石の魔法を直近で食らって死亡』


 ということで落ち着いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] まあ怪しまれたところで説明した通りのことしかやってませんからねえ 効果の程は例の指輪が大いに影響してるんでしょうが
[一言] 詠唱関連も翻訳が悪さしてるのかな 雷に関しては地球での現代知識も関係してそう
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