167話 デートの報告会 ラーナ視点
次の日の昼。
「はい二人とも、行くわよ」
「ちょ、ラーナさん!」「はーい!」
リリーの肩をガシっと掴むと、キャロルも連れて会議室へ向かう。
扉を開けると、そこには女性職員全員がニヤニヤしながら待っていた。
思わず拍手がとぶ。
二人は並んで椅子に座らされると、すぐにまわりをぐるっと囲まれた。
まるで犯罪者の取り調べかな……というぐらいのものすごい圧だ。
ところが当の二人は顔を赤らめてにっこにこ。まわりの女性たちも表情は嬉しさに満ちている。
そう……だってこれは、リリーとキャロルの昨日のデートの結果報告だもの。
事の発端は『瑞樹が二人にちゃんと告白したい』とお願いにきたこと。
二人と付き合うと話はしたものの、こう……いい感じで告げたわけじゃない。
というのも『他国の人』『女性に奥手』『ティナメリルさんがすでに彼女』という難題を抱えていたこともあり、彼自身だいぶ悩んでいたらしい。
そこでこの告白イベントを盛り上げるべく、女性職員全員でデートプランを練り上げたわけ。
――当然、結果を聞かなきゃね。
朝からまったく仕事が手がつかなかった女性職員みんな、主任の目が光っていたので昼まで我慢していた。
「ねえねえ、うまくいった? うまくいったの?」
「彼どうだった? ちゃんと告白した?」
「副ギルド長は? 来た? 話した?」
矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
「ハイハイ静粛に! みんな鼻息が荒いわよ」
まあ気持ちはわかるけどね。
二人を見下ろすと、みんなを代弁して小さい声で尋ねる。
「――うまくいったんでしょ?」
その質問に、リリーの顔は溶けるように微笑み、キャロルは笑顔が弾けた。
途端、女性たちから歓喜の悲鳴が上がった。
その声は、先だっての洗髪料の大騒ぎを優に超えている。
女性は恋バナに目がないものね。
二人はまず、待ち合わせから途中の休憩のところまで話をした。
と、ここでキャロルがスマホを取り出した。
「それは?」
彼女はスマホの説明をばっさり省き、瑞樹が撮影した『飲み物を飲んでいる四人』の映像を流した。
「うわっ! 何!?」
「えっ、キャロル!? なっ、これ中に……えっ!?」
「手を振ってるの……リリー?」
「ひゃぁぁぁ!! 副ギルド長、きれー!!」
おっ、瑞樹……動画を撮ったのね。これはいいわ。
女性職員はスマホについてまったく知識がないので驚くけど、誰も何も聞かない。
だって恋バナには関係ないもの。
皆、よくわからないけど『目の前に楽しそうな四人がいる』と思って観ている。
キャロルも「これ、途中の映像」とだけ告げ、しばらく楽しそうに笑う四人の様子をみんなで見入った。
話が進み、食事の話題になると、お店を紹介した職員が尋ねた。
「食事はどうだった?」
「瑞樹さんは『すごくおいしい』って言ってた。ティナメリルさんも全部食べたし」
「すごくよかった。ありがとう」
リリーの感謝に紹介した職員は、うるっときて涙をぬぐった。
二人の恋の協力ができて嬉しかったみたい。
ティナメリルさんの話で、飲みっぷりがすごいことを話すと、みんな驚きの声を上げた。
いよいよクライマックス。
遺跡のような幻想的な雰囲気のある公園でのひととき。
「そこで告白されたのよね?」
その言葉に二人はコクリと頷いた。
女性たちからはものすごい悲鳴が上がった。
二人の出来事を自分に投影して聞いているのか、告白が待ちきれないみたい。
台詞、一言一句すべて間違わずに言わないと許さない……と皆、真剣な表情をしている。
瑞樹からリリーへの告白、そして口づけ――
おそらく店頭まで聞こえてしまっているだろう、彼女たちの大絶叫が響き渡る。
おっ、キスまでいったの! 瑞樹も頑張ったわね。
続いてキャロルへの告白、からの口づけ――
そこまで話すと、突然キャロルが黙り込み、涙ぐんでしまった……。
彼女の様子にみんなびっくりして心配した。
キャロルは鼻声で、「告白もらうまですごく不安だった……」と口にすると、みんなの涙腺が爆発。全員もらい泣き。
女性たちは、返事を待たせた瑞樹の不甲斐なさを口にする。
「彼にも事情があるのよ」
そう諭すと彼女たちも「そうよね……」と納得した。
異国の人だし、エルフが彼女だし、ドラゴンと戦えるし……とまあ普通じゃないわね。
……単純に優柔不断なだけかもしれないけども。
年上のお姉さん職員がキャロルに抱きつき、口々に「よかったね」と激励する。
するとキャロルが泣き笑い。みんなホッとした。
ふたたびスマホが登場する。
皆が期待するように注目し、『瑞樹の報告』の映像が流れた。
瑞樹が「幸せです」と宣言するシーンが流れると、自然と拍手が沸き起こった。
これで終わりかな……と思っていた次の瞬間――
瑞樹が三人を代わる代わる抱え上げ、『たて抱っこではしゃぐ姿』が映し出された。
「!?」
「キャアアァァ!!」
「な……何それ!」
「ちょ、何? 見えない……見えない!」
「うわぁああ、いいなぁー!!」
ちょっ瑞樹! すごいことしてるわね!
彼の行動に唖然とし、見るとすべての女性職員が身悶えしていた。
瑞樹が嬉しさを爆発させて、抱きかかえながら喜ぶ姿は、女性たちにとってはあまりにも羨ましい光景だ。
ラブラブなカップルの映像に目が釘付けになっている。
そして最後、ティナメリルさんのたて抱っこからの口づけ――
みんなその光景にもはや言葉にならず、感嘆の吐息をもらしていた。
美しい……あまりにも美しいシーンに魅入り、何人かはクラクラっと倒れそうになった。
「キャロル! もっかい……もっかいやって!」
たて抱っこのシーンをみんなで何度も見返す。
彼女たちにしてみれば、動画とは現在進行形で行われている出来事と同じ。
今、自分たちは公園のまわりにいて、恋人が喜ぶ姿を眺めている……そんな感覚に陥っているわけね。
いや……告白がうまくいって本当によかったわ。
「みなさん、そろそろ休憩が終わりですよ」
おっと主任が苦言を呈しに来た。
気づけばみんな、時が経つのも忘れてスマホの映像を観ていた。
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