164話 お任せデートプラン
次の日。
仕事をこなしつつ、チラチラとリリーさんとキャロルの様子を窺う。
すると時折り二人と目が合った。
あーそっか、二人も俺のことチラチラ見ていたのか……。
ずっと返事待ちだったもんな……ホント申し訳ない。
お昼前、客足が途絶えたところで意を決する。
キャロルのそばへいき、肩をチョンチョンと叩く。
見上げた彼女に、人差し指をクイクイっとして「ついてきて」と指示。
そのままリリーさんのところへ向かい、同様に肩をチョンチョン。
ラーナさんと経理組の視線を感じつつ、二人を連れて奥の通路へ向かう。
大きく深呼吸すると、二人は少し緊張した面持ちで俺の話を待った。
「明後日、ギルドが休みですけど……二人は何か用事、ある?」
「いえ」
「私も~」
心臓がバクバクしているのがわかり、少し深呼吸をして息を整える。
「じゃあ休みの日、デートしませんか?」
「「デート?」」
「町をぶらついて買い物したり、食事したり、四人で楽しみたいと……」
「四人?」
「はい。ティナメリルさんも一緒に」
キャロルはすぐに意味がわかったみたいで、表情がパッと明るくなる。
リリーさんも意味を察し、少しはにかんだ。
二人の手を取って重ね合わせ、俺の手で包んだ。
「きちんとした返事はその日にしますが……まあその……」
照れる俺を、二人はうるっとした目で見つめている。
「これからよろしく……ということで」
「「はい!!」」
掴んだ手を、約束をかわすかのように数回揺すった。
二人が席に戻ると、すかさずラーナさんが声をかける。
……まあ聞かなくてもわかるっぽい。
嬉しそうな二人に満足そうに微笑むと、ラーナさんは俺に向いてサムズアップした。
俺は小さく「ども」と小首を下げる。
見ると横のガランド、前のロックマンとレスリーもサムズアップしている。
んふ……俺も「ゼヒモナシ」と、サムズアップで応えた。
昼休憩。
席を立って別棟に向かう。
コンッコンッ
「どうぞ」
「失礼します」
副ギルド長室のドアを開けると、ティナメリルさんは走らせていたペンを止めて顔を上げた。
「どうしました?」
「お仕事中すみません。あの、明後日ギルドがお休みですが、ティナメリルさん……ご予定はありますか?」
無表情のまま「ないわよ」と返ってきた。
「休みの日にリリーさんとキャロルとデートの約束をしまして、ティナメリルさんにもご一緒していただきたいのですが……」
「……デート?」
「はい。『好きな人と一緒に散歩したり食事したりすること』って言ったの、憶えてません?」
ドア前で彼女の挙動を待つ。
程なく思い出したように「うんうん」と数回頷いた。
「どうでしょう? 四人で町を歩いて楽しみたいのですが……ダメですか?」
「…………」
少し目線を下げて何か考えるような仕草を見せる。
「いいけど、あまり人が多いところは避けたいわ」
「わかりました」
よっしゃ、許可ゲット!
でもヤバい! この町のおすすめデートスポットなんぞ知らん!
余裕の態度で答えたけどどうしよう……。
まあとりあえず後回し。
「それとですね、事後報告になるんですがいいですか?」
「何?」
「リリーさんとキャロルの二人とも付き合うことにしました。なのでその……ティナメリルさんにお許しをもらいたいなと」
その言葉に彼女は俺を見据えたあと、すっくと立ち上がった。
あ……反応した。
少しアンニュイな動きで机上に指を滑らせ、机の正面にまわると、後ろに手をついて机にもたれた。
なんだろう……不誠実とか思われちゃったかな?
付き合っている女性の許可がいるって条件なんだけど、やっぱダメだったか……。
どうしよう……二人に何って言ったら――
「よかったじゃない!」
「!?」
意外なお褒めの言葉に息が止まった。
よかった!? 何が?
「瑞樹、座って」
彼女がソファーを指し示す。
いつものように座ると、彼女は対面ではなく俺の隣に腰かけた。
びっくりして彼女を見やると、優しそうな表情をしている。
「えっ、よかったんですか?」
「当たり前じゃない!!」
「なんでです?」
「もちろん、人の営みを持つべきだからよ」
人の営みって……えっ、エルフとはダメってこと?
あれ? これもしかして……ティナメリルさんにふられてる?
途端、背筋に寒気が走った。
「あ、あの……俺、ティナメリルさんと別れろって言われてるんですか?」
「違うわよ!」
彼女の眉間にしわが寄る。
「私とは時間の流れが違うでしょ? なので同じ人間の女性と結婚するべきだと思っていたのよ」
言葉の意味を少し考える……。
「あー……つまり、『人間との営みに自分を加えるべき』……という意味ですか?」
「そう」
「てことはリリーさんとキャロルと付き合うのはOKってことですよね?」
「もちろんよ」
大きく安堵のため息をついた。
よかったー!
ティナメリルさんにふられたのかとびっくりした。
むしろ逆で俺の人としての生活を心配してくれてたんだ。
「というか二人なのね、やるじゃない!」
「あ、は、はい」
彼女が俺の手を取り、手の甲をポンポンと叩いた。
意味的に「おめでとう」という祝福か。
言うてお婆ちゃんだしな。保護者目線にもなってしまうのかも……。
俺としては彼氏彼女のつもりなんだがなー。
チラっと横目で見やる。
真横に座って手を取っている……こ、これは状況的にキスをしてもよい雰囲気だろう……。
俺も恋愛経験値は上がってるんだ……イケる!
ティナメリルさんに顔を近づけようとした途端、彼女は手を離してスッと立ち上がった。
あ、あれ~!?
「まだ仕事中です」
「いっ!」
俺の心の中を読まれてびっくり!
あーそりゃ顔にはっきり書いてあったもんなー……会えると嬉しくてつい調子に乗っちゃう。
「すみません」
「ふふっ」
席についた上機嫌の彼女を見やり、副ギルド長室をあとにした。
裏口から本館へ戻ると、ちょうどお風呂へ向かおうとしていたラーナさんと出会った。
「あっ、ラーナさん!」
「ん?」
「助けてください!!」
「えっ!?」
ラーナさんにティナメリルさんとのやり取りを話した。
彼女は通路の壁に寄っかかり、腕を組んで考え込む。強調された豊満な胸が目を誘う。
「――つまり『人が多いところは避けたい』という条件に見合う散策がしたいのね」
「はい。できたら食事とかも」
「食事?」
「三人と食事しながら歓談したいですし、まあティナメリルさんは食べないかもですが……」
「なるほど」
「あ、別にお店じゃなくても、どこかで座って食べるとか……そんなのでも」
「屋台のテイクアウト?」
「……でもいいですし、お弁当でも」
「お弁当?」
「携帯用の小箱に食事を入れた外食形式なんですが、この国じゃそういう習慣ないですよねー」
「……冒険者の携帯糧食みたいなもの?」
「いえ、普通の料理です」
ラーナさんは弁当で悩むが、すぐに頭を切り替えた。
「それは一旦置いときましょ」
「はい」
彼女はふんすと気合入れて職場へ戻る。
「あれ? ラーナさんどうしたんです?」
つかつかと足早に自分の席につくと「集合!」と号令をかけた。
ラーナさん……完全にキャラ変わってますよ!
彼女の席を中心に、リリーさんとキャロルは椅子を寄せ、レスリーとロックマンが椅子を反対に向け座る。
ガランドはキャロルの後ろで腕組みして立ち、俺はリリーさんの後ろに立った。
「リリー、キャロル! ティナメリルさんは瑞樹と付き合うことを喜んでくれたそうよ」
「おおー」
ガランドが思わず呻いた。
リリーさんは嬉しそうに俺を見上げ、キャロルは弾ける笑顔を俺に向けた。
「で、何かあったのか?」
「明後日の休みに瑞樹と三人でデートするらしいんだけど――」
「デート?」
レスリーが「何それ?」という顔で尋ねる。
「恋人同士の街歩きよ。買い物したり食事したり、そういうやつ」
「ああ」
どうやらデートという行為は、街歩きという単語に集約されているようだ。
「副ギルド長は『人混みがダメ』らしいのよ」
「人が多いとトラブルに巻き込まれるからかな……口説かれるとか」
ガランドの質問に皆の目が俺に向く。
「それもあるが、町に出るのがひさしぶりで不安なんじゃないかな」
みんなは互いに目を合わせた。
「そういえば先日のドラゴン襲撃時に避難したじゃない」
「はい」
「あのときみんなに見られてたけど、寄ってくる人とかはいなかったわよ」
ラーナさんの説明にキャロルも続く。
「何となくみんな『近寄りがたい』って遠巻きに見てたかな~」
「じゃあエルフを見たからって、言い寄られるということはないってことかな?」
「たぶん」
リリーさんも口添えする。
「むしろラッチェルちゃんたち猫人のほうがびっくりかな」
「あー、なるほど」
この世界は人以外の種族が存在する。
なので異人種を見かけてもそこまで大騒ぎにはならないのかもしれない。
日本でハリウッド女優が歩いてたら「わ~綺麗な人~!」って目で追うぐらいってことか……。
まあ男一人ついてりゃ三人にちょっかい出される可能性も下がるだろう。
「じゃあまあ、人通りが少ないところを選べば大丈夫そうってことですかね」
「そうね」
ティナメリルさんの外出に不安がなさそうとわかりホッとした。
「――何事?」
買取担当の女性職員が通りがかる。
彼女の耳にデートの話が入ると、瞬く間に広がり、次々と女性職員がやってきた。
リリーさんとキャロルの恋愛成就を知ってキャーキャー盛り上がり、男性陣は押しのけられ、来店客は職場の騒がしさにドン引きしていた。
主任がいたら確実に大目玉であるが、運のいいことに昼から不在であった。
「……さすがにマズイわね」
ラーナさんも我に返り、女性たちは一旦解散。
明日の昼に、有志で会議室に集まり、デートプランを練ることになった。
「瑞樹、任せときなさい!」
「よろしくお願いします」
ラーナさんの頼もしい一言に、深々と頭を下げた。
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