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161話 ティアラ冒険者ギルドは今日も……

 ドラゴンの襲撃から十日が経過。

 キャロルは自分の席で、俺のスマホを手に持ち、険しい表情を浮かべている。

 ラーナさんとリリーさんも彼女の両脇に座り、身体を寄せて画面に見入っている。

 キャロルが画面をポンポンと叩き、じっと考える。


「あー違うなー……」


 タンタンタンと画面を叩き、眉をへの字に曲げて頭を悩ます。


「こっちが先じゃない?」


 ラーナさんの指示に従って画面を叩く。


「これこっちに入れて……これその下……あ、ダメか――」


 口に手を当てて考えていたリリーさん。


「これそっちじゃない? そしたらこの赤いのこっちに入れて……そうそう、そしたら緑がこっち――」

「あ、空いた空いた」


 キャロルに笑顔が戻る。

 すると、「あとはわかる――」と、タンタンタンと画面を叩いた。


「やった!」


 三人揃って顔を見合わせ、満面の笑顔になった。

 本を読んでいた俺は顔を上げ、その様子ににんまりした。

 スマホの画面には、15本の試験管に同色の玉が全て揃った状態でクリア表示が出ていた――


 パズルゲームの一種、『ボール揃えゲーム』である。


 17本の試験管が表示されていて、色がバラバラの玉が4個ずつ入っているのが15本、空の試験管が2本。

 玉を1個ずつ移動させて15本の試験管全てを同色の玉に揃えるというパズルゲームである。

 数日前にキャロルが手持無沙汰だったので、何となしに「やってみる?」と勧めたら喜んで飛びついた。

 しばらくスマホ使わないし、ギルドも暇なのでずーっとやっている――


 ティアラ冒険者ギルドはずっと開店休業状態なのだ。



 俺が領都から帰った次の日からティアラは営業を再開した。

 するとすぐに町の人たちから、

『瓦礫の撤去をお願いしたい』『荷物の搬送を手伝ってほしい』『避難するので護衛を頼みたい』

 といった依頼が押し寄せた。

 もちろんギルドとしては受ける。

 しかしこちらの返答はすべて「いつになるかわからないです」だった。

 背中を丸め、肩を落として帰っていく依頼者を見ながら、リリーさんたちも軽くため息をつく。

 けれどどうしようもない。


 ――肝心の冒険者たちがいないのだ。


 彼らはもともと根無し草、フランタ市に住んでいるわけではない。

 襲撃を受けた都市には見切りをつけるだろうから、当然フランタ市は人手不足に陥ってしまう。

 その懸念について、ギルド長は領主宛の手紙に記していた。


 ……それにしても、まったくいなくなるとは思わなかったがな。


 そこで領主は対応策を打ち出した。

 フランタ市への救援に対して『復興特別手当』を支給する方針を決めたという。

 その通知が二日前にティアラに届いた。

 要するに「フランタ市の復興関係には補助金出すよ」という話だ。これなら稼ぎになるとばかりに人も来るだろう。

 早ければボチボチ、その効果が出てきそうな気はするのだがなー……。



 しばらくしてティアラの玄関先に馬の蹄の音が聞こえた。


「失礼します」


 元気よく敬礼して、つかつかと俺を目指して歩み寄る。


「瑞樹さん、今日の報告に参りました」


 短髪で少し日に焼けた肌、無駄な脂肪のないスラっとした体つき、体に軸の通った颯爽とした歩き方、まんま某女性歌劇団の男役を思い起こさせる。

 先日、領都へ向かう際、馬に二人乗りさせてもらった女性――シーラである。

 目をキラキラとさせて、嬉しそうに「今日も会いに来ました」という感情を隠しもせず、俺がカウンターに出るのを待つ。


「ご苦労様です」


 彼女は、防衛隊に入る情報を定期的に報告しに来るようになった。

 ……別に俺が頼んだわけではない。

 一応、隊長からの報告という体ではあるが、どうやら無理やり用事を作っている感がある。

 状況説明を行い、嬉しそうに俺をじっと見つめると、「また来ます」と笑顔で去っていった。

 受付の三人が、じーっとこちらを注視している。

 ラーナさんはにやけつつ、キャロルとリリーさんは少し不機嫌そうだ。


 ……どうしてこうなった!?


 事の顛末はこうだ――

 領主への報告から帰った翌々日、カートン隊長がバザル副隊長とシーラを伴ってティアラを訪れた。

 二人は領主の館で倒れたことと、帰りの護衛ができなかったことの謝罪に来たのだ。

 事情は全部カートン隊長に話して納得してもらっている。火に対するトラウマが発症してしまったのだ。

 隊長は「二人は悪くない」と労ったそうだが、当の二人が謝罪したいとどうしても譲らなかったという。何とも律儀な。

 もちろん俺も「詫びる必要はない」と、頭を下げる二人をなだめた。

 むしろこれからトラウマを克服しなければならないだろうし、護衛してくれたことへの感謝の言葉を述べた。


 すると二人は俺に対して熱い視線を向けてきた。

 引き気味に困惑していると、カートン隊長から「お前がランマルだとバラした」と謝られた。

 あーやっぱりか……。でも仕方ないわな。


 二人とも忠犬ハチ公かと言わんばかりに、前のめりで「何かあったらぜひに……」と言ってくれた。

 いやいやあんたら、忠誠を誓うのは俺じゃなくて隊にでしょうが!

 この様子をカートン隊長は呆れつつも笑っていた。

 シーラは俺に対して完全にツンからデレに生まれ変わったらしい。めっちゃグイグイ寄せてくる。

 それでほぼ毎日ティアラに報告に来るようになったわけだ。

 最初、馬に乗れない俺に舌打ちしてたくせに……。チョロいなー。



 キャロルが「今日はもう疲れた……」と満足気にスマホを持ってきた。


「瑞樹さんはこういうのを作るんですか?」

「あーそうだね。そういう勉強をしてたね」


 手を差し出すと、スマホを俺の手に乗せた。

 ――ん?

 そのまま手を離さずにポツリと呟く。


「――やっぱり、日本に帰りたいですか?」

「えっ?」


 彼女を見上げると、口をギュッとして、今にも泣きそうなのを堪えている。


「なっ、なんで!?」


 突然の豹変に驚いて言葉が詰まった。

 その様子にガランドが理由を話す。


「退職を考えている職員がいるらしい……」


 ドラゴンの襲撃を受けたフランタ市は、壊滅していないとはいえ被害は甚大。

 商業活動もまともに稼働しておらず、人材不足も深刻。

 今後の見通しを考えたら、早めに移住したほうがいいと思うのも無理はない。ギルドもずっと開店休業だ。

 一部の職員がそのことを口にしていたという。


 俺は日本から来た人間だし、フランタ市にこだわる理由はない。

 キャロルはそのことが頭に浮かんだという――日本へ帰っちゃうのでは……と。

 スマホに乗せてる彼女の手が震えている。

 彼女を見上げ、その手をポンポンとやさしく叩いて微笑む。


「か、帰らないよっ!」


 もう一度、自分に言い聞かせるように声を出す。


「うん、帰らない!!」


 みんなが俺のほうを向いている。


「俺はこの町が気に入ってますし、ティアラも好きです。皆さんと仕事するのも楽しいですしね。帰る理由はないですよ」


 実のところ、俺の意思でどうにかなる話ではないのだがそれは言えない。

 すべては頭に吸い込まれた創造主の指輪が外れるかどうか。それもいまださっぱりわからない。

 途端、キャロルの目に涙が溢れた。


「なんだよキャロルー! 泣ーくーなーよー!!」


 彼女の手を、両手で挟んで前後に揺らす。


「エヘ……ズッ……アハッ………」


 俺がいなくならないことが嬉しかったようだ。

 涙を拭う彼女に、ラーナさんとリリーさんが慰めるように抱きしめる。

 リリーさんがこちらを向き、「大丈夫です」と微笑んだ。

 二人から受けた、愛の告白を俺は保留にしている。


『ちゃんと返事するから少し待ってください』


 優柔不断にも程があると思いつつ、いろいろと悩む事情もあって踏ん切りがつかない。

 それにティナメリルさんにも話をしないといけないし……。

 すると偶然にもロックマンがティナメリルさんの名を口にした。


「瑞樹にはティナメリル副ギルド長がいますしねー」

「あぁ!?」


 一瞬、考えでも読まれたのかとびっくりした。

 うっすら笑みを浮かべ、「彼女ができたのに町を離れる……はないよなー」と表情で語っている。

 ……いやまあそうなんだけど、今、その名前を言うのはどうなんよ!?

 途端、キャロルがシュンとする。


「いやいやいやいや、ティナメリルさんとはまだ何も――」

「私がどうかしましたか?」


 突然、後ろにティナメリル副ギルド長が登場した。

 皆も一斉に振り向く。


「――いや別に何でも……」


 焦って返事をすると同時に、ロキギルド長の階段を降りてくる足音が聞こえた。


「タラン、今から市の行政局に……ってどうした?」


 気づくとみんな勢ぞろい。

 そのとき、ギルド正面の玄関が開いた。

 数名の若い青年が店内を見渡し、やってるのかな……という表情で入ってきた。

 革鎧を着け、腰には短い剣を携えている。

 彼らの姿にギルド職員全員が理解した。


 ――冒険者だッ!!


 すぐに主任が手をパンパンと叩き、「仕事ですよ」と合図した。

 その仕草がこれほど嬉しいと感じたことはないとみんな思っていたに違いない。

 ギルド長は出かけると告げ、ラーナさんに秘書役を頼んだ。

 ティナメリル副ギルド長は、書類を主任の机に置くと、俺のそばに歩み寄った。


「瑞樹、今日時間ある?」

「――はい、もちろん!」


 おそらくエルフ語で囁いたのだろう。腰を屈めて嬉しそうに微笑んだ。


 リリーさんが冒険者に声をかける――


「いらっしゃいませ、ティアラ冒険者ギルドへようこそ!」


 今日からまた忙しい毎日が始まる予感がした。


「まるちりんがる魔法使い」第1巻 2024年9月20日 発売!

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詳しい経緯や裏話などは、動画やブログで近いうちにお話したいと思います。

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本編のほう、1話投稿時に書きあげていた内容まで終わりました。

30話辺りから毎日修正の嵐で、100話辺りからは話自体が変更入りました。

――もちろんまだまだ続きますし、絶賛執筆中です。

ただ書籍化作業の都合で、ちょいと不定期になります。ごめんちゃい。


これからもぜひ応援いただきたく――

ブックマーク、評価のまだのかたはぜひよろしくお願いいたします。


最後に一言:

「いぃぃいいやったでぇえぇぇぇぇ!!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 祝
[一言] 書籍化おめでとうございます。 書影見させてもらいましたが位置的にティナメリルさんが主役にしか見えずあれ?瑞樹はどこだろう?あっコレか!ってなりましたw(ぱっと見男性に見えなかった為)
[一言] 書籍化おめでとうございます。 表紙絵や挿し絵も気になるが、作者の後書きやサムネイルや編集後記(設定&参考資料集等)も執筆活動の一部なら、そこも駄目出しの対象に成るのか?
感想一覧
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