154話 ドラゴン撃退の戦利品
何となしに室内を見渡す。
ふと、ドアそばに立て掛けてあるアッシュの大剣が目に入る。
そのとき、大事なことを思い出した。
「あっそうだ!! ちょ、ちょっと待っててください!」
そう言ってギルド長室を退出し、布に包まれたあるものを抱えて戻ってきた。
「そういやこれ届いてたのを忘れてました」
それは丸太二本分ぐらいはありそうな大きさの代物だ。
「アッシュ、あんたに戦利品だ」
「ああ?」
「主任、すみません。ちょっとその皿をどけてもらっていいですか?」
ドライフルーツの入った皿を主任に持ってもらい、テーブルに広げてみせる。
すると三人は驚き、思わず叫び声を上げた。
「うお!!」
「なんだこれは!?」
「うわっ!!」
そう――ドラゴンの牙と鱗だ。
昨晩、防衛隊が持ってきてくれてたことを言い忘れていた。なお肉片は、『保存の魔法』をかけて倉庫に放り込んである。
「ほい、鱗一枚」
鱗は偶然にも三枚ある。
なので一枚は俺、一枚はカートン隊長、もう一枚がアッシュの戦利品とする。
彼が攻撃しまくった後足から剥がれたものなのか、もしくは口の辺りにあった鱗なのかはわからない。
思いのほか小さいというか、縦四十センチ、横三十センチぐらいの鱗だ。
ただし厚さは四、五センチはあるので重量感はある。材質は不明だが金属っぽい質感で、ドラゴンの鱗のすごさを感じる。
鱗を手に取ると思いのほか軽い。
アッシュに差し出すと、彼はじっとそれを見つめた。
「……いや、それはお前のもんじゃねえの?」
「何いってんの……言ったでしょ! 隊長とあんたの協力がなきゃ撃退できなかったって。戦ったんだから受け取ってくれないと!」
このやり取りをギルド長と主任は黙って見ている。
「――ホントにいいのか?」
「もちろん!」
「――じゃあ……その……遠慮なく」
「んむ」
アッシュは受け取ると、鱗をマジマジと眺め、ちょっと誇らしげに笑みを浮かべた。
冒険者としてこれほど自慢できる戦利品もなかろう。彼の嬉しそうな態度に皆、気分もよかった。
「で、ギルド長。これなんですけど……」
ドラゴンの牙が三本ある。
一本は五十センチぐらいの長さで、二本が三十センチぐらいの長さだ。
思いのほか小さいという印象で、折れたのは小さい牙だったのかもしれない。
俺は長い牙をコンコンと手の甲で叩きながら、
「これ、領主に見せたら撃退したって信じますかね?」
その言葉に三人とも固まる。
「……見せるって、どうやって」
「持ってけばよいのでは?」
「誰が?」
「ん~……」
アッシュを指さす。
「えっ、俺!?」
「戦った張本人の話なら聞いてもらえるんじゃないかな」
彼は全力で拒否する。
「いやいやいや……お前、あの……えっ?」
彼は混乱してうまく話せない。
ギルド長が口をはさむ。
「瑞樹、これを見せてどうするんだ?」
「とにかくフランタ市は健在ってことを理解してもらわないと。壊滅してないけど被害は甚大なので復旧が必要って話に持っていく感じ……ですかねー」
「う~ん……」
主任が怪訝そうな顔をする。
「ミズキさん、この牙がドラゴンのものってわかりますかね? 私たちは見ていたから信じられますけど……」
「あー……」
たしかにそうだ。
そもそもドラゴン自体、見たことある人がいない状態だ。
これを「ドラゴンの牙です」と見せても「うさん臭え~」って言われるだけか。
いい案だと思ったんだがなー。
いや……だがやはりダメ元でやってみるしかない気がする。
「ですが手紙や話だけでは絶対に信じないと思います。何か物的な証拠と撃退したという説明……その二つを提示して何とか信じてもらうしか」
「……瑞樹、お前が戦ったっていう話はするのか?」
さすがにアッシュは作り話はできないだろう。だがそこは問題ない。
「あー領主には全部話していいよ。俺が魔法使えること知ってるし」
「えっ、そうなのか?」
俺が訪れた翌日に厨房で火事があり、そのときに魔法で消火したことを話した。
もちろんギルド長と主任は知っているが、アッシュは初耳なので驚いている。
「なので俺の魔法のことも話せば、それなりに信憑性は増すかも」
「じゃあ瑞樹、お前が行けばいいんじゃないか?」
「俺は行けない」
「なんで?」
「このあと防衛隊の救護所に行って治療活動するんで」
「は? あー……それであの服か!」
アッシュは気づいたが、ギルド長と主任は何のことだかわからないという顔をする。
昨晩、聖職者の衣服を着て治療活動をしていたことを話した。
「お前、そんなことまでしてたのか!」
「成り行きでしたけど、まあ目にした以上は放っておけなかったので」
三人は改めて、俺のしていることに感心しきりだ。
ギルド長が大きな牙を触りながら尋ねる。
「じゃあこの牙は領主に差し出すのか?」
「欲しいって言えばあげてもいいですが、フランタ市の復興に向けた早急な確約が条件ですかね」
「自分の戦利品として売れば金になるんじゃないのか?」
「んー……復興に一役買うほうが気持ち的にはいいかなー」
「相変わらず欲がないな、瑞樹」
「災害で儲けるような感じはさすがに気が引けますしね」
そう言ってドライフルーツを口にした。
「あ、そういやこの町……フランタ市の一番偉い人って誰なんです?」
とんと頭から抜け落ちていたが、災害復興の陣頭指揮を執るのは町の一番偉い人だ。
「領主代行がいるのだが……」
ギルド長が斜め上を見上げ、思い出すように口にする。だが正直よく知らないらしい。
理由を尋ねると、いわゆるお飾り職らしく、年の半分も町にいないらしい。
なので現在この町にいたのかどうかもわからないし、いても役に立たないだろうとギルド長は放言した。
その話に呆れた。
ますます領主に状況を伝えて救援要請をしなければ――
「じゃあギルド長、一筆……」
俺はペンを走らせる仕草をしてみせると、ギルド長は小さく頷いた。
領主への現状報告やら復興に向けての陳情などをしたためてもらう。
もちろん各地へ状況説明の手紙も必要だろう。そのあたりの詰めを主任としてもらう。
「それとカートン隊長にも相談が必要かな」
もし牙を手に説明に行くとするなら、アッシュにお願いすることになると思う。話はしておいたほうがいいだろう。
このあとアッシュも俺と一緒に防衛隊本部に行き、カートン隊長と相談することにした。
事情があって、続きは二週間後ぐらいに投稿できればと思います。
お読みいただいてるところ申し訳ありません。
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