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145話 水の魔法による消火活動

 ティアラを出てすぐ、本館の屋根に跳び乗る。


《跳躍》


 日が暮れて本来なら真っ暗なのに西地区と南地区は明るい。

 火事がいまだ収まらず、もう四時間以上燃えていることになる。

 この世界の消防はどのようなものなのか知らないが、ほとんど消火されていないように見える。

 襲撃時は東から西向きの風だったのが、今は北から南に吹いている。

 南西地区はたしか貴族とかが住んでる地区だと聞いていたが、そちらに火の手が襲おうとしているようだ。

 風上は北だから……まずは西大通りから手をつけるか。


 日が暮れて人出は少なくなったものの、東大通りにはいまだに人がいる。

 とにかくフランタ市から避難して別の都市へ向かうのだろうか。

 夜通し移動できるとは思えないが、とにかく町を出たいといったところか。



 西地区の火の手が上がっているところへやってきた……が、火事は完全に放置されている。

 というか住民には手の施しようがないレベル。俺も近くで目にすると怖い。

 幸い人気もなさそうなのでとっとと大規模消火に移ろう。

 少し距離を取ってから、風上にある建物の屋根の上へ。そして水の魔法を散水になるように唱える。


《詠唱、放水拡散発射》


 おでこから水の散布開始。

 放水は直接狙うのではなく、頭を少し斜め上に向けて、空に向けて放水をする。

 首がちょっとしんどいが我慢我慢。

 放水量がわからないので、とりあえず消防のレベルから。

 後付けで調整できることは確認済み。徐々に威力を上げていく。


《上げて……上げて……》


 魔法言語で水量を増やすイメージを試みる。

 すると威力と水量が増して、どしゃぶりの雨といった感じになった。

 おそらく人がいたとしても、暗闇から放水する俺の姿は見えないはず。

 もし人がいたら、突然大雨が降り始めたと思うだろうな。

 まさに天の恵みというやつだ。

 上からの放水をざっと終え、降りて火の手が残っているところへ小さく放水して消火をする。

 今後の練習にもなるだろうから丁寧に行う。


 西地区の消火を終え、続いて南大通り。

 が、そこはまさに地獄絵図というにふさわしい惨状だ。

 南門は崩落し、辺り一帯は真っ黒こげ。くすぶる火に照らされる大量の黒こげ死体。漂う肉の焼けた臭い。

 思わず吐き気をもよおす。

 が、なんとか耐えた。

 とにかく何も考えずに消火をしよう。


《詠唱、大放水拡散発射》


 一心不乱に火に向けて放水を続けた。

 ほとんどの建物が焼け落ちているため、何の建物だったかがわからない。

 たしか南門の近くにはアーレンシア商業組合があったはず……結局、一度も訪れることはなかったな、と少し後悔した。


《停止》


 数十分かけて消火活動を行い、ほぼ鎮火に成功した。

 すると少し離れたところから歓声が聞こえた。どうやら風下のほうからだ。

 思わず目を凝らして見るが人影は見えない。

 まあバレてはいないはず……おそらく火が消えていくのを目にしていたのだろう。

 もうそっちに火の手がいくことはないので安心しろ。



 さて、それじゃあ戻るか……あっそういえば!

 ふとある建物のことが気になったのでそこへ向かう。それは教会だ。

 この町の治療を一手に引き受けている施設が初っ端に襲撃を受けたのだ。

 ドラゴンが意図して狙ったとは思えないが、この襲撃はフランタ市としてはかなりの痛手である。


 教会に到ちゃ……いや、教会跡に到着だ。

 建物は完全に崩落し、瓦礫の山と化している。周りを見渡すが人の気配がない。


《そのものの在処(ありか)を示せ》


 火の手も上がっていないので辺りは真っ暗。『探知の魔法』で生存者がいないか確認する。

 視界に青い玉は入るのだが、これは遠くに避難している人たちのだ。

 もし聖職者が生きていれば自分たちで治療して逃げたのだろう。それ以外は死んでいるということだ。

 探知を切っておでこライトに切り替える。


《詠唱、灯りを》


 途端、周囲がパッと明るくなった。


「うわっ!!」


 思わず声を挙げてしまうほどの惨状を目にしてしまう。

 瓦礫から大量の真っ赤な血が、道を伝って川のように流れている。

 建物周辺には倒れている聖職者が数多く見られ、中には四肢が吹き飛んでいるものもあった。


《消灯》


 ライトを消すと、明るさに目をやられたので辺りがひときわ真っ暗になった。

 月明りに目が慣れるまでしばらく待とう。

 心臓の動悸が辺りに聞こえるのではないかというぐらい大きい。大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせよう。


 しばらく建物周辺を探索する。

 以前寄付しに伺った際に見かけた、教会横の学び舎みたいな建物に向かう。

 ここは半壊程度に収まっていた。

 が、人の気配はない。

 火事場泥棒みたいで気が引けるが、何か神聖魔法に関する情報が得られないかと探す。

 するといくつかの書物と書類を発見、辺りを見渡してから目を凝らす。


《暗視》


 十秒ほど使える身体強化術の暗視で確認。


『シシルの祈り 解毒』


 おっとお! 当たりを引いたか!

 即座にゲーム脳が起動する。これはアンチドーテ……解毒魔法か!

 暗闇の中、自然と顔がにやけた。


 それから少し進み、別の部屋に入る。

 するとこれまたいいものを見つけた。棚に積まれている衣服……聖職者の衣装だ。

 更衣室……ではなさそうで、保管室っぽい。

 おそらく新規入信者用の衣服とか、そんな感じではなかろうか。

 持ち出して広げて、おでこライトで照らす。

 これはたしか、前に町で襲われたときに治療してくれたお姉さんが着ていたのと同じだ。

 白地に青のラインが入っているだけの無地の衣装。

 袖には金色の刺繍が施してあり、足首まで隠れる丈の長さだ。

 男も女も一緒の服だったが、女性は胸があるので男女の違いはあるとは思う。

 まあどっちでもいいや。


 せっかくだしティアラの制服の上から着てみる。

 しかも他の棚に、帽子……じゃなくて頭巾って呼べばいいのかな。そんな感じの白い被り物を発見する。

 それに白い靴、あとこれは……マスク、というより顔を覆う布かな。

 しばし手に取り用途を考える。

 あーもしかして、汚いところとか臭いところに行くときにするマスクか。

 これは全部装備してしまえば正体がバレないな。

 さっそく使わせてもらおう。

 そそくさと着替えると、予備として数着いただいて、大きめの服に荷物を包んで立ち去った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 消火活動いいですね [気になる点] 『火事場泥棒みたい』じゃなくて火事場泥棒をしているのに驚愕  本だけではなく聖職者の服まで  服はなんに使うの? [一言] 盗みを働く主人公に現実感
[一言] 教会は当時すぐに逃げずに物を持ち出そうとしてたりしたからなー ひでえ有様だったろうなあ
[気になる点] 倒壊した建物や焼失した建物には、保存の魔法を施す必要は無いとして、粗方復興が成った後に、主要な建物に保存の魔法を施しておけば、耐震&耐火性能upした建物に成るのか? 保存魔法と植物の…
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