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141話 仲間との再会

 火傷による顔面の痛みと、戦闘終結の脱力感から、しばらく突っ伏したままでいた。

 と、そこへ風が吹きつける。

 ――寒っ!

 水に濡れた地面を転げ回ったせいで服がびしょ濡れだ。寒風に思わずブルブルっときた。

 さっきまでドラゴンのブレスで熱気ムンムンだったのが嘘みたいだ。


《詠唱、脱水発射》


 ダンゴムシ状態で丸まったまま詠唱してそのまま服を乾かすと、べっとり感がなくなって幾分楽になった。

 そういえば、脱水の魔法のときの《発射》の運動エネルギーはどこに向かってるんだろう……。

 マナへの逆変換だからー……えーっと……。

 などと、痛みから気を紛らわせたかったのか、知らずに漠然と考えていた。

 そのとき、遠くから聞きなれた声がした。


「……さん、……ずきさん、……瑞樹さん!」


 んあ……キャロルの声だ……。

 ぼーっとした意識のまま上半身を起こし、声のするほうへ顔を上げる。

 ポニーテールの金髪をなびかせて、広場の城壁側から猛ダッシュで駆けてくる。

 なぜそんなとこから?

 このとき、広場近くの城壁には、見張り塔へ上がるための昇降口があるとは知らなかった。


「ミズギザアァァァン!!」


 俺の手前までやってきた彼女は、涙で顔がぐしゃぐしゃに濡れている。


「よぉ……」


 疲れた様子で返事をすると、彼女は跪いて思いっきり俺に抱きついた。

 うおっと!

 勢いに押されそのまま倒れ込んだ。

 あっ、また服が濡れる……と思っていたら地面も乾いていた。

 彼女に手を回す。

 俺が生きていたことに安心したのか、抱きついたまま思いっきり泣きだした。


「うわあああああああん!!」


 その泣き声と彼女の温もりに、生き残った実感が湧いた。

 みんなを守れたのだ!

 彼女の頭をポンポンと軽く叩いて慰める。


「怖かったな。もう大丈夫だ……」

「みずぎざぁん……みずぎざぁぁん……」


 鼻声で俺の名前を繰り返すと、さらにギュッと抱きついた。

 その声に反応したのか、アッシュが起き上がり、カートン隊長も意識を取り戻した。

 隊長が上半身を起こしてキョロキョロと辺りを見渡す。


「――ドラゴンは?」

「撃退しましたよ」


 キャロルに倒されたまま、してやったぞという表情で返事をする。

 隊長はキョトンとした。

 彼は吹き飛ばされてからの出来事を知らないからな。

 広場にドラゴンの姿がないのを確認すると、安堵するように大きく息を吐いた。

 よく見ると、隊長の防具の横腹部分が削り取られている。あと数センチ深かったら腹まで届いていた感じ。剣で防いだのだろうか……危なかったな。

 いくら治癒魔法で治せるとはいえ、即死もあり得るし、治療ができない状況も考えられる。

 戦闘中の大怪我は禁物だ。


 アッシュも炎に焼かれたはず……だが意外にも服や防具が焼けていない。

 そういや俺も服が焦げていない。目ん玉蒸発するほどの火力を浴びたのにな。

 ……ああ、なるほど。体が濡れてたのとブレスが一瞬だったせいか……。

 あと少しでも剣を放つのが遅ければ、焼け死んでたのかもしれないな。

 彼はドラゴンのいた場所を見つめ、しばし茫然とした。


「――ドラゴン……は?」

「ん、撃退した!」


 相変わらず押し倒されたまま、満足気な表情で答える。


「残念ながら倒せなかったがな……」


 親指で後ろを指さす。

 そこにはカートン隊長の大剣が落ちていた。ドラゴンを退ける一撃を与えた崇高なる剣だ。


「まあかなりのダメージは受けてたはず。当分来ねえだろ」


 そのとき、城壁側から続々と人が来るのにアッシュが気づいて目を向ける。


「……キャロル」


 彼女に声をかけ、背中をポンポンと叩いて身体を起こす。


「二人のおかげですよ」


 カートン隊長に手を差し出す。

 彼はその手をじっと見つめたのち、少し気恥ずかしそうに腕を伸ばし、手を握り返した。

 途中で戦線離脱したことを気にしているのだろうか。

 彼の大剣がなければドラゴンを退けられなかったのだ。誇ってもらわないと困る。

 アッシュにも手を伸ばす。

 じっと俺を顔を見つめ、参りましたという表情を浮かべて俺の手をギュッと握った。

 以前、俺の秘密を知りたがっていたからな。

 それがこんな桁違いの魔法を使う奴とは思ってなかっただろう。さぞかし驚いたはず。

 まあでも彼が剣を支える役をしてくれなければ、ドラゴンに一撃を与えられなかった。

 二人の偉大な剣士に心から賛辞を贈った。


 皆で立ち上がると、ちょうどギルドの面々がやってきた。

 ラーナさんは涙を浮かべて嬉しそうな表情を見せている。


「瑞樹……」

「ラーナさん」


 彼女は俺を抱きしめると、右肩に顔を埋めた。

 すぐ後ろにリリーさんがいた。

 心配そうな表情で目を腫らし、頬に涙が流れた跡が残っている。


「リリーさん」


 安心させるように微笑むと、彼女は俺の胸に顔をうずめ、声を押さえて泣き出した。

 とても怖かったのだろう。

 左手をそっと彼女の頭に乗せる。

 ティアラの受付嬢三人に抱きつかれている様は、さながら勇者の帰還といった感じだ。


 次々にやってくる職員の面々。

 皆一様に驚いた表情を浮かべている。

 俺の魔法に驚いているのだろうか……それともドラゴンの襲撃の恐怖がいまだ冷めないのだろうか。


「瑞樹、大丈夫か?」

「ええまあ、何とか……」


 ロックマンとレスリーが労いの声をかけてくれた。

 疲れた表情で笑みを浮かべると、感謝の言葉とともに握手を交わしてくれた。

 それにみんなが続く。

 みんな未曽有の惨事を生き残れた安堵に浸っていた。


「瑞樹!」

「ミズキさん!」


 ギルド長と主任だ。その表情はとても満足気である。


「……何とか生き残りましたね!」


 笑みを浮かべて握手を交わす。避難誘導に尽力していただいて助かったとお礼を述べた。

 そして最後にティナメリルさんが姿を見せた。


「ティナメリルさん、大丈夫ですか?」

「……瑞樹」


 思わず歩み寄る。よかった……元気そうだ。

 運んだときの血の気がなかった顔色は、今は正常に戻っているように見える。

 意識もはっきりしているようで、怪我の後遺症はなさそうだ。

 ホッと胸を撫でおろす。

 手には俺が渡したウエストポーチを持っている。

 よかった……遺品にならなくて。


 互いにじっと見つめ合う。

 突然、彼女は感極まったように表情を崩すと、目から涙がこぼれた。

 初めて見る彼女の泣き顔にびっくりする。

 そっとポーチを差し出したので、小さく頷いて受け取る――

 するとスッと俺の首に腕を回し、抱きついて頬にキスをした。


「――ッ!?」


 その行動にみんな目が点になる。

 彼女の柔らかい唇の感触に全神経が集中し、顔の痛みが吹き飛んだ。

 笹葉のような長耳が目端に映る。


「瑞樹……」

「――っはい!」


 ささやく声にドキッとする。

 彼女はゆっくり身体を少し離すと、俺の顔に自分の顔を近づけた。

 互いの鼻先が触れ合い、めっちゃ間近で彼女と見つめ合う。

 ドギマギする俺――

 こ……これは何? あ……あれか? このままチューがきそう……くる……くるのか?

 いや……俺がするか? していいのか?

 彼女の予期せぬ行動に動揺する。


「ありがとう」


 彼女は小さくお礼を述べると、満面の笑顔を見せた。

 チューではなかったあああっ!


 みんなは何となく、彼女の心境の変化を察した――

 エルフが人間の一青年に好意を寄せたのだろうと。

 彼女の様子にギルド長は嬉しそうである。


 そのとき、町のほうから数騎の馬が駆けてきた。

 防衛隊の連中――先頭は見覚えがある。魔法士のクールミンだ。


「――ぉ! たいちょおおお!!」


 その声にカートン隊長が反応した。

 彼らは東門への市民の避難誘導を行い、ガットミル隊長からここにいるのだろうと言われてきた。

 東の空へドラゴンが去るのを目撃し、隊長が心配になってやってきたという。

 クールミンは辺りを見渡す。

 地面には草が剥がれた大きな楕円が描かれている。ドラゴンが歩いた跡だと理解する――


「一体何があったんです?」


 ここにいるのは隊長と、ティアラの職員と大剣を担いだ冒険者のアッシュ。

 さっぱりわからないという表情を浮かべる。

 すぐさま俺が声をかける。


「カートン隊長がドラゴンと戦って撃退したんですよ」

「――!?」


 クールミンが驚いた顔でこちらに向いた。


「おい瑞樹っ!」


 思わぬ答えに隊長は驚く。

 そりゃそうだ……彼は最後を知らないのだからな。

 だが遠慮なく続ける。


「隊長の鎧見て! 爪の痕がすごいでしょ!」


 隊員たちの目が隊長に注がれる。

 爪でばっくり裂かれた革鎧に、隊員たちは度肝を抜かれた。


「最後、あの剣でドラゴンに痛恨の一撃を与えたんですよ。な、アッシュ」

「んん?」


 俺が親指で剣を指さし、アッシュに同意を求める。

 いきなり話をふられた彼は、一瞬剣に目をやると、すぐ俺に向き直って口を開く。


「いや、飛ばしたのはおま――」

「いやあ~隊長、ドラゴンの攻撃を上手に捌いてた……うん。アッシュも頑張って攻撃してたし……な!」


 言わせないぞ! 俺が剣を飛ばしたなんて言わせない!

 アッシュをじっと見て目配せをする。

 防衛隊の連中が見ている……カートン隊長をたてろ……空気読め!

 彼は開いた口を一旦閉じると、俺の口車に乗った。


「――――まあ……そうだな」

「おい!」

「隊長と……この冒険者のアッシュがドラゴンと戦って退けたんです! 見てました……俺じっくり見てました!」

「はあ?」


 俺の言葉に二人は言い返そうとするが、それどころではないと話を逸らす。


「――んなことより町はまだ大混乱です。何とかしないと……」


 その言葉にカートン隊長は職務を思い出す。

 数名の衛兵を現場に残し、部下の馬にまたがった。


「瑞樹!」

「はい?」

「――ありがとう」


 彼の言葉に手を挙げて答えた。

 詳しい話は後日に頼むと言い残して去っていった。

 事情を知らない防衛隊の連中に少しだけ話をし、もし何かめぼしい物があったらティアラに持ってきてと頼んだ。


「よし、じゃあ戻ろう」


 ギルド長の言葉に皆は頷いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] you tubeのWOT動画から参りました。 面白い作品をありがとうございます。 楽しみに拝見しています。これからも頑張ってください。
[一言] 責任回避し続けてるけどー、周りが実力に見合ってない評価を受けるのもまた、危険だと思うのだがー 特に他で厄災があったときに「来てくれ」と言われたときに。 そこら辺までは、いつも通り考えてな…
[気になる点] >ドラゴンに致命傷を与えた崇高なる剣だ。 撃退しただけで死んでいないのだから"致命傷"ではないのでは? 致命傷とは死の原因となった傷の事だと思う。
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