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14話

 次の日出社。

 みんなは体調万全になるまで休んでいいよと案じてくれた。

 俺は大丈夫ですと撃たれた肩をポンポンと叩く。


 あの状態から完治する魔法――お祈りはマジで凄い。

 そして痛み止めの薬も凄い。効き目がハンパない。


 2日目になると痛みが筋肉痛レベルまでに落ちた。

 撃たれた箇所の筋肉に力をグッと入れたら痛いと思う程度である。

 鎮痛剤は今後常備薬としてウエストポーチに入れとこう。


 経理の皆が無理はせずと言うので、そのつもりと笑って返す。

 書類をペラペラめくりながら一昨日の出来事について思いを馳せていた。


 治癒――傷を治す魔法。


 外科医いらず……というかこの世界おそらく医者いないなこれ。

 確実に死ぬだろう重傷者がものの数秒で完治する。


 まんまRPGの世界観。


 ヒーラー数人いたら絶対死なねーなと思う……いればな。

 いなきゃあっさり死ぬ。襲ってきた奴らは3人死んだ――まぁ殺したのは俺なんだけど。

 あいつらの中に聖職者いたら俺が死んでた……運が良かった。


 ――というか聖職者は冒険者にならないのだろうか。


 ティアラで聖職者を一度も見たことない。

 というより存在を知ったのは一昨日だ。


 お姉さんマジ美人だったな……。


 たしかに昨日俺が瀕死の時に衛兵が聖職者を連れてきてくれた。

 教会所属だった……別口なのか?

 冒険者としてまったく見ない理由……主任に聞いてみるか。


「主任、教会の聖職者の方って冒険者とパーティー組んだりしないんですか?」

「組みますよ」


 あっさり思ってた答えが帰ってくる。


「え? でもティアラじゃ全然見ませんが……」

「頼めば来ますよ。でもうちは頼むような依頼はほとんどありませんから」

「――頼む?」


 よくわからないという顔をしたら主任が説明してくれた。


 聖職者をパーティーに入れるのは独特なシステムになっている。


 聖職者は教会所属。

 なのでパーティーを組みたい場合、まずギルドから教会に派遣要請を出す。

 要請があると、依頼内容に応じた聖職者を派遣されてパーティーを組む。

 依頼が完了すると、パーティーは聖職者に派遣費用を支払う。


 という仕組み。

 つまり『何もしてなくてもお金は貰える』ようになっている。


 たとえば討伐依頼をこなした際、誰も傷つかずに済むとヒーラーは何もしないことになる。

 それで依頼の取り分を山分けになると、普通戦った連中から不満が出る。

 だがヒーラーを頼んだということは、それを容認して受けた依頼なので文句を言えないだろってことだ。


 要は『保険で呼んだんだから料金は払え』というわけだ。


 ただしこれ、派遣を頼んだ冒険者は依頼が空振りでも聖職者には金を払わなければならない。

 なのでだいたい派遣されるのは大規模な討伐依頼時ぐらい。

 または怪我が予想される難易度の高い討伐時ということらしい。


「その……簡単な依頼でも怪我することはあると思うんですが……」

「購買に傷薬売ってますし、街に帰ってきてから教会にいけば治してもらえますよ」


 身も蓋もない……。

 簡単な傷なら舐めとけってことか。

 ヒーラーの必要性は現地で死ぬ可能性が高い場合のみか……まあ、たしかにそうだな。

 ゲーム序盤は薬草食って治すのと一緒か。

 金ないもんな。


 聖職者派遣の話はなかなかいいシステムだとは思う。

 取り分で揉めることが無くなるという点ではな……。


 ゲームでもヒーラーの働きを理解しない戦闘職というのは実に多い。

 後方支援を理解できない連中だ。

 実社会でも、会社は営業や開発だけが金稼いでると思って総務や庶務の仕事を見下す連中のようなものだ。

 物事を全体で考えられないバカだ。

 この世界でもそういう連中が多いから聖職者を別枠で扱っているのだろう。


「うちでも聖職者を頼む案件とかないんですかね」

「まーないですね。よほど死に目に遭いそうな魔獣や魔物退治でもなければ。でもそんなのうちじゃ受けませんし」

「ふむ……」


 机の書類をペラっとめくる。

 俺が伝票整理してる書類のほとんどは薬草採取や配達依頼の精算がほとんど。

 まあ楽でいいんだけど……。

 そもそも魔獣というものが何かを知らない。

 命の危険がない依頼が多いのならそれに越したことはない。


 ――だが何か面白くない。


 いちいち別口で頼むしかないのがつまんない。

 固定で組んでるパーティーとかいないのだろうか……。


「なんていうか、冒険者パーティーとして一党を組んでる聖職者っていないんですかね?」

「なんでです?」

「いやその……イメージっていうか、固定で組まないのかなーと……」

「そりゃいますよ」

「え!?」


 いるのか。拍子抜けだ。


 聖職者の中にも、ずっと教会で働くのが嫌な人もいるそうだ。

 そういう人は率先して冒険者たちとパーティーを組むらしい。

 それで意気投合するパーティーができればずっと一緒に活動するそうだ。

 教会側も収入の一部を入れてくれれば特に文句もない。

 教義の一環として受け入れてる。


「それ聞いて安心しました。もし俺がパーティー組むときは絶対聖職者は固定で入れますね」

「そうなんですか?」

「ヒーラーいないパーティーとか日本人には考えられないので……」


 話を聞いてたガランドが口を挟む。


「瑞樹、冒険者すんの?」

「しませんけど!?」


 するなら入れるよって話をすると、よくわからんって顔された。

 まあゲームの話だしな。


「日本人はパーティー組むときはヒーラー入れるって相場が決まってるんですよ」

「へー」


 漫画でもアニメでもゲームでも、ヒーラーいないパーティーなどいない。

 組むならあの綺麗なお姉さんがいいなーと妄想していた。


「あでもヒール3回でバテるのはなー……」


 ひょっとして新人聖職者なのだろうか……使えるスキルはどの程度なのだろうか。

 いろいろと考えながら電卓の画面を叩いてた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白いです [気になる点] 瑞樹本人も我々読者も手探り状態、世界観がまだふわふわしていて謎だらけですね [一言] 3回もできるのか、3回しかできないのか、お手軽ヒーラーが馴染み深い日…
[一言] やっぱまだまだ知らない事多いですねー 聞ける事は恥ずかしがらずにどんどん聞いていきませんとね
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