13話
次の日、主任が迎えに来てくれた。
肩をトントンとされるまで起きなかったので相当体力消耗してたみたい。
体を起こすとイヤホンとスマホが出てたのに気づき慌ててしまう。
すると主任がすぐに「これを……」と言って着替えを渡してくれた。
「あ……そうか」
昨日着てた服は血だらけの泥だらけだ。
「制服の予備ですので気にせず……」
「ありがとうございます」
たしかに襲われたボロボロの姿で帰るのは忍びない。そそくさと着替える。
帰る前、治療院の方にお礼の挨拶をする。そして教会への寄付は後日伺う旨を伝えると頭を下げてくれた。
まあ個人的に気になることもあるし……宗教とかお祈りとかな。
外に出ると馬車が用意されていた。
「え……」
主任が用意してくれたらしい。
まあ重傷負った怪我人を歩かせて帰るのかと言われれば、たしかにそれはない気はする。
初めての馬車が怪我での乗車か……状況はどうあれ嬉しい。
どこの馬車かと尋ねたら、送迎用の貸し出しをする業者がいるのだそうだ。
日本のタクシーみたいなもんかと思ったらお値段はそれなりにするという。VIP待遇のハイヤーのほうだな。
ギルドの持ち出しか……と思うとちょっぴし申し訳ない気持ちになる。
などと思っていたら数分で着いた。まあ歩いても十数分の距離だしな。
ギルドに入るとすぐにみんな気づき、心配そうに寄ってくる。
口々に大丈夫かと声をかけてくれる。
受付対応中のラーナさんとリリーさんは立ち上がってこちらを見たので手を上げて返事をする。
経理の連中の心配に頷いて応える中、キャロルの不安そうな表情が目に入る。
笑みを浮かべてガッツポーズすると安心して笑ってくれた。
皆が気にかけてくれたことに目頭が熱くなる。
死の淵からの生還というシチュエーションは初めてなので正直照れくさかった。
「ご心配をおかけしました。こういうとき…どんな顔をすればいいかわかんないです」
アニメ史上最大級の鉄板ネタで返答したが当然お約束の返しはない。
だがみんなハハハと笑ってくれたのがとても嬉しい。
店内にいた客は事情を知らないので何事かと注目を集めていた。
騒ぎに気づいて2階からギルド長が顔を出した。
「瑞樹、タラン」
手招きをしたので皆に礼をしてギルド長室へ向かう。
ソファーに座ると、事の顛末を襲われた時点からわかる範囲で説明した。
「そうか。無事で何よりだ……」
「ありがとうございます」
ギルド長は腕を組んでじっと俺の目を見る。
「で、そんだけやられて返り討ちにしたと聞いたが……」
ギルド長は昨日の時点である程度の情報は掴んでいる様子。
ただの一般職員が武器も持たずに一方的に暴行を受け、矢まで射られたのに返り討ちにしたことを知っているのだろう。
何か秘密があるのは明らかだ。
主任も帰りに口にはしなかったが気になっているはず。一番よく接しているからな。
俺としても隠せると思っていないし、あの隊長に事情聴取でも聞かれるのは確実だろう。
魔法が使えることは隠しときたいが、ギルド長や主任には話しておいたほうがいいと思う。
軽く咳払いして秘密を話す。
「ん、実はですね……魔法が使えます」
衝撃の告白をしたつもりだが彼らは特に驚かなかった。
それくらいのことは想定してたのかもしれない。
「ただ、なんていうかですね……自分でもよくわかってないんです」
使えるようになった経緯をざっと説明した。
ドアがトントンと音がして、リリーさんがお茶を持ってきてくれた。
「魔法は学校で習ったんじゃないんですか?」
「学校?」
主任の質問に首を傾げる。
「ええ、ミズキさんの学校です」
「んーと…前に言ったと思うんですが、私情報……あーこれを作るような勉強してたわけで魔法は知りません」
ウエストポーチをポンポンと叩き、スマホを指で操作する素振りをしてみせる。
「つまり本を読んで唱えたら使えた……ということですか?」
「そうそう…そうです!」
ギルド長と主任は顔を見合わせる。話を疑っているのだろうか。
「でも……魔法学校? は知りませんが魔法には興味あるんで、自分で勉強したかったんです。昨日お休みいただいたのは魔法書探しが理由でした。ですが1軒目の本屋の店主に『魔法書は王都の魔法学校にしかない』みたいなこと言われて……で2軒目行く途中に襲われたわけです」
そこまで一気に話してお茶を口にする。
「何の……魔法を使ったんだ?」
「んーと、雷と…石ですね」
「ふむ」
主任もギルド長も魔法は詳しくないらしい。だがそれで納得してくれた……いいのか。
IT音痴の人間にAIの話をしたらふーんって返される感じと似てる。
とにかく無事で何よりと労いを受け、今日は休めともう一日お休みを頂いた。