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122/211

122話

 フランタ市の西門から出て街道沿いを進む。

 外套を羽織り、顔を覆って《俊足》で走る。それでも冷たい風で目が痛い。

 これは風から目を守る保護メガネが欲しいところ。

 しばらくして北上、二時間ぐらいで配達先の村へ到着した。

 すでに夕やみが迫っている。

 村の役場への配達を済ませ、さっそく聞き込みをする。


「ティアラ冒険者ギルドの者です。討伐依頼の件を聞きにきたんですけど……」


 話を切り出すと、驚いて上役の人を呼んできた。

 この村の依頼内容は『猪の駆除』だ。

 村の畑も荒らされ、三つある穀物庫の一つを食い荒らされた。

 残り二つをやられたら食糧難に陥るという。


「穀物庫の場所は?」

「村の中央に大きなのが一つ、残る二つは村の出入り口そばにそれぞれ一つずつ……」


 村に着いたとき気づかなかったんだが……そんな倉庫、近くにあったかな。

 受けた冒険者は五人のパーティー。日中に森へ行ったきり帰ってこないという。


「それはいつです?」

「えー……、二週間前です」

「ずいぶん前じゃないです?」

「えーそれが……」


 冒険者たちは空き小屋を借りて活動していたらしい。

 村の者も、彼らの姿を時折り見かけていたので、干渉せずに任せていた。

 ところが一週間前から姿を見なくなった。

 で、たまたま村に配達に来た冒険者に、ティアラへ状況報告を頼んだという。


「穀物庫を荒らしてるのはホントに猪なんですか?」

「夜中に音がして、ガリガリしているのを見た村人がいるんです。恐ろしくて逃げたそうですが……」

「数は?」

「わかりませんが複数いたそうです」


 話を聞き終わると日が暮れた。

 今日はもう村の様子を見るのは無理だな。

 泊まる場所を紹介してもらい、役場をあとにした。


 役場近くの宿に入り、夕食も頼んだ……が、『芋のスープ』と『黒パン』だけ。

 食事を目にして驚きが顔に出てしまった。

 店主が申し訳なさそうに告げる。穀物庫を襲われた影響で節約しているそうだ。

 俺はにこっと笑い、気にしないと返事した。


 調査に来たギルド職員だと告げると、店主は困った表情を浮かべながら話をしてくれた。

 村の畑が襲われるのは毎年で、そのための駆除依頼を出している。

 しかし穀物庫を破壊されたのは初めてで、とても不安だと表情を曇らせる。


 去年の森の実りはどうかと聞くと、特に変わりはないという。

 となると森の木の実やどんぐりが不足して下りてきたわけではないのか。

 何か外的要因でも発生したか、それとも人の食べ物の味を覚えたか。


 部屋に戻って一服する。

 窓を開けて外を眺めると真っ暗。

 幸い今夜は晴れていて、月の明かりで多少なりとも建物は見える。水煙が立ち上っているのがうっすら目についた。

 だが寒い……ブルっときたのですぐ窓を閉めた。


 たしか猪が活動するのは夜だったはず。トレイルカメラで撮影されている動画を見たことがある。

 穀物庫を襲ったのは夜だし、状況確認するなら夜中だろう。

 しかしこのクソ寒い中、何時間もいたら凍え死ぬ。冒険者が日中に仕留めようとしたのもそのためか。


「……俺が駆除せなならんわけでもないしな」


 明日ざっと付近を見ればいいっしょ……。とっとと毛布にくるまって寝ることにした。



 ――ゴンッ…――ゴゴンッ……――――ゴンッ……


 真夜中過ぎ、少し離れたところから、ゴツゴツという音が聞こえて目が覚める。

 灯りも消えた部屋の窓から外を窺ったが、何も見えない。

 今、音がしているのは中央からではない。となると出入り口そばの穀物庫だ。

 トントン……と部屋のドアをノックする音。

 ドアを開けると、ランプを持った店主が不安そうに佇んでいた。

 ランプに照らされた表情が不気味……結構ホラーだぞ。


「例の猪だと思います。前もこんな音がしていました」

「……ふむ」


 俺が駆除依頼を受けてるわけじゃないんだけど……と、喉まで出かかる。

 だが知らんぷりで寝るわけにもいかないよな。


「ちょっと見てきましょう」

「あ……あんた武器は?」

「……いや、俺、ただのギルド職員ですよ」


 腰に剣の一つもぶら下げていない。

 彼の顔に「あ、ダメだこりゃ!」と書いてあるように見えた。


「とにかく見てきます。外に出ないでね」


 外套を羽織って外に出る……がすぐに戻った。


「……毛布、羽織っていきますね」


 外気温は一桁だろう。温度計がないからわからないが、かなり寒さが厳しい。

 宿を出たあと、すぐに『探知の魔法』を発動する。

 すると、村の入口方面で蠢く青い玉が五つ見えた。

 村の建物を見まわして人がいないのを確認。『隠蔽の魔法』を発動して近づく。

 お、いた!

 穀物庫のドア付近に動物らしい姿……形から猪で間違いない。

 奴らの姿が見える位置にある家の陰に隠れて隠蔽を解除。10秒ほど待って家の屋根の上に飛び乗りすぐに隠蔽を発動する。

 隠蔽は一度切ると、次の発動に10秒ぐらいかかってしまう。時間調整は重要である。

 なお隠蔽は匂いも隠すチートスキル、獣にも気づかれない。

 あとで気づくのだが、白い息も見えない。ホントすごいね。


 穀物庫前は少し広く、俺が乗った屋根から右斜め方向に穀物庫が見える。

 月明りで獣の姿が見えた。

 やはり日本の猪っぽい風体……だが牙が長い。

 頭を下げたら牙が正面になるようで、ドアに激突してはぶっ刺さり、メリメリ音をさせて剥ぎ取っている。

 牙って頑丈なんだな……てか歯なんだよね。顎が痛くないのかな……。

 しかしあの突進は食らったら確実に死ぬな。

 二頭が代わる代わる激突し、三頭が後ろで警戒しているようだ。見張りもすんのか……賢いな。

 まあ俺には関係ないがな……。

 このまま『石の魔法』で狙撃して倒そう。

 向こうから来てくれたのだ。この機会を逃す必要はない。

 弾の大きさは中でいっか。頭を狙えば倒せるだろう。

 大だと衝撃波で建物に影響が出かねないしな。夜中に騒動も困るだろうし。


 さっそく身体強化術の新技、目の強化を行う。

 まず《暗視》、暗いところでも見えるようになる。明るさは満月の月明りよりは明るい感じ。

 次に《遠視》、遠くが見える魔法のスコープだ。倍率は目標への集中度合らしい……といっても限度はある。

 使用時間はやっと10秒ぐらい。それを超えると頭痛がひどくなる。

 始めは3秒ぐらいで頭痛がしていたので、ちゃんと努力が身を結んでいる。


 それでは戦闘開始!

 今回初使用の身体強化術、《暗視》《遠視》を発動……してからすぐ狙撃開始!


《詠唱、中石弾発射》


 ズバンッ


 おでこからゴルフボールほどの石弾が、対物ライフル並みの威力で放たれた……と同時に隠蔽が解ける。

 それはドアに突撃している猪の目の後ろ辺りに着弾した。

 衝撃で頭が横に薙ぎ払われ、鳴き声あげる間もなく倒れた。建物に被害なし。

 もう一頭は射撃音に驚き、体をビクッとさせて動きを止める。

 すかさず二発目を発射。


 ズバンッ


 目の辺りを貫通、一瞬グヒィと鳴いたあと倒れ、体をピクピク痙攣させている。

 残る三頭は、攻撃されたことに気づき、村の外へと逃走を開始。

 頭痛がしてきたので《暗視》と《遠視》を解除。青い玉めがけてそのまま三連射した。


 ズバンッ――ズバンッ――ズバンッ


 体内を貫通したのか悲鳴が聞こえた。おそらくケツの辺りに着弾したのだろう。

 しばらくして青い玉が消えた。


「……やれやれ」


 寒さで身体がブルっときた。

 交差させた両手で毛布をしっかりと掴み、建物から降りて穀物庫の入り口へ近づく。


「うぅわ……でけぇ!」


 倒した二頭は体長おそらく俺の身長と同じぐらい……170センチといったところ。

 体を屈めて穀物庫の扉を見る。閂の下が破壊されてて中が見える状態だ。結構ギリギリだったのな。


「なるほどね、こいつらが穀物庫を襲っていたのか」


 しゃがんで猪の状態を見る……が青い玉は見えない。よし確実に死んでいる。

 猪の死体に目をやり、少し考える。

 五人の冒険者はどう戦ったのかは知らないが、こいつらに殺されたのだろうか……。

 いやー……全員が行方不明ってのはどうだろう。

 さっきの猪の様子だと、逆撃食らったら逃げるみたいだし、誰か帰ってきてもいいはずだ……どこに行ったんだ?

 そのとき、逃げた三頭のほうに青い玉が目端に入る。

 ハッとして振り向き、立ち上がろうした瞬間――

 毛布を掴んで交差していた腕を、思いっ切り蹴られたような衝撃を受けた。


「――ッ!?」


 中腰だった俺は、地面から数十センチ足が浮き上がり、一メートルぐらい後ろに吹っ飛んだ。

 何が起きたのかまったくわからないまま、仰向けに倒れていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] また痛い目にあってる。次回が楽しみです
[一言] んー? 被害を出してた猪倒して終いかと思ったら襲撃? どこのどいつが仕掛けてきたのやら
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