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12話 襲撃からの生還

 ティアラ冒険者ギルド前に衛兵の乗った馬が止まった。

 ドアがバンッと開くと衛兵が入ってきた。何事かと中にいた人全員が注目する。


「どうしました?」

「先ほど暴漢騒ぎがありまして、襲われたのがここの職員でしたので連絡に参りました」


 主任がカウンター越しに声をかけると、衛兵が彼のもとに寄る。

 職員は皆騒然とした。

 衛兵は取り出した身分証を見せる。


「ミズキさん!」


 主任の言葉に受付嬢たちは血の気が引いた。


「どこで?」

「中央市街地の北側、小路が入り組んでる通りです」


 主任は一瞬なぜそんなところに……とすぐに思い出す。


「ああ…本屋に行くとか言ってたから……」


 思わず目を閉じる。


「――で、状態は? 生きてるんですよね?」

「左肩と右足に矢が貫通、左足も損傷、顔もひどく殴打された形跡がありますが意識ははっきりしてました」

「矢!?」


 主任は何かの間違いじゃないかと聞き返す。

 皆も彼が殺されかけたという事実に衝撃を受けた。


「治療は?」

「私が出るときにはまだでしたが、連絡は行ってるのでもう到着してるかと」


 話だけでは状況がわからないと、主任は急ぎ向かうことにする。


「ガランド、ギルド長に報告してください。他は引き続き業務を続けて。ラーナ、あとはお願いします」


 指示を出すと主任は現場に向かった。



 ガランドがギルド長に報告に向かう。

 トンットンッ


「どうぞ」

「失礼します。ギルド長、先ほど連絡がありまして、瑞樹が暴漢に襲われたそうです」

「何っ!?」


 書いていた手紙のインクがじわっと滲む。


「襲われた!?」

「本日は休みを取って買い物に出かけると言ってたそうです。つい今しがた衛兵が連絡してきまして、矢で撃たれて重傷だそうです」

「撃たれた!?」


 ただ襲われたのではない事実に衝撃を受ける。


「はい。左肩と右足だそうです。あと相当殴られたらしいですが意識ははっきりしてたそうです」

「わかった。ご苦労」

「失礼します」


 ロキは考えを巡らせる。

 襲われた理由は彼の持つスマホだろうか……職場で使っている以上目にはつく。

 あれを殺してまで欲しくなった奴がいるのか……。

 そういえばタランが他のギルドにはもうバレてるかもと言っておった……。


 だが強硬手段で奪取するとは思えん……第一あれがどんな魔道具かわからないはずだ。

 とはいえ白昼ギルド職員が襲われたというのは看過できん。

 双方に連絡を取って事情を探ってみるか。

 ギルド長は出かける準備をした。



 襲撃の事実を副ギルド長にも伝える。

 コンッコンッ


「はい」

「失礼します」


 リリーが副ギルド長に報告に来た。


「副ギルド長、先ほど連絡があったのですが、職員が暴漢に襲われたそうです」


 彼女は顔を上げる。


「どなたです?」

「御手洗瑞樹です」

「…………そうですか」


 報告に小さく頷くと、リリーは一礼して退出した。


 彼女は表情一つ変えなかった。

 だが最近ロキが気にかけてた人物だったかなと頭に浮かんだ。

 持ち物がどうだの働きぶりがどうだのと何かにつけて自分に話す――


 まあ私には関係のないこと。


 そう思いつつも職員が襲われたという事実は少し気になった。


 ◆ ◆ ◆


 襲撃現場は依然騒然としている。

 痛みは凄いが意識ははっきりしている。治療の効果だろう。

 俺の足先に倒れている人物がいて上半身を何かの布で覆っている。取り急ぎ見えないようにしたようだ。


 それで察した――襲ってきた奴だ。


 確か顔面に向けて石弾をぶっ放したから顔がぐちゃぐちゃのはず……それで隠しているのだろう。

 そういえば衛兵到着時に悲鳴を上げていたな。

 なるほど、さぞかし素敵な姿なのだろう。目にした奴はご愁傷さまだな。


 奥の3人のところで衛兵が数名で何か話をしている様子。どうでもいい。

 治療をしてくれた聖職者の彼女を見ると、しゃがんで衛兵と何か打合せをしている。

 その表情に疲労の色が見える。


 たった2回の魔法――お祈りは相当消耗するみたい。


 ヒール魔法はマナを食うのかな。となるとそうポンポン治癒魔法は使えないということか……。

 現場を見ながらいろいろと考えを巡らせていた――


 てかいつまで俺をここに置いとくつもりだ!


 イラついてるのを我慢して衛兵に質問すると、治療院に送るための荷馬車を手配中とのこと。

 日本じゃ救急車が5分で来るのに何とも遅い対応だなと愚痴を垂れそうだ。


 待つ間、現場の街並みを見渡す――そしてたしかに治安が悪そうな場所だなと気づいた。


 現代でも治安の悪いとこはたくさんある。バイクに乗ったひったくりが銃で脅して強盗する動画とかも見たことがある。

 日本だって近年は通り魔殺人のニュースをたまに聞く。

 なおのこと異世界じゃ暴漢に襲われる程度のことは日常茶飯事なのかもしれない――さすがにそれは言い過ぎか。

 街中に監視カメラがある世界じゃない。通報から5分で警察がくるわけじゃない世界。

 やられたら死んでお終いなのだ。

 治安が最高水準の日本で生活してた俺には経験するまでわからなかった――理解できてなかった。


 聖職者の彼女と目が合う。

 何となしに笑みを浮かべると彼女がこくりと頷いた。

 もう大丈夫という意味なのだろうか。


『矢で撃ち抜かれた傷を彼女が手で押さえたと思ったらいつのまにか傷が消えていた』


 とにかく傷は魔法で治る。

 それが知れたのは大きいが自分の身で試す羽目になるとは思わなかった。


 ふと呪文の言葉を思い出す。

 確か最後――ヒールと言ってた気がする。ゲームでお馴染みの単語だ。

 やはり翻訳は俺が知っている単語を使うようだ。


 そうそう大事なことを聞くのを忘れてた。


「あ…あの、ずっと痛いんですけどこーいうもんなんですか? お祈りしてもらうの初めてなので……」

「痛覚までは取れません。でも明日にはだいぶ軽くなると思います」


 とても重要な事実を聞けた。

 治療しても痛みは取れないのか……これは気をつけないといけない。

 治しても痛みで動けなくなる。実際今がそうだ。

 ゲームのようにバンバンヒール貰って戦闘継続なんてできないって意味だ。

 先に知れてマジよかった。


 するとアドレナリンが切れたようで、刺さってたところが金槌でガンガン叩かれてるように痛み出した。

 今までもだいぶ痛かったのだが、どうやら本番はこれからのようだ。

 歯を食いしばって耐えていると、彼女がもう1回お祈りができるというので骨折しているであろう左足も治してもらう。


 そして荷馬車が到着した。

 衛兵数人で担がれて乗せられ、そして治療院へ運ばれた。



 十数分後、治療院に到着する。

 治療院は教会が運営する病院みたいなものだ。

 運営費は寄付と領からの補助だ。

 今回のような街での暴行事件の場合の怪我は治療費がかからないという。

 とはいえあとで感謝の印として寄付をするのが普通だそうだ。


 治療院についたところで知った人の顔が見えた――主任だ。


「主任!」


 気が緩んで涙でじわっと滲む。


「う……大丈夫ですか?」


 一瞬絶句しかけた様子……おそらく俺の見た目が相当酷かったのだろう。


「ええ、重傷の部分は治癒してもらったので今から治療院に運んでもらうところです」


 普通に受け答えしている俺を見て安心したようだ。

 そして主任が見守る中、数名の聖職者に治癒をしてもらい全快した。


 ――ホントに傷一つなくなった。


 おそらく顔面とか凄く腫れていたと思うが、触っても腫れてる様子はない。

 ただ熱っぽい気がする。

 やはり痛覚は取れないそうなので、今も左肩と右足を鍛冶師が笑顔で金槌振り下ろしているレベルで痛い。

 すると何やら粉末状の薬を渡された。鎮痛剤らしい。

 水をもらって飲む――


 するとどうだ……数分で効き目が現れ、鍛冶師は立ち去ったようで痛みが引いた。

 痛みが我慢できるレベルにまで落ちている。飲んだ薬は相当すごい鎮痛剤だと驚いた。

 そして今日はここに入院。明日動けそうなら退院だそうだ。


 治療室の入口付近で衛兵と話をしていた主任がやってきた。どうやら事情を聞いていたらしい。

 心配そうな表情で俺の横に腰かける。


「何があったんです?」

「俺もよくわからんのですが、いきなり路地に引っ張り込まれて袋叩きにされました」

「おそらくコレが目的だったかと」


 ウエストポーチを手でポンポンと叩く。


「矢で撃たれたのに助かったのは運が良かったです」


 主任も安堵の表情を浮かべた。



 しばらくして2人の衛兵がやってきた。

 いかにもリーダーっぽい風格がある人物と、その副官みたいな人物だ。

 副官の装いは衛兵のそれではなく、魔法士っぽい丈の長い服を着ている――おそらくそうだ。


「フランタ防衛隊第一小隊隊長カートンです。大丈夫ですか?」


 やはり偉い人だ。主任が立つと身長が同じぐらいだったので180センチぐらいか。

 金髪のイケメンだが妙に圧を感じる。隊長オーラかな。


「おかげさまで。ただ体は激痛が走ってるので身をよじるのもキツイです」

「そのままで」


 手で俺を制止した。


 そして彼は状況説明をする。

 暴漢は4人。うち3人は死亡、1人は辛うじて息があったらしい。

 先に襲ってきた連中はやはり感電した様子。3人のうち2人死んだと聞いて目線を下げる。

 神妙な面持ちを示しつつ、心の中では喝采を上げていた――「ざまあみろ!」だ。

 むしろ1人仕留めそこなったことに舌打ちしそうになる。口を固く結ぶ。


 生存者の1人を聖職者が治癒しようとしたところ、外傷がないのに呼吸困難だった理由がわからなかったそうだ。

 それで俺に事情を聞きに来たようだ。なのですっとぼけることにした。


「私は襲われて必死だったので正直よく覚えてません。何人で襲われてたのかもわからなかったですし」

「そうですか」


 隊長はずっと俺の目を見ている。

 何か隠していると疑っている様子だ。

 まあ実際隠してるしな……圧が強いのはそういうことか。


 数日後に事情聴取があるので防衛隊本部に来てもらいたいとのこと。

 時期は加害者の聴取が済んでからになるので日時は手紙で知らせるという。

 想定はしてたので軽く頷き、わかりましたと返事した。

 主任も俺の容体を確認できたということで、明日迎えに来ると言い残して帰っていった。



 全身痛みがサンバのリズムを奏でているので寝るに寝られない。


 傍らに置いてあったウエストポーチからスマホとイヤホンを取り出す。

 イヤホンを差して保存してある音楽リストから、落ち着きそうなクラシック曲を探す。

 そして『月光』を選曲してベッドの中に潜り込んで聞く。

 第1楽章、第2楽章……とても静かな曲、これなら眠れるかな、とウトウトしかけたところで第3楽章……激しいリズムでビクッと起きる。


「ああびっくりした! 選曲ミスってた――『月の光』と間違えたわ」


 周りと見ると特に気づかれていない様子。

 その後、適当なアニソンメドレーにして眠りについた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 痛みで思考が支配されると理性がぶっとぶからしょうがない。
[気になる点] 主人公が兎に角他責で不満しか言わないしホモAVみたいな奇声で騒いでてこの人大学生じゃなくて中学生じゃないの???
[気になる点] いつまでスマホのこと引っ張るのかな? ネタバレがあるにせよある程度充電ができる理由がないとそれが気になって話が入ってこない
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