1話 コンビニ帰りに遭難
異世界もの大好きを拗らせてとうとう自分で書きたくなりました。
処女作ですがよろしくお願いします。
上空1万メートルの夜空に突如、天使の輪っかのような物体が現れた。
金色に輝くそれは、誰に気づかれることなくふわりふわりと落下し始める。
そして十数分後に地面に落ちた。
それは通りがかった軽トラックに撥ねられ、綺麗な弧を描いて宙を舞う。
その先に、コンビニ弁当を買って家に帰る途中の男が歩いていた。
情報学部の4年生――御手洗瑞樹である。
彼は頭を悩ませている。
明日の朝行われる『卒論進捗報告会』で話す内容が何もないからだ。
「タイトルしか決めてないって確実に怒られる……」
卒論のテーマに最近流行りのAIに関するテーマを選んだ。
だが毎夜友人宅で麻雀とネトゲ三昧で卒論製作をサボりまくりで進んでいない。
それこそ今日も麻雀しに行こうかと思っていたほどだ。
そんな彼に向かって金色の輪っかが背後から迫る。
そして狙いすましたかのように彼の頭にスポッとはまった。
その瞬間、彼の姿は一瞬にしてその場から消えた。
◆ ◆ ◆
「ん! 何だ!?」
頭に何かが当たったかと一瞬ビクッとして身をすくめる。
鳥のフンでも食らったか?
びっくりして夜空を眺めた。
だが夜に鳥が飛ぶことはない。
そう思って後頭部に手をやると、何か金属っぽいものに触れた。
「うわ! 何!?」
すぐにどけようとするが、ピッタリ吸いついてて外せない。
どうも輪っかになっているようだ。
「くっそ…何だよこれっ…はずれね~!!」
焦っていると、そのうちスススッと頭の中に吸い込まれた。
「オイオイオイオイ!」
気味悪い現象に遭遇し恐怖する。
そして頭を何度もさわり異常はないかと確認した。
「おおぉ……何だったんだ一体……」
落ち着いて冷静になると、異変が起きている事に気づく――
辺り一帯が真っ暗だ!
「うぉ!?」
街灯が消え、足元には道路もない。
先ほどまでうるさく鳴いていたカエルの声も一切聞こえない。
後ずさりすると足元でパキッと音が鳴る。
ふと見ると小枝のようなものを踏んだようだ。
目が慣れてきた。
辺りに木がまばらに生えているのが見える。
そしてようやく状況を理解する。
どうやら先ほどまでとは全然違う場所――森の中だと気づいた。
「おいぃいいいいい!?」
状況がまったくわからない。
自分の身に何が起きたのだろうか……。
ぶわっと全身に寒気が走る。
慌ててスマホをポケットから取り出す。
時刻は21時25分。
画面の明かりで周囲が少し明るくなった。
周りに木々がポツポツ生えてるのがうっすら見える。
やはり今までいた場所とは違うようだ。
そしてもう一度画面を見ると――『圏外』と表示されている。
「これは遭難してるというのではなかろうか……」
急に恐怖が襲う。
なぜいきなり今までいた場所と違うところにいるのだろうか。
とにかくここから逃げたい!
「…ぉぉぉい!」
大声を出すことにも慣れていない。
最初は弱々しい発声……だが暗がりが怖くなって発声も大きくなる。
「おおおおおおおぉぉい! だーれかーーーッ! いーませーんかーーーッ!」
しばらく待ったが何の反応もない。
スマホのライト機能で辺りを照らしながらあてどなく歩く。
すると開けたとこに出た。
見ると先に石が横たわっている。
土手っぽいところに人が寝そべられるほどの大きな石だ。
「これホントに別の場所だぞ……」
信じたくなかったが受け入れるしかない。
「冷たっ!」
座った石はひんやりした。
「頭に何か食らったんだよな……そしたらここにいた……」
結局のところ――
『気づいたら森の中にいた』
ということしかわからないのだ。
途端に空腹感に襲われる。
コンビニ袋の中身はシャケ弁に水2本、それとタバコ2箱とライターのオイル缶。
放り出された夜空の下、スマホの明かりを頼りに弁当を食べる。
恐怖からかシャケのしょっぱさだけしかわからない……。
ふいに目にじわっとくる。
「やっべ……」
思わず口をつく。
腹に食べ物が入って緊張の糸が切れたらしい。
夜中に見知らぬ場所に放り出された事実に恐怖が一気に襲う。
考えがまとまらない!
肩掛けのウエストポーチを開ける。
中からタバコを取り出して一服する。
ジッポーのカチンという金属音が周辺に響いた。
石の上に横になって夜空を眺める。
そして怖くないよう丸くなって眠りについた。
翌朝、明るくなった周囲に反応して目が覚めた。
お日様はまだ見えないからどうも早朝らしい。
妙に体が痛い!
ああ……石の上で寝てたせいだ。
一瞬ここにいた理由がわからなかった。
そしてすぐに何かの超常現象により遭難した事実を思い出す。
スマホを見ると『7月5日 5時20分』と表示されている。
「俺今日教授んとこ行って卒論の進捗説明せないかんのになー。完全にアウトだわ」
誰もいないのに今日の予定を口にする。
何か話さないと心が落ち着かないからだ。
バッテリー残量が半分切っている。
ウエストポーチからモバイルバッテリーを取り出してケーブルで繋ぐ。
ソーラーパネル付きモデルでホントよかったと心底喜んだ。
「マジこれバッグに入れててよかったわー」
大容量、曇天での充電可能、手回しハンドル付きの優れものだ。
そして腹が減っていることに気づく。
と同時にそれが問題である事実に直面した――
飯がない!
当り前だがサバイバル術なんぞ知らない。
野生の動物を捕獲する技術などもない。
そもそも捕獲してどうするって話だ。解体して焼いて食えってか?
現代っ子には難易度ハードモードである。
激しく不安に駆られる。
「幸い水はある。ちょびりちょびり飲んでけば数日は持つだろう……だが飯がなぁ……」
時刻は6時10分。
木の陰からお日様が昇ってきたのが見える。
とにかく町だ、町に出なければならない。
どの方角へ行けば脱出できるかわからない。
まずは日の昇るほうへ向かって進もう。
◆ ◆ ◆
大陸の南に位置するマルゼン王国、現在4つの領で構成されている。
一番南にあるのがフランタン領。
フランタ市は元は領都であったが今はただの一都市である。
東門から東大通りを進んで10分ほどの距離に広場がある。
その左手奥に見える3階建ての建物――『ティアラ冒険者ギルド』
この街に3つある冒険者ギルドの中で一番古いギルドである。
受付カウンターで皮鎧を着た男が配達依頼の説明を受けている。
その後ろで連れらしい3人が少し緊張しながら待っている。
受付嬢が封書と小包をカウンターに置いて彼に向き直る。
「それではこちらの封書3通と小包2つ、よろしくお願いしますね」
彼は荷物を確認して頷く。
「ではこちらにサインを……」
ペンを渡されると受取書の記名欄に『ガラム』と名前を記入。
荷物を受け取ると軽く会釈して4人は退出した。
隣に座っているもう1人の受付嬢が口を開く。
「ねぇリリー、それって例のアレ?」
「はい。ぼちぼちいいんじゃないかということで」
「ふーん……1ヶ月ぐらい?」
「はい」
受けた冒険者がいかにも新人っぽくて確認したのだ。
彼らが受けた依頼は、道を行って帰るだけの簡単な市外への配達依頼である。
だがこれをクリアしないと、護衛や遠方への配達依頼などの実入りのいい依頼が受けられない。
要するに冒険者としての若葉マークを外せるかの試験みたいなものだ。
彼らは近場の食堂に入って話をし始めた。
ガラムが地図をなぞりながらルートと日程の説明をする。
普通に道を歩いて戻るだけの簡単な依頼だと。
すると魔法士の男が不満を述べる。
こんな簡単な依頼を受けさせてもらうまでに1ヶ月もかかるのはおかしいと……。
弓使いの男も同様だ。
俺なら1日で行って帰ってこられると鼻を鳴らす。
ガラムはまあまあと苦笑い。
実力というより信用の問題だと2人をなだめると渋々納得した。
そして彼は補足する。
「ただ先輩に聞いたところ、帰りは森を抜けるルートをとって薬草採取もこなすのが一般的だそうだ。冒険者なんだからそれくらいしないと……ということだ」
薬草採取は基本いつでも持ち込みOKの代物である。
なので彼らもフランタ市周辺の森で薬草採取は頻繁に行っている。
そもそも冒険者は金がない連中だ。
外に出るなら稼げることはできるだけするべき……。
それが冒険者というものだ……と。
「なので帰りは森へ入って薬草採取の時間を取ろうと思う」
2人が頷くと、話よりも飯のことが気になっていたもう1人の剣士も慌てて頷く。
そして料理が運ばれてきた。
食いながら、持ってく荷物の確認や行程ルートの情報を別の紙に書いていく。
食事の後、食料調達を済ませたら時刻は朝9時を回っていた。
「それじゃあ行こうか」
彼らは意気揚々と出立した。
お読みいただきありがとうございます。
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