9 水口愛梨
優弥との出会いは、小学校まで遡る。
小学校に入学と同時くらいに、私達家族はこの街に引っ越してきた。
その頃の私は、幼稚園の友達と離れるのが嫌で、泣いてばかりいたっけ。
小学校に入学してから、誰も知ってる子が居ないことに悲しくなって、友達が作れなくなっていた。
そんな時だった。
「ねえ、この間引っ越してきた子だよね?一緒に遊ぶ?」
「え?誰?」
「俺、佐伯優弥!」
「さえきゆうや……」
「名前は?」
「あ、私、水口愛梨」
「愛梨、ね!よし、遊び行こうぜ!」
「あっ」
そう言って、手を引いて連れ出してくれた。
また、友達作っても大丈夫かな……?
不安だった私を、いつも優弥が引っ張ってくれた。
家も近所だったから、いつも一緒だった。
優弥は笑顔がとっても素敵な男の子だった。
そんな優弥に、いつからか恋をしていた。
優弥は何気に女の子からの人気が高かった。
優しいし、変な意地悪をしない子だったから。
困っている子の力になってあげるし、恩に着せる事も無い。
私は焦っていた。
優弥に好きになってもらえるように、頑張らなきゃ。
それからは少しでも可愛くなれるように努力したし、勉強もスポーツも努力した。
他の子に取られないように、常に一緒に居た。
中学の頃も結構優弥にアピールした。
好きだって、言ってもらいたかった。
でも、優弥は私の好意に気付かない。
待ちきれずに、高校一年生の頃に、私から告白した。
なんか、私に気後れしてたって。
そんなの私が優弥の事、好きなんだから関係ないのに!
とにかく、優弥と付き合うことが出来た。
幸せだった。
けど、その幸せも長くは続かなかった。
ある時から、微熱が続くようになった。
風邪かと思っていた。
しかし、あまりにも微熱の期間が長かった為、一応病院で検査することになった。
結果は……この先何年生きられるかわからないって言われた。
治療で治ることも、臓器移植で治ることもある、とは聞いた。
でも、その時の私の病状は、どうなるかわからない、だった。
絶望した。
生きられるかどうかわからない、という事実に。
そして、優弥の事を考えた。
もし、私が死んでしまったら、優弥は……。
どちらにしろ、私は治療をしなければならない為、優弥とは今迄みたいに会えない。
私は考えた。
もう嫌になるくらい、考えた。
そして、優弥と別れる事を決めた。
普通に別れを告げても、優弥なら一緒に居ると言って聞かないだろう。
出来るだけ、私を嫌いになるように。
私と二度と会いたくない、と思えるように。
そうすれば、私も治療中、弱っている姿を見せずに済む。
もし、私が死んでも、優弥がそれを知ることも無い。
悲しませないで済む。
従兄に頼んで、演技してもらった。
優弥は信じたようだった。
でも……あの時の優弥の表情は忘れられない。
これで……本当に良かったの?
だめだ、私が決心したことなんだ。
後悔なんてしない。
幸せになってね、優弥。
病気の治療を行っていたところ、ある日、担当医から呼ばれた。
治療の効果により、命の危険はもうない、と。
再発の危険性はあるが、完治したと言ってもいいとの事だった。
私は命の危険から解放された。
やった!!頑張った甲斐があった!!
優弥!!
優弥に会える!!!!
日常生活が問題なく送れるようになってすぐに、優弥を訪ねた。
優弥、一人暮らししてるんだ……。
従兄とあの時の事を謝って……、また優弥と付き合えたらいいな。
その為にはちゃんと謝らなきゃ。
やはり、優弥は怒っていた。
当たり前だよね。
ごめんなさい、優弥。
それでも話を聞いてもらい、従兄は帰って行った。
けど……。
優弥と話していると、女の子が部屋に入って来た。
中学の部活の後輩だった千夏だ。
二人の雰囲気でなんとなく、わかってしまった。
そしてお互いの状況を話し合っていると、千夏が泣きながら帰ってしまった。
今しかない!
二人が付き合っているのは聞いたけど……。
でも!諦められない!
やっと!やっとなんだ!!
必死に優弥を引き留めたけど、優弥は千夏のところに行ってしまった。
話している間に、気付いてしまった。
私は間違っていた……?
あの時、全てを優弥に話していれば……。
でも!今だからそう考えられるけど!あの時は……。
そう、私はあの時、覚悟したはずだ。
優弥ともう会えなくても、後悔しない、と。
優弥が幸せになってくれるなら、それでいいって。
私が死んでも、そのことを知らなくてもいい。
そう、決心したはずだ。
でも……でも……優弥……。
せっかく治ったのに、こんなのってないよ!
〇にたい……。
もう、生きていたくない……。
あっ、だ、ダメだ!!
私は運よく治療が上手く行って、死なずに済んだ。
私と同じ病気で命を落とす人もいる。
簡単に死ぬ事を考えちゃいけないんだ!
だから、私は……前を向いて生きなきゃ。
例え優弥の傍にいられなくても……。
優弥の部屋の鍵をかけてポストに入れる。
……帰ろう。
あの時の私の覚悟は、嘘じゃなかったはずだ。
本気だったはずだ。
だから、前を向いて……生きよう。
部屋を出る前から、涙が止まらないけど。
嗚咽を我慢するので精一杯だけど。
私はあの時、後悔しないって決めたから。
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