4 それからの俺は
ショックだった。
一晩中泣いて、次の日は学校を休んだ。
両親には何も言っていない。
本当に体調を崩したからだ。
後ろから身体を好き勝手に触られていた愛梨を思い出すと、嘔吐が止まらない。
あれが本当に愛梨か?
そう思う程、今までの愛梨とは別人のようだった。
よくあるNTR物なんかで、パートナーが別人になったように変わってしまう、なんてあるが、こういう事なんだろうか。
他の男の事が好きになったんだから、そういう事なんだろう。
忘れろ。
忘れちまえ。
あんなクソ女。
一週間が経ち、体調は戻った。
行きたくなかったが、学校に向かった。
数少ない友人から心配されたが、理由は体調不良にしておいた。
それと、あの時愛梨が言っていた通り、すでに愛梨は転校した後だった。
愛梨と仲がいい友達連中には、俺達が付き合っていたことを知られていたので、話しかけられたりしたが、もう別れた、とだけ答えると、もう話しかけて来なくなった。
俺が学校に復帰してから、まともに会話できなくなっていた事から、察してくれていたんだろう。
それからの俺は、話しかけられてもただ返事をするだけで、会話が成り立っていなかったから、友人も話しかけてくることが少なくなった。
ただ単に、毎日を過ごすだけだった。
あの日から一ヶ月ほどが経ち、いつものように一人で家に帰ろうとすると、
「佐伯先輩っ!!」
背後から元気よく声を掛けられた。
……誰だっけ?
俺の事を知っているみたいだけど……。
「誰?」
「あ、あの!!覚えていません?愛梨先輩の後輩の結城千夏ですっ!!」
「えーと……。ああ、愛梨の中学の頃の部活の後輩……だったか……?」
「あっ!そうです!!良かった、覚えていてくれて……」
小柄で茶髪のショートカット、顔立ちも整っている。
女らしい身体つきをしていて、男から人気あるんだろうな、と思った記憶がある。
愛梨の後をちょこまか付いて回っていたような……。
覚えていたっていうのは、ちょっと怪しいけどな……。
「それで?何の用?」
「あ、あの!愛梨先輩、急に転校しちゃったみたいで、携帯も繋がらないんです!連絡先を聞きたくて……」
「……知らねえよ」
俺は愛梨の連絡先を消去した。
前の番号じゃ繋がらないって事か……。
番号変えたのか?
だったら尚更、俺が知るワケねえだろ。
「え?またまたぁ~、そんなワケないじゃないですか!佐伯先輩と愛梨先輩、メッチャ仲良かったですよね?!!」
「……」
「お願いします!愛梨先輩に聞きたい事があるんです!」
「……」
「佐伯先輩?」
「……ホントに知らねえんだよ、じゃあな」
「あっ!ちょっと!!!佐伯先輩のケチー!!!」
なんなんだよ。
知らねえっつってんだよ。
そして翌日の放課後。
「佐伯先輩!!!もったいぶらずに教えてくださいよー!!」
「……」
「ひどーい!!無視しないで下さーい!!」
「……」
「さーえーきーせーんぱーい!!」
「……」
「もう、そんなんじゃ愛梨先輩に嫌われちゃいますよー?」
「!!!!うるせえってんだよ!!!!こっちはとっくに嫌われてんだよ!!!!」
「……えっ?」
「ああ!!確かに俺と愛梨は付き合った!!!!けどな!!!!転校前に他の男の事が好きになったって振られてんだ!!!!お前、ゴチャゴチャうるせえんだよ!!!!!」
「あっ……えっ……?うそ……」
「二度と話しかけんな!!!!!!」
「あっ……やだ……嘘……」
くそっ!!
やっと愛梨の事を思い出す頻度が減って来たと思ったら、これかよ。
思い出しちまったじゃねえか。
またその翌日の放課後。
校門にて。
「あ、あの……。佐伯先輩……」
またお前か。
「……話しかけんなって言ったよな?」
「……すいませんでした!!あの…‥私、知らなくて……その…‥‥」
「……」
「無神経なこと言って……佐伯先輩のこと、傷つけて……」
「……」
「ふっ……ぐっ……わ、たし……し、ら……なく……てぇっ……」
くそっ!こんなとこで泣くんじゃねえよ!
「ああ!もう!!来い!!」
「……ふぇっ?」
俺が泣かしてるみたいじゃねえか!!
そうかもしれんけど!!!
たまらず、近くの寂れた喫茶店に連れて行った。
「あ、あの……?先輩……?」
「……まあ、昨日は俺も感情的になっちまった……正直立ち直れていないから」
「……い、いえ!私が無神経だったんです……」
「……落ち着いたか?」
「は、はい……すいません。またご迷惑を……」
「……まあ、とにかく愛梨の連絡先なんて知らねえんだよ、本当に」
「あ、そ、それはもういいんです……」
「そうか、じゃあもういいな?」
「……あ、あの!!」
帰ろうとしたら、引き留められる。
「あ?まだ何か用か?」
「あの!!!私!!!佐伯先輩の事、ずっと好きでした!!!!!」




