表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/42

暴行事件編(4)

 立花の家を後にすると、鬼頭の家の方に向かった。鬼頭の家も石子の家と似たような日本家屋だったが、監視カメラが置いてあった。


 違和感を感じたのはそれだけではない。


 立花の予想通り、鬼頭は誰かと揉めていた。おそらく坂下という女性だろう。50代ぐらいの女性だったが、鬼頭とも負けず劣らず怖い顔だった。学校の校長や教頭にいそうな厳格そうなタイプだ。痩せているせいで、より神経質そうに見える。ムーミンのキャラクターでいえばフィヨンカ婦人に一番近そうだ。髪を一つにまとめ、きっちりとした紺色のワンピースを着ていたが、鬼頭とやりあっていた。


「鬼頭さんの家が先に騒音を出したんじゃないですか。こっちこそ騒音で迷惑しているんです!」


 坂下は地団駄を踏んだ。


「うるさい! そっちが先に嫌がらせやったんでしょうが。でてけ、この村からでてけ!」


 鬼頭も負けていない。まさに鬼の形相で言い返していた。よっぽどバトルに集中しているのか、石子や理世に姿には全く気づいていなかった。


「これは、ガチで立花さんが言った通りね。ここはこっそり逃げて、森口さんや香村さんの方に行きましょう。まさかこんなに揉めているなんて知らなかったわ」


 石子はそう言ってため息をつくと、理世に手をひく。鬼頭や坂下の家からこっそりと去っていった。


「放って置いていいの?」

「いいのよ、理世。触らぬお隣さんに祟りなしよ」

「そんなことわざ聞いた事がないよ」

「今作ったわ。正直なところ、関わりたくないわね」


 そんな事を話しつつ、石子と理世はこそこそと鬼頭や坂下の家から離れ、別のご近所さんに向かった。


「森口さーん。近所の雲井です。いらっしゃいます?」


 石子は、森口の家のチャイムを鳴らしながらピンポンをおした。


 この家はこの辺りではちょっと雰囲気が違った。赤い屋根でメルヘンな雰囲気だが、壁には政治家のポスターはベタベタと貼ってあった。「幸福引き寄せ党」という政治団体で、確かカルト銃価を母体としていた。銃価は一見カルトだが信者も多く、政治経済、メディア、芸能でも力を発していた。


 こんなにポスターがあるということは、この森口も銃価の信者である事は間違いなさそうだった。


 石子はチャイムを鳴らすが、人が出てくる様子はなかった。


「森口さんてどんな人?」


 理世はちょっと怖くなってきた。どうもお花畑というか地に足がつかない雰囲気の家で、鬼頭や坂下の家はごくごく普通に見えてしまった。


「あぁ、森口さんね……。下の名前は花蓮さんって言うんだけど、まあ、ユニークな容姿の人ね」

「ユニーク?」

「うーん、金髪で……」


 あの石子が言葉を握らせているというのは、相当だ。ますます怖くなってきた。


「まあ、この村では珍しく小さな子もいるけどね……。旦那さんも隣町の実家で子供連れて半分別居状態だったかな……」


 どうもこの森口もトラブルメーカーのような匂いがした。鬼頭や坂下も見るからにトラブルメーカーだし、石子も癖がありそうな人物だが、この森口に限っては、会う前から嫌な予感もする。


「噂では、すごい教育ママで旦那とも意見が合わないみたいだけどね……」


 石子が苦い顔でつぶやいた時、森口のお向かいの家から30代ぐらいの女性が出てきた。


 タンクトップにジーンズというこの時期にしては寒そうな格好だったが、日に焼け、筋肉モリモリの女性だった。体格もかなりよい。理世の苦手なタイプだった。家もこの辺りでは珍しく四角く近代的なデザインだった。デザイナー住宅というやつかもしれない。この女性の雰囲気や家は、おしゃれで都会的だった。思わず、都会の生活のあれこれを思い出し、いい気分はしなくなってきた。


「香村さんじゃないですか。おはようございます」


 おしゃれで都会的なこの女性は香村という名前らしい。


「あら、雲井さんのお孫さん? よろしくね。私は香村華名。イニシャルはkkよ。覚えやすいでしょ。隣町でヨガスタジオを運営しているから、運動不足になったら相談してね」


 華名は、爽やかな笑顔を見せた。ヨガスタジオの経営者とううのは、彼女の雰囲気にピッタリだった。一歩的に苦手意識を持ってしまった事に後悔しながら、理世は自己紹介した。


「これ、ご挨拶の和菓子。モナカなのよ。どうぞ」


 石子は華名に和菓子を渡した。華名はほんの一瞬だけ眉間に皺をよせた。石子は気づかなかったが、理世はすぐに気づいた。おそらく華名の体格から見て意識が高い系だ。ダイエットをしているかもしれない。内心「和菓子なんていらないよ」と思っているかもしれないが、華名はわざとらしくニコニコ笑顔を見せた。


「旦那さんは忙しいの?」

「ええ。一応警察ですからね」

「華名さんの旦那さんて警察官なの?」


 思わず理世は、声をあげる。いじめにあった時、警察にも相談しようと思うぐらいだったから気になった。まあ、理世にいじめには証拠がないので、そんな事はできなかったが。


「ええ。何か困ったらウチの旦那に言ってね」


 華名は、再びニコニコと笑顔を見せた。


「しかし、森口さんがどうしたか知らない?」


 石子は森口の家のチャイムを再び鳴らしながら、口尖らせた。


「そういえば、今朝は見てないわね。いつもゴミ収集所の掃除をしてくれているのに」


 華名は少し遠くの方にあるゴミ収集所に目をやるが、野良猫が何匹か集まっていた。少し散らかっているようだった。


「心配ね。どこ言ったのかしら、森口さん」


 なぜか石子は好奇心を隠せにない表情を見せていた。


「さあ。じゃあ、私はこれから仕事があるから」


 華名は肩をすくめると、和菓子の箱を片手で持ちながら、おしゃれな家に戻ってしまった。


「心配ね、森口さん。ちょっと探してみましょうか? ほら、礼央くんはホームレスの噂していたし」

「ちょっとおばあちゃん。何か楽しそうな顔してない?」

「おばあちゃんじゃなくて、グランマってお呼びなさい。元ミステリー作家志望の血が騒いできた。なんか、事件の香りがする!」


 石子はルンルンとスキップを踏むように、歩き始めてしまった。


「ちょっと、グランマ。どこいくの?」

「森よ、森。森口っていうぐらいだから、きっとこの村の森にいるはず」


 それって推理? ギャグじゃないの?


 しかし、突っ込むのも面倒そうだ。この圧やエネルギーの強そうな石子を止めるのは、とても難しそうだった。


「待ってよ、グランマ!」

「いくわよ、理世!」


 何だかいつもより石子は、目が輝いているように見えてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ