犯人逮捕大作戦編(3)
礼拝堂に広げたテーブルの上は、すっかり空になっていた。塩結びもソーセージも卵焼きも食べ尽くされていた。
環奈と礼央が砂原を追いかけに行ってから、もう1時間以上たっていたが、帰ってくる気配はなかった。
鬼頭は夫の見舞いで病院、百合名も家の用事、立花や美幸も仕事があるというので帰っていった。他の礼拝参加者達も用事があるようで、全員帰って行ってしまった。
残された理世、石子、牧師は昼食の片付けをしつつ、環奈と礼央が戻るのを待っていた。
皿や食器類はすっかり片付け終え、礼拝堂の床の掃除を3人でしていた。
「環奈ちゃん、遅いね。どうしたんだろう」
理世は箒で床をはきつつ、心配になってきた。
「環奈は意外と運動神経がいいんだよ。ヲタクだから、本人は絵を描いてる方が好きって言ってたけど、陸上部やバスケ部からスカウトされたりしてるらしい」
牧師はちょっと誇らしげに言うと、塵取りでゴミを集めていた。
「環奈ちゃんは、典型的な田舎娘なのよねー。大力もあるし、今度、うちのお米でも買ってきて貰おうかしら」
「それはいいですね、石子さん!」
牧師と石子の会話を聞きながら、理世はちょっとホッとしてきた。掃除もあらかた終わり、礼拝堂はすっきり綺麗になった。
同時に礼拝堂の窓の方からガヤガヤと声が聞こえてきた。
「お? 環奈達帰ってきたか?」
牧師が礼拝堂の扉を開けると、環奈と礼央が帰ってきた。二人の表情は、かなり誇らしげだった。なんと、二人で砂原を捕まえていた。二人に囲まれた砂原は、だいぶ弱った顔をしていた。以前、理世と会った時はオオカミに見えたものだが、今は敵に捕まった子猫のような雰囲気だ。確かに顔は整いイケメンだが、ホームレスらしく顔や服も真っ黒だった。
「あら、あんたがホームレス?」
石子は堂々と砂原に近づき、使い捨てのおしぼりを手渡した。
「あんた、なんでこの礼拝堂を見てたの? どういう事よ?」
子猫のように萎縮すている砂原は、すっかり石子にも逆らえないようだった。
「まあ、このまま礼拝堂にホームレス置いておいても仕方ないですよ。とりあえず、牧師館の方に連れていって事情を聞こうじゃないですか」
礼央に提案にみんなが賛成し、礼拝堂の裏にある牧師館に砂原を連れていった。牧師は仕事があると、自分の部屋に行ってしまった。何でも牧師の収入で食っていけないらしく、神学の本などを書いて電子書籍で出版しているらしい。その準備が立て込んでいるらしく、砂原のことは石子と礼央に一任されてしまった。
という事で、砂原を牧師館兼佐藤家のリビングに連れて行った。
子猫状態の砂原は、大人しくリビングの席についていた。ちなみに上着は汚れて過ぎていたので、玄関の前で石子が無理矢理脱がせていた。下はパーカーとジーンズ姿だったが、まだ見れる姿だった。
「砂原さん、もしかしてお腹減ってる? ひょっとして、ソーセージの匂いに釣られて教会の方見てたりした?」
環奈、礼央、石子は明らかに砂原に疑いの目を向けていて、理世はいたたまれくなって聞いてみた。
「う、そうさ。あんまりにもいい匂いがしてさ」
「ソーセージに釣られるなんて、本当クマじゃない」
石子は呆れていたが、ホームレスの顔色や爪の状態を見ると、とてもロクなものは食べていないと思われた。
「まあ、佐藤さん。何か食べものあるか? こにホームレス、砂原って言ったっけ? とりあえず砂原に食べ物食わそう」
「先生、今日はカップラーメンと漬物ぐらいしか残ってないです」
環奈も呆れていたが、礼央に言われてキッチンに向かった。理世も何か手伝えると思い、キッチンについていった。
お湯を沸かし、カップラーメンとインスタントコーヒーを環奈と2人で作った。
「環奈ちゃん、冷蔵庫にソーセージは余ってないの?」
「残念。ないの。まあ、糠漬けがあるから、これ出すか」
環奈は冷蔵庫から大きめなタッパーを取り出した。そこには、大根やきゅうりの糠漬けが入っていた。
「え? 手作りの糠漬け?」
理世ははじめて見る料理だった。都会の家では、こんな物は食卓に載った事は見た事なかった。
「うん。石子おばあちゃんに糠漬けの作り方教えてもらって作ってみたよ。まだまだいっぱいあるよ」
「へー」
「確かにカップラーメンだけだと可哀想だから、糠漬けもつけるか」
環奈もなんだかんだで砂原に同情心は持っているようだった。
こうしてカップラーメン、糠漬け、インスタントコーヒーをリビングに持っていった。
砂原は、カップラーメンを見ると、感動して涙まで浮かべて食べている。糠漬けも「お袋の味だ!」と感動している。大人とは言い難い姿に、一同砂原に引いていた。
夢中で食事をしている砂原を無視し、他の面々はリビングのテーブルについて話始めた。
「礼央くん、このホームレスどうやって捕まえたの?」
石子が聞く。
「美素町に方まで走ってくから、佐藤さんと走って追いかけたんだよ」
「うん、案外礼央先生も走るの早かったよ!」
二人はかなり走ったようだが、全く体力的にはダメージ受けていないようだった。牧師が環奈は足が速いと言っていたが、本当のようだった。
「本当にこの人、森口さんを襲った犯人?その割には、頭が悪そうだし、鈍臭そうねー」
石子は本人を目の前で、悪口ともとれる事も言っていたが、砂原は全く気にしていなかった。相変わらずラーメンや糠漬けを食べるのに夢中だ。
その隙に、礼央はリビングに置きっぱなしになっているホワイトボードに、事件の概要をサラサラと書いていた。足りない情報は石子や理世が付けたしたりして、すっかり一面が黒くなっていった。これで石子や理世がしっている情報は全てこの一面のホワイトボードに纏められ、礼央達と共有できそうだった。
「うげー、銃価の教祖って子供を性的虐待やってるのー? ドン引きなんですけど。しかも圭吾もその被害者の可能性大って。秀太くんも狙われてるの?」
環奈は、その情報は初めて知ったので、明らかに引いていた。
「銃価教祖、信濃川一朗が幼児虐待やっているのは、確かだ。俺も被害者に取材した事があったが、ガチだぜ」
急にこちらの話題に入ってきた砂原に、一同目を丸くしていた。彼の前に置かれているカップラーメンや漬物の皿は、すっかり空になっていた。
「え、取材ってどういう事?」
石子は砂原の前に出てぐいぐいと詰め寄っていた。
「ああ、俺は、記者なんだよ。ペンネームは、スナフ。お? 君は栗原礼央くんじゃないか。同じ陰謀論系として俺の名前は知らんか?」
「マジで! あの失踪した伝説のライター・スナフってあなたの事だったんですか!!!」
礼央は一人、大興奮していた。砂原とも熱く握手まで交わしている。
取り残された石子、理世、環奈は呆気に取られる他なかった。
「この方は、陰謀論界隈でも超有名なライターですよ!」
礼央は興奮して語っていたが、その界隈に全く詳しくない理世達は、ポカンと口を開ける事しかできなかった。




