犯人逮捕大作戦編(2)
礼拝はじまる5分前になり、理世は一番後ろの席に座った。
学校の教室よりやや大きいサイズのれいはいどは、意外な事に人がいっぱいだった。前方には教壇もあり、牧師が立っているが、その姿は学校の先生のようだった。何か特別な黒い服でも着て売るいるのかと思ったが、普通にいつも通りにスーツ姿だった。ただ、髪はいつもよりキリッとセットされていた。グレイヘアが特徴的で、よくよく見ると目元は環奈とそっくりだった。
理世、環奈、百合名は一番後ろの席に並んで座った。近くに鬼頭や礼央、美幸の姿が見える。後ろの方の席は子供か、未信者、クリスチャンになったばかりのものは座るような暗黙なルールがあるようだった。
一方、前の方には石子や立花が座っていた。はじまる数分前から、聖書も読んでいるようだ。
礼拝なて初めて出席する理世だが、祖父の葬式もここで行われた事も思い出した。確か10年ぐらい前で理世も小学生ぐらいだったが、牧師や環奈の顔も何となく覚えていた。葬式といっても讃美歌が美しく、なぜかあんまり暗さもなかった事を思い出していた。
今日の日曜礼拝もなぜかとても明るい雰囲気だった。窓からは春の日差しが差し込み、礼拝堂の中もぽかぽかと暖かい。確かにここだけバリアののようなものが貼られている気がした。鬼頭の様子も落ち着いているようにもみえる。
さっそく讃美歌演奏から礼拝が始まった。意外な事に立花がピアノ演奏していた。あの皺だらけのお婆さんのどこに力があるのか謎なほど、力強い演奏だった。
「主の愛は永遠に〜♪」
石子の声もよく響いていた。いつもの石子の態度には想像できないほど、澄んだ綺麗なy歌声だった。環奈も百合名も一生懸命うたっていて、理世も思わず声を出した。とても皆んなと同じように上手くは歌えなかったが、なぜか歌っていると力が湧いてくる気がした。
讃美歌が終わると、牧師の説教が始まった。旧約聖書のエステル記の中からの説教らしかったが、理世は全く聖書も読んだ事もないのでちんぷんかんぷんだった。だんだんと眠くなり、牧師の声は子守唄状態だった。
「理世ちゃん、説教はクリスチャン向けのものだから寝てもいいよ?」
隣にいる環奈に小声で言われ、理世は本当に寝てしまった。石子や立花は前の方の席で熱心に牧師の説教を聞いていたが、やっぱり理世には難しい世界だった。眠ってしまったが、他の誰にも文句は言われなかった。献金に時間もあったが、これもクリスチャン限定らしい。意外な事に環奈や百合名も献金を捧げていた。バイト代に1割かその半分ぐらいを捧げているという。特に強制されてやってる感じもなく、理世はただただカルチャーショックだった。理世の周りにはクリスチャンなんて見たことないし、実際何をしている人かはよくわからない面もあった。
こうして最後に牧師が今週の報告をし、森口の件も触れていた。
「この村で事件が起きてしまった事は痛ましい事です。どうぞ、被害者の森口さんが一刻も早く回復し、事件が解決されるよう祈りましょう」
牧師の指導で、皆んなと一緒に森口のついて祈る事になった。理世はただただ牧師に声を合わせて祈っているだけだったが、祈っていると一刻も早くこの事件を解決して貰いたい、そんな強い気持ちも生まれていた。
「愛する神様、御名を讃美します。この事件を解決し、この麹衣村の平和を守ってください。アーメン」
こうして牧師が祈りの言葉を言い、礼拝は終わった。
礼拝が終わると、椅子を片付けて、礼拝堂に折りたたみ式のテーブルを並べた。そこに朝あらかじめ用意したソーセージ、卵焼き、塩結びの皿をだし、昼食の準備を始めた。理世、環奈、百合名もお茶を並べたり、箸やおしぼりを出したり細々と動いた。
礼拝が終わると帰ってしまったものもいたが、半分以上は残り、この昼食を楽しんだ。礼央や美幸も残っていたが、鬼頭の姿もあった。鬼頭は、お菓子作りが上手という事で、石子や立花、牧師と盛り上がっていた。誰も事件については話題にしていないので、鬼頭もリラックスして食事をしているようだ。
理世は、こうして皆んなで昼食を食べている鬼頭を見ていると、とても森口を襲った犯人に見えなかった。
「鬼頭さん、以前もらったレアチーズケーキが美味しかったです」
あのチーズケーキの事を思い出し、理世は鬼頭に御礼を言った。塩結びやソーセージのおかげで腹がふくらみ、理世もすっかりリラックマスしているようだ。
「そう? だったらまたレアチーズケーキ作って持っていくわよ」
「本当ですか!?」
理世は思わず身を乗り出してしまう。
「というか、理世。作り方を鬼頭さんから教えてもらったら良いじゃない? そうすれば都会に帰っても家で食べられる」
石子は塩結びを食べながら、口を挟んできた。石子のノリに押されて、後日本当にレアチーズケーキを皆んなで一緒に作る事になってしまった。
「ああ、こんな私でも誰かの役に立てると思うと、嬉しい」
鬼頭は何か胸に込み上げるものがあったようだ。目を潤ませていた。この姿を見て、ここでは誰も鬼頭を犯人として疑っているものはいないようだった。すっかり鬼頭は教会のみんなと打ち解けていた。
理世も最近は全く緘黙症の症状が出ず、すっかり気が抜けていた。
「あれ?」
しかし、ふと窓を見えるとホームレスがこちらを覗いているのが見えた。
「グランマ! ホームレス、砂原さんがこっちを見てる!」
思わず大きな声で叫んでしまった。
「何ですって!」
石子は反射的に外に出て、砂原を追いかけていた。石子だけでなく、礼央や環奈も追いかけていた。
もちろん、理世も砂原を追いかけたが、途中でバテた。石子もいくら元気といえども、高齢女性である事は変わりない。教会から数メートル離れた場所で息が切れてしまった。
「グランマ、何で砂原さんがいるの?」
「さあ、塩結びやソーセージの匂いに釣られてやって来たんでしょうね」
「まるでクマ……」
「でも、礼央くんや環奈ちゃんがあのホームレスを捕まえたら、一気に事件が進むわ」
息を絶えながらも、どうにか希望は持てそうだった。
「とりあえず、教会に戻りましょう」
「そうだね」
石子と理世は、再び教会の礼拝堂に戻った。あとは、礼央か環奈が戻ってくるのを待つだけだ。
これで事件は解決に進む?
偶然とはいえ、こうして犯人候補であるホームレスを捉えられそうなのは、神様に祈りが聞かれたとしか理世は思えなかった。




