スケープゴート編(7)
鬼頭、礼央も帰り、パンケーキパーティー(?)の後片付けをしていた。スポンジを使わなくてみ、石子特製の手作り洗剤をかけると、すっきり綺麗になってしまった。
「グランマ、お皿洗い終えたよ」
「オッケーね。次は食材を買いに行きましょう」
「どこに? 美素町よ。この村にはスーパーがないからね。卵や野菜はあるけど、お肉や牛乳は買わなきゃ」
「この前、美素町に行った時に買っておけばよかったじゃん」
「仕方ないわよ」
そんな愚痴を言いつつ、理世と石子は身支度を整え、麹衣村駅から美素町に向かった。
今日は美素町商店街にはいかず、そことは反対側にあるスーパーマーケットに向かった。大手チェーンではなく、一一階建てのこじんまりとした店舗だった。
理世は、野菜コーナーやお菓子コーナーも気になったが、石子はものの見事に必要なものしかカゴに入れていなかった。
「グランマ、今日は美素町商店街で華名さんの事は調べてないの?」
買い物を終え、イートインコーナーで一休みしていた。
土曜日とはいえ、昼すぎに中途半端な時間のせいか、イートインコーナーに他の客はいなかった。売り場に方がからは、呼び込み君の呑気な音楽が聞こえてきて、あまり落ち着ける空間ではなかったが。
「今日はいいわ。やっぱり犯人は香村刑事か華名さんよ。あるいは共犯ね」
今日の石子は、いつもより強く主張していた。イートインコーナーにある自動販売機で買ったカップコーヒーを、石子は一気に飲み干す。
「動機は何? いくら自己顕示欲が強い華名さんでも、嫉妬で森口さんを殺す? まあ、妻の犯行を香村刑事が庇っている可能性は高いけど」
おそらく香村刑事は、マスコミに繋がって、世間の目が鬼頭に向かうよう工作している。森口から財布を盗んだのも、物取りかホームレスの犯行に見せかけるとしたら、辻褄が合ってしまう。
「動機は秀太くんよ。おそらく秀太くんは、森口に狙われた」
「どういう事?」
石子は「鈍いわね!」と理世の背中をつっついた。そこですぐに気づく。森口は、自分の息子・圭吾も性的虐待をする教祖に捧げていた人間だ。自分の息子でこんな事がでくきつのなら、人の息子なんて罪悪感なくできるだろう。その上、秀太は見栄えもいい。教祖から直々にそうするように頼まれてた可能性もあるだろう。それに鬼頭の証言もある。森口が秀太を性的虐待目的で狙っていとしたら、動機は十分にあるではないか。
「だとしたら、華名さんも香村刑事も可哀想じゃない」
「可哀想なものですか。元からカルトなんかにハマっているのが問題よ。それに秀太くん様子も思い出しなさいよ」
そう言われれば、特に香村刑事にも華名にも同情できなくなっていた。
「秀太くんは大丈夫かな?」
理世に顔は青くなってきた。それに虐待を受けていたと思う圭吾の事も、心配で仕方ない。一見、のどかな田舎なのに、一皮剥けばどろどろしたもので溢れていた。そう思うと、都会での自分の暮らしは、ぬるま湯そのものだった。ぬくぬくと親元で暮らしていただけなのに、どこかで悲劇のヒロインぶっていた。今は、そんな気持ちはすっかり抜けてしまっている。
「今朝、牧師さんから連絡貰ったけど、秀太くんは教会で遊んでいるみたい。香村刑事と華名は、今日はどこかに出掛けているらしい」
石子は全く平然としていたが、他人に危害を加えている可能性の高い人物が、どこに出掛けているのか、気になってしまう。
「でも、グランマ? どうやって香村刑事や華名さんを捕まえるの? 証拠も無いよね」
「そうなのよ、証拠が無いのよね」
石子は悔しそうに唇を噛んだ。礼央の情報だと、銃価の性的虐待を受けた被害者はYouTubeや SNSで被害を訴える事はできるが、事件として立件されたものは一つも無いという。やはり、警察内部で銃価がかなり動いていて、事件をもみ消している可能性が高い。この事件も犯人と主思われる人物が、刑事だ。例え証拠があっても、事件として立件できるか理世はわからなくてなってきた。
「ま、考えても仕方ないわ。お肉や牛乳も温くなるわ。とりあえず、帰りましょう」
「う、うん……」
二人は、とりあえずスーパーから帰る事になった。
「あれ?」
スーパーから出ると、理世は誰かの視線を感じた。
「どうしたの? 理世」
「誰かに見られた気がするんだけど、知ってる人いる?」
石子は後ろを振り向いたが、誰もいなかった。
「気のせいよ」
「そうかなぁ?」
急に不安になり、肩が震えてしまった。
「大丈夫よ。犯人は私が捕まえるわ。なんといっても私は名探偵なんだからね!」
自分で名探偵って言う?
でも本当に香村刑事や華名が犯人だとしたら、最初の石子の予想が当たっていた事になる。名探偵かどうかは不明だったが、勘が良い事は否定できなかった。
こうして美素町から、麹衣村に帰った。今日は土曜日のせいか、マスコミの数も減っているようだった。
このままマスコミも飽きて、別の場所に行ってもらいたいものだが、理世はその日が来るのはだいぶ先のような気がしてならなかった。




