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おばあちゃんは名探偵!〜お隣さんは謎だらけ〜  作者: 地野千塩


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スケープゴート編(6)

 来客は、理世にとって予想外の人物だった。牧師、礼央の妻の美幸のどちらかが訪ねに来たと思っていた。


 あの騒ぎに中心にいる鬼頭が、この家にやってきた。


 黒いパーカーに黒のスラックス姿の上、髪もボサボサで目の下は真っ青だった。頬もこけ、骨っぽい。確かに目つきは怖い雰囲気だったが、それよりも心労の方が顔に滲んでいた。理世は痛々しくて見ていられなくなった。


「鬼頭さんもパンケーキパーティーやってく?」


 鬼頭の疲れている雰囲気を無視して、石子が無理矢理誘ったようだ。こもリビングでちゃぶ台を囲み、呑気にホットプレートを囲っている雰囲気だったが、鬼頭が入ってきて少し暗い感じになってしまったが。


「え、ええ。あの、これはお土産です。気分転換でケークサレを作って見たんです」

「あら、嬉しい!」


 石子は隣に座った鬼頭から、紙袋をもらっていた。今日もお菓子を持ってきたのだろうか。理世はそんな感じはしなかった。


「まあ、とりあえず、パンケーキ焼きましょう。あと、ホイップクリーム、ジャムやフルーツもトッピングしましょうよ」


 テンションが高い石子に押され、鬼頭もパンケーキをホットプレートで焼いて食べていた。パンケーキが焼ける間、鬼頭と礼央は自己紹介を交わしていた。今までほとんど接触はなく、初対面らしかった。礼央が「僕は陰謀論が好きなんですよねー」というと、鬼頭はちょっと顔を顰めていた。


「美味しい?」


 石子もパンケーキを焼きながら、鬼頭の表情をうかがった。


「ええ。いつもスーパーで買ってるパンケーキミックスと違う味がするわ。バニラの香りが濃いというか」

「鬼頭さん、すごい。このパンケーキミックス、ハワイのものなんだって」


 理世は思わず鬼頭を誉めていた。ちょっと食べただけで味がわかるのは、味覚が鋭いよいだ。お菓子作りが好きそうなのも納得だ。顔は怖いけど、テレビやネットでオモチャにされていい人物には決して見えなかった。こうして誉められて少し恥ずかしそうにしている鬼頭の表情を見ていると、マスコミに故意に悪者に仕立てあげられているとしか思えなくなってきた。これと言った証拠はないが、鬼頭は森口の件とは無関係に思てしまった。


 礼央は黙ってパンケーキを食べていたが、この様子の鬼頭にちょっと驚いているようだった。


「ところで、鬼頭さん。うちに何しにきたの? 今は大変な時よね」


 石子の言葉はキツいが、その表情は柔らかだった。


「実は、家にこんなチラシが入っていて。雲井さんは何か犯人を心当たりは無いですか?」


 鬼頭はポケットの中から、一枚にチラシを取り出した。


 そこには、「森口を襲った犯人はお前だ。もうすぐ警察が捕まえにくるだろう」と書かれていた。おそらくワードで打ち込んで印刷したものだ。シンプルな白い紙に活字が浮いているだけだったが、強い悪意のようなものを感じ、理世は気分が悪い。一方、礼央は面白がるような表情を浮かべ、石子は全く動じていなかったが。


「単刀直入に聞くけど、あなたが森口さんを襲ったの?」


 石子の物言いが、ばさっと音が聞こえてくるぐらい単刀直入だった。


「動機はあるね。俺も陰謀論者として銃価を調べたことがあったけど、あいつら勧誘に熱心。勧誘に応じない人はいじめたり仕事で干したり、コミュニティで浮くように小さな嫌がらせをするらしい。集団ストーカーともいうらしいよ。もし鬼頭さんが森口から勧誘を受けて、被害を受けていたなら、動機はあるよ」


 礼央は冷静に語っていたが、鬼頭はだんだんこの場も居心地悪くなってきたようで、下を向いて黙りこくっていた。その目は今にも泣きそうなぐらい、潤んでいた。


「そもそも坂下さんとは、なんでトラブルが起きてたの?」


 この場の凍った空気が不味いと思い、理世は別の方面から聞いてみた。マスコミは鬼頭と坂下の騒音トラブルを主に取り上げていたし、こちらの方が根が深そうな問題に思えた。


 子供の理世が、呑気な声で聞いたのが効果的だったんだろか。鬼頭は、ポツポツと坂下との事情を話し始めた。


 最初はほんの小さなキッカケだったらしい。病気の夫は、かなり音に敏感で、坂下の騒音に頭を悩ませていた。


「え? 坂下さんの方が先に騒音出してたの?」


 石子はびっくりして口を挟んだ。


「ええ。銃価のお経よ。何でもお金が無いみたいで、毎日お金が入るようなお経を繰り返していた。深夜も早朝もやっていて、さすがに夫の病気が悪化したから、文句言ったら逆に森口さんや香村さんも引き連れて、銃価の勧誘にきたの」

「え? 香村さん?」


 さらに石子は驚いて声をあげる。


「ええ。奥さんの華名さんよ。そんな風には見えないけど、あの人も熱心な信者みたい。リーダーが森口さんで、坂下さんと華名さんが腰巾着って感じだった。まあ、華名さんもだいぶ押しが強いというか、銃価を信じないと死ぬとかかなり心酔しているような事をいっていた」


 鬼頭の話が本当だとすると、華名はライト信者ではなかった事か。てっきり銃価とは距離があるライト信者かと思っていたので、意外だった。この事は事件と関係あるだろうか。まだ余計なパズルのピースが混ざりすぎている。ピース自体は全部揃っているが、余計なピースが一枚の絵を作るのに邪魔しすぎていた。


「勧誘されたのか。それは大変だったな。陰謀論界隈でも、銃価の勧誘がキツいというのは、有名だからね。これで干された芸能人もいるし、警察は銃価も多いから事件にならないんだよな。それで、どうなったんです? 嫌がらせは続いた?」


 意外と理解がある態度の礼央に、鬼頭は口が軽くなったのか、さらに話を続けた。


「ええ。逆にこっちは騒音出しているように言われたり。私も気が強いから言い返したり、防犯カメラを設置したりしてたんだけど、だんだんと向こうもエスカレートしてきたのか、こんな風に騒ぎになってしまって」


 ここで鬼頭はポロっと涙を落とした。


「森口さんのことは何も知らないわ。どちらかっていえば、坂下さんの方を殴りたい気分よ」

「ちょ、鬼頭さん、本音が漏れてますよ!」


 理世が慌てて突っ込むと、この場が和み、みんなで笑ってしまった。


「森口さんのことは本当に何も知らないの」


 どう見ても鬼頭が嘘をついているようには、見えなかった。理世は深く頷き、ちょっと冷めかけているパンケーキをフォークで千切って口に入れた。


「おそらく、このマスコミ騒ぎも銃価が裏で糸を引いているはず。マスコミに銃価は多いからねー。前にも似たようなことがあって、マスコミが誘導して間違って逮捕された人もいる。何件かこういうケースがあって、あいつらの王道パターンみたいだ。なんせ、警察にも銃価信者が多いからね。俺ら陰謀論者の間では、警察なんて信用するなと言われている」

「そうよ、あんな香村刑事は全く信用できないわ。あの男がマスコミに入れ知恵して、鬼頭さんを悪役にしてると思うと全部辻褄が合っちゃうわね!」


 礼央と石子の押しの強さに、鬼頭はドン引きしているようだった。すっと涙もひいていた。


「礼央先生もグランマも、香村刑事か華名さんが犯人って思っているみたい」


 理世は慌てて鬼頭にフォローを入れた。


「え、あの二人が? そういえば、華名さんは息子の秀太くんに、『森口さんには近づくな!』って怒っているところを見かけた事あるんですけど、何か関係ありますか?」


 ここで石子は鬼頭の肩を叩き、ニヤっと笑顔を見せた。


「あら、鬼頭さん! 素晴らしい手がかりじゃない! どうやら華名さんは森口とトラブルがあったようね。原因は不明だけど、息子の秀太くんが関係してるようね。これでやっぱり、華名さんには動機はあるって事よ」


 石子はさらにニヤニヤ笑いながら、鬼頭の肩を叩いた。おばあちゃんというか、おばさんらしいノリで、鬼頭はさらにドン引きしていたが、すっかり涙は乾いたようだった。それどころか、ちょっと笑顔さえ浮かべているではないか。


「鬼頭さん、明日日曜日だ。うちらの教会きて、讃美歌でも大声で歌ったら、ストレス解消になるんじゃないか? 明日来ないか?」


 礼央は、そんな提案をしていた。


「大丈夫だよ、石子さんや立花さんもクリスチャンだけど勧誘なんてしないから。というか、嘘でもクリスチャンって言っておけば、銃価の連中も勧誘してこないよ」

「え、二人ともクリスチャンだったんですか、信じられない」


 鬼頭はもっと引いていたが、その口元は笑みが浮かんでいた。


「こっちは死んでも蘇る最強の神様がついてるもの。私はイエス様の為だったら死んでも良いっていたら、銃価の勧誘も全くなくなったわ。どう? 魔除け目的で教会来てみる? 終わったらお昼ご飯も食べられるわ」

「グランマ、私も行きたい!」


 理世も別に教会に興味などはなかったが、環奈にも会えるし、お昼ご飯も気になった。子供である理世が無邪気に言ったのも効果があったのだろうか。鬼頭も頷いていた。


「じゃあ、魔除け目的で教会に行ってみようかしら。そういえば坂下さんもドラキュラっぽい怖い顔してるね。十字架嫌がるかな?」

「あら、鬼頭さん! なかなか口が悪いじゃない!」


 その後、石子と鬼頭は悪口で盛り上がっていた。悪口大会はどうかと思うが、鬼頭の表情はだいぶ柔らかくなっていた。

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