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おばあちゃんは名探偵!〜お隣さんは謎だらけ〜  作者: 地野千塩


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スケープゴート編(3)

 理世があのチラシを持ちながら、家に戻ると、もう朝食ができていた。


 リビングのちゃぶ台には、トースト、イチゴジャム、バター、コーンスープ、コーヒーが並べられていた。食器はキティちゃんやドラえもんの絵がついているので、ちょっと間抜けな雰囲気は否定できないが、こんがり焼けたトーストやコーヒーからは、いい匂いしかしなかった。


「グランマ、立花さんからこのキャベツをもらったよ」

「あら、嬉しい。お昼ご飯は、お好み焼きにしましょう!」


 石子はスキップしながら台所の冷蔵庫にキャベツを置いてくると、リビングのちゃぶ台に戻ってきた。


「さあ、お祈りしてから食べましょう」


 食前のお祈りの後、朝食を食べはじねた。今日はテレビは決して、落ち着いた食事の時間だった。


「グランマ、このジャム何? すごく美味しいんだけど」


 朝食に出されたイチゴジャムは、瓶の様子からして自家製だった。市販のジャムより甘味がありながら、後味は果実のスッキリした味わいもする。何よりサクサクとした表面のトーストとよくあった。このパンは昨日、美素町で買ったものだが、普通の大企業が売ってるパンより美味しく感じてしまう。


「これは、私の手作りの秘伝のジャムよ。死んだ夫の母から教えて貰ったのよ。夫の母は、戦後アメリカ人の家でメイドもしてたみたい。そこで教えて貰ったみたいね。他にシチューやシュトーレンなんかのレシピも残ってるわ。秘伝もレシピブックね」

「えー? 本当? 私も料理してみたくばってきた」


 自分と歳が一つしか変わらない環奈は料理上手だった。一方、自分は食べているだけ。そう思うと、理世は料理にも興味が出てきた。何でみ受け身で待っているだけなのは、親鳥の餌を待つ雛を思い出してしまう。いずれ巣立ちをしなきゃいけないのに、このままで良いんだろうかとも考えてしまう。


「わかった。後で教えてあげるわ。その前に事件よ。理世はどう思う?」


 そう言えば自分の意見をあまり言ってきなかったことも思い出す。理世は、コーヒーを啜り終えると、石子に自分の意見を言ってみた。


「私は、香村刑事が犯人の気がしてきたよ」


 理世は立花から聞いた話や、森口の息子・圭吾のチラシを見せながら、自分の推理を話した。


「たぶん、動機は嫉妬じゃないかな? だって、どう考えてもこの王子様役は秀太くんの方があってる」

「そうね。圭吾くんも悪くはないけど、村人やヒロインの友達役ね。顔がモブっぽいわ」


 石子はチラシをまじまじと見つめながら呟く。圭吾は主役顔ではない事は、共通認識のようだった。例えばコメディタッチの舞台なら問題ないが、シンデレラの王子様となると違和感は拭えない。


「この劇団をちょっと検索してみるわよ。あー、やっぱり銃価系列の子役劇団みたいね」

「本当?」


 石子はスマートフォンを出し、インターネットで検索していた。その結果では、この劇団は銃価関係者が作ったものらしく、スタッフから出演者まで全員銃価信者らしい。


「こんな舞台にまでカルトが入り込んでいるんだ……」


 正直、理世はショックだった。こんな権力を持っているカルトに一般人は戦えるだろうか。


「あら、礼央くんのブログも出てきたわ。えー、陰謀論によると、子役を教祖に差し出してるの?」

「どういう事、グランマ?」

「礼央くんの陰謀論だから、確証はないけど、銃価の教祖は少年好きの変態で、信者の子供を性奴隷にしてるとか……。その見返りに親はお金や仕事なんかを斡旋して貰えるとか。虐待じゃない」

「そんな……」


 ほのぼのとした朝食の時間だったが、理世はすっかり食欲を失ってしまった。もしこの陰謀論が本当だとしたら、圭吾は被害者だったりするんだろうか。秀太は、そんな感じはしなかったが……。


「とにかく、礼央くんに詳しく話を聞いてみましょう。今日は家庭教師で、あの人来る予定よね?」

「うん、グランマ……」


 すっかりこの場は暗い雰囲気になってしまった。圭吾の事も心配になる。もしそういった虐待があるのなら、一刻も早く助けたい。森口の件との関係も不明だが、敵はどうも深い闇を持っていそうだった。


 理世と石子は、しばらく無言のまま、朝食を食べ終え、片付けた。他に庭や廊下の掃除などをして過ごした後、礼央が家にやってきた。


 勉強をする気分ではなかったが、宿題を見せて、間違っているところを教えて貰った。


 こうして勉強が終わったら、リビングのちゃぶ台に囲み、石子と3人でこの事件を改めて振り返った。


 ちゃぶ台の上には、ホットコーヒー、パンの耳で作った石子お手製のラスクがあり、こんな事件の話題でも、少し場は和んではいた。


「石子さん、このパン耳ラスク上手いっすね」


 礼央は涙目になりながら、パン耳をつまんでいた。どうやら、礼央の妻美幸はまた断食をしているようで、ろくに食事をしていないらしい。顔色も悪い礼央を見ていて石子も理世も同情し、昼ごはんをご馳走してやる事になった。ちょうどキャベツを立花から貰ったので、今日の昼ご飯は、お好み焼きになった。


「もう断食なんてやめなさいよ」


 石子は呆れながら、礼央に突っ込んだ。


「そうもいかなんですよ。あー、嫁とは食の趣味だけは合わないな。あいつは、全く食べ物に興味がない」

「もう、奥さんの愚痴はそれぐらにしましょう。事件はどうなの? 銃価の教祖が子供にセクハラやってるのは、本当なの?」


 石子が若干イライラしながら事件に話題を戻すと、礼央はノートパソコンを出し、動画サイトを見せた。ノートパソコンは、理世の勉強の為に持ってきたものらしいが、ほとんど使わなかったものだが。


 動画サイトでは、元銃価信者の告発動画が何本も上がっていて、教祖は筋金入りの変態という事は伝わってきた。


 石子や礼央はいい大人なので、そう言った動画を見ても平然としていたが、まだ子供で免疫のない理世は気分が悪くなってきた。


「う、気持ち悪いよ。セクハラっていうより、虐待では……」


 被害者の心情を想像するだけでも、心が痛い。礼央の陰謀論は、そこそこ当たっている部分もあると思ったが、あまりにも世の中の闇を描きすぎているとも思ってしまう。


「情け無いわね、理世は。世の中、だいたいこんなもんよ。聖書では悪魔がこの世を仕切ってるって書いてあるからね」

「そうだよ、理世ちゃん。強く生きろ」


 大人達と自分は、全く違うにではないかと思う。理世はこんな図太そうな大人になれるかどうか、わからなくなってきた。石子と礼央が特別に変人といえば、そうなのだが。


「グランマ、礼央先生。ちょっと気分悪くなんてきた。外行って散歩してきていい?」


 理世が青い顔で言うと、大人二人はため息をついた。


「本当、理世は繊細なんだから」


 石子は口を尖らせていたが、理世はやっぱり理解できなかった。


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