おばあちゃんと聞き込み編(6)
秀太は初めて行く教会に、ちょっと興奮しているようだった。古めかしい礼拝堂の十字架を見上げて騒いだり、礼拝堂の中に入りたいとも言ってきた。
仕方がないので、牧師が案内してやったりしていた。
その間、理世と石子は夕飯の準備を手伝った。牧師館兼環奈の家のキッチンで、野菜を切ったり、茶碗を出したり、並べたりした。もっとも料理はほとんど環奈が作ったわけだが、手慣れたものだった。
リビングのテーブルに、今日の献立である春キャベツのスープ、玄米ご飯、塩麹の唐揚げを並べた。彩りもよく、料理を並べているだけで華やかな雰囲気になった。
ちなみにリビングはホワイトボードが出しっぱなしになっていた。「ゴミ出しする!」「牛乳の賞味期限は明後日まで!」など書かれており、メモがわりに使っているようだった。スッキリと片付いたリビングだが、ホワイトボードのあたりは妙に生活感が出ていた。チラシについているクーポンも貼ってある。
牧師や秀太も戻って来て、みんなで一緒に夕飯を取る事になった。秀太のために軽く自己紹介などをしつつ、出来立ての美味しい夕飯を楽しんだ。食前に祈りを捧げていたので、秀太はかなりびっくりしていたが、美味しいそうなご飯に待ちきれない様子だった。小賢しい秀太だが、子供らしい一面は残っているようだった。
「唐揚げは二度あげしてるから、カリカリのはずだよ」
環奈は唐揚げの出来に満足しているのか、ドヤ顔をしていた。
「あら、料理を牧師さんや環奈ちゃんに教え込んだのは、この私よ? つまり、私が料理上手って事よ」
石子がドヤ顔すると、何がおかしいのか秀太は大笑いしていた。なんとなく秀太の目からは、石子はゆるキャラのように見えているのかもしれない。
「しれにしても、秀太くん。猫はいじめちゃいかんよ。猫も神様が愛している動物だからね。神様が悲しむよ」
牧師からの予想外の説教に、秀太は笑いを収めた。
「うちのママやパパは、そんな叱り方しない。銃価のお経唱えて、地獄に堕ちるって脅してくる」
「それ、カルトじゃん」
環奈は容赦なく突っ込んでいた。
「秀太くんのママとパパって銃価信者なの?」
理世は慌てて優しく聞いてみた。もうお腹いっぱいになってきたのか、秀太の表情はトロンと眠そうだった。
「そうだよ。ぶっちゃけ、パパとママ、僕がいじめられても天罰って行ってくるからね」
「かわいそうな秀太くん!」
牧師は暑苦しく秀太を抱きしめていた。
「牧師さん、ちょっとおやめなさいよ。いじめられたって誰に?」
石子は身を乗り出して、秀太に聞いていた。
「森口圭吾くんだよ。あいつの親も銃価だからね。学校も介入できずにお手上げっぽい。もう学校休んじゃおっかなー」
「休んじゃえ」
今まで黙っていた理世だったが、自分と境遇がダブり、思わずそうけしかけていた。
「子供のいじめなんてだいたいは親が原因ですよ。子供はお手本がいないと何も出来ませんからね。他に何かいじめのきっかけみたいな事はなかった?」
牧師は冷静さを取り戻し、秀太に優しく問いかけていた。
「うん。僕が子役のオーディションに受かった時から森口圭吾から、いじめが始まった感じだよね」
「え、子役のオーディション受かったの!」
他のみんなも一斉に驚いていた。
「うん。ママの勧めでね」
華名がオーディション雑誌を買っていた理由が腑に落ちた。息子の秀太をオーディションに受けさせていたのだろう。
「でも森口圭吾もオーディション受けて受かったらしい。おかしいね。あんなブサイクなのに」
「こら、ブサイクなんて子供が言ったらダメだって」
環奈は笑いを堪えていた。牧師や石子も微妙な顔だ。理世は森口の息子・圭吾の顔は知らないが、容姿はあまり良くさそうだと察した。
気づくとテーブルの上の料理はほとんど空になっていた。秀太はコンビニスイーツも食べ、さらに眠そうに目を擦っていた。
「秀太くん、眠そうだね」
理世はやけに秀太が眠そうなのが気になった。いくらお腹いっぱいになったからといって、こんな眠くなるだろうか。
「うん、最近薬が身体に合わないんだよ」
「薬?」
理世には秀太は比較的素直に話すようだった。秀太に詳しく話を聞くと、診療内科で発達障害と診断され、いくつも薬を飲んでいるらしい。理世は投薬を拒否していたので、薬の副作用などを聞くと、ショックだった。
「だから、森口圭吾のママの事件があった日もずーっと部屋で寝てたんだよ。正直、うちのパパとママはアリバイがないね」
そう言って、秀太は椅子に座ったまま眠りこけてしまった。
残された一同は、顔を見合わせる事しかできなかった。秀太の家庭環境は想像以上によくなさそう。その上、学校ではいじめにも遭い、身体に合わない薬も飲まされているようだった。
「可愛いそう、秀太くん」
理世の呟きには、誰も否定してきなかった。一応手がかりが手にが入ったわけだが、理世は嬉しくはなかった。




