おばあちゃんと聞き込み編(4)
美素町商店街を出た石子と理世は、この町の小学校也高校のある場所に足をすすめていた。石子は華名の息子も気になると主張したからだ。
しかし、手がかりは全く得られ無い。結局、美素町商店街に戻り、ベーカリーでお土産のパンも購入し、帰る事になった。もう夕方になり、日も暮れかけていた。
ベーカリーと駅までの道すがら、理世は石子の推理を聞いて見る事にした。
「グランマ、犯人は誰だと思う?」
「そうねぇ。やっぱり香村刑事と華名さんが怪しいわよ」
そこはブレずに意見を全く変えていないようだった。
「確かに華名さんは変な人っぽいけど、証拠はある? 証拠はないと警察動かないよ?」
「それなのよね……。まあ、動機はカルトでの揉め事か嫉妬でしょうね」
「嫉妬?」
「見てよ、こんなグッズ作るぐらい自己顕示欲が強いのよ?」
石子はカバンから華名の写真入りの缶バッジを取り出して見せた。
「ファンがいるならまだしも……。おそらく森口さんはカルトで地位が高い。それで嫉妬したのよ、きっと」
「それだけで、殴る?」
「子供の件もあるじゃない。森口さんの子供が華名さんの子供をいじめていたとすれば、動機があるね」
一応筋は通っていたが、理世は気になる事を思い出した。
「でも、グランマ? 森口さんからは、財布が盗まれていたんだよ。これはどう説明するの? あと動機がある人は、森口さんの家族、同じカルトの坂下さんだって怪しいじゃない。鬼頭さんは? ホームレスは?」
理世の冷静なツッコミに石子も反論できず、情け無い声をあげていた。
「っていうか、喉渇いたわ。駅前のコンビニで、ペットボトルのお茶でも書いましょう」
「私はコンビニコーヒーの方がいいな」
「買ってあげるわよ」
自分の推理の穴を指摘されてバツに悪そうな石子は、コンビニでコーヒーだけでなく、ロールケーキやシュークリームも買ってくれた。今は春のスイーツフェアで、チルドスイーツコーナーが華やかだった。あんな事件があり、捜査中だったが、こうして日常の中にあるささやかで華やかなものを見ると、理世はホッと心が和んだ。
石子と一緒にレジに持っていき、会計して貰ったが、店員のネームプレートに「森口」とあり、思わず理世は変な声をあげてしまった。50過ぎぐらいの禿頭のおじさんだったが、ギロリと睨まれてしまい、理世は小さな声で謝罪した。
「ごめんなさいね。うちの近所にも森口さんて方がいらして、今入院中で、心配で」
石子はわざとらしく演技していた。うるうると目にも涙を浮かべている。何も事情を知らない人が見たら、気の毒なおばあちゃんに見える。理世は心の内ではドン引きしていた。石子は本当はノリノリで事件調査をしてるのだから。
「もしかして森口さんのご主人?」
おそらく石子は当てずっぽうに言ったのだろうが、このコンビニ店員はさっと表情を曇らせた。
「そうさ、全くあの妻のせいで、警察がくるわ……」
コンビニ店員、いや森口の夫はぶつぶつ言いながスイーツを袋詰めした。
「それはお気の毒ね」
石子はさらに演技を続け、泣きそうな表情を作っていた。
「そうさ。俺は事件当日、ここでずっと働いてたよ。ったく、あのくそ刑事。俺の事疑いやがって」
森口の夫は会計が終えると、注文したコンビニコーヒーのカップをぞんざいに理世に手渡した。相当イライラしている様子が伝わってくる。
この森口の夫の言う事が事実なら、彼にはアリバイがあるという事になる。余計なパズルのビースは一つ弾くことができそうだった。
「そう、ありがとう。行きましょう、理世」
「うん」
理世はコンビニコーヒーを注ぎ終えると足早に美素町駅に向かって、改札に入った。まだ次の列車は来るまで10分ぐらいありそうだったので、二人でベンチに座った。田舎の駅だと思ったが、学校帰りの高校生たちで意外と混みあっておいた。
「ねえ、グランマ。森口さんの夫は犯人から除外してもよくない?」
「そうね。コンビニでが監視カメラもあるでしょうし、アリバイは明確ね。それにしても何でコンビニバイトなんてやっていたのかしら。確か森口さんの旦那さんって、フリーランスでコンサルやってるとか聞いた事あるよ」
「たぶん、お金がないんじゃないかな。礼央先生の資料によると、銃価信者はお金がないらしい」
立花の噂話でも、同様にカルト信者の坂下もお金がないようだった。多額の寄付金を必要とするからだろう。
「そうね、だったら森口さんから財布が抜き取られていたのは、何? 物取りの犯行に見せたって事?」
石子は顎を触りながら考え込んでいた。ホームには夕方のオレンジ色の日差しが差し込み、ちょっと眩しい。
「または、ホームレスがお金とったんじゃないかな。森口さんよりお金無いっぽい人はホームレスぐらじゃない?」
「そうね。次はホームレスの事を調べてみましょう。私は香村刑事や華名が犯人だと思うけど、ホームレス犯人説も意外と侮れないかも……」
石子もホームレスを疑い始めたようだ。という事で、次はホームレスを探す事にきまった。といっても二人で探すのは限界がありそうなので、牧師や環奈も協力してもらう事になり、石子は連絡をしていた。今日も牧師の家で夕飯をご馳走になる事になってしまったが、今日はもうこれ以上は動けないだろう。
ちょうど電車もやってきて、麹衣村駅に帰った。麹衣村駅周辺は相変わらずマスコミがウロウロしていてゴミも散乱していた。
「ちょっと、グランマ。あそこ、見て。香村刑事がいるよ」
「本当?」
駅から少し離れた畑の方に香村刑事がいるのが見えた。マスコミと思われる人物と話していた。マスコミの中でも記者だろうか。ローカルテレビで見たことあるような40代ぐらいの男性と話している。
「何、調査中? 一応写真に収めておこうかな」
石子はスマートフォンを取り出し、香村刑事と記者らしき男性の写真を収めていた。
「何で、香村刑事は記者っぽい人と一緒にいるんだろう?」
理世はそれが疑問で、首を傾けた。
「さあ。でも何か事件と関係ありそうね!」
こうして再び石子は写真をとっていた。この距離では少し離れているので、香村刑事は気づいている様子は全くなかった。
「さあ、理世。次は教会よ。さっさと行きましょう」
「グランマ、待ってよ」
石子は早歩きで教会に向かって歩き始めた。今日は美素町を歩き回ったはずなのに、石子は全く疲れた様子を見せなかった。
理世は、このままだと、本当に犯人を捕まえられそうな気がしてきた。
今のところ、調査は順調で容疑者たちのアリバイや動機も掴み始めていた。
少し順調すぎる気もして、理世はちょっと怖くなってきた。




