おばあちゃんと聞き込み編(3)
「絶対犯人は、香村刑事ね。子供がいじめに遭って、復讐したのよ」
ヨガスタジオから出ると、理世の耳元で囁いた。
「そうかな……」
理世はそれには違和感がある。理世もいじめ被害者だったが、親がこまでするとは思えない。どこか恥に思っていそうなふしすらある。確かに華名の息子・秀太くんは写真でみる限りは可愛らしい子供だったが。
「だったら森口さんじゃなくて、いじめっ子の方の復讐するんじゃない? 何で親の森口さんの方を襲うの?」
それがわからない。
「それは一理あるわね」
「でしょー?」
「でも、なんか小腹減ってきちゃった。伊織さんおススメのベーカリー行ってみない?」
確かに理世も空腹をおぼえた。さっき伊織が出したハーブティーが苦く、薬っぽい味だったので、口直ししたい気分もあった。
二人で商店街を歩き、 ベーカリーに向かう。ただボーっと歩くの無駄なので、石子は道を聞くフリをしながら華名の評判なども聞いていた。この美素町も比較的田舎のせいなのか、おばあちゃんと孫という組み合わせに油断しているのか、商店街の住人達は特に怪しんでいなかった。
主婦らしき女性は、華名の名前を聞くと明らかに顔を顰めていた。
「ああ、あのヨガスタジオの人ね。変なグッズを配ったりして、迷惑だわー」
変なグッズとはっきり言っていて、理世は吹き出してしまいそうだった。
「息子さんも、けっこうキツいのよ。小学生にくせにモテるみたいだから、偉そうなんですってよ」
聞いてもないのに、主婦らしき女性はペラペラと話していた。
「そうなの。ありがとう」
話を聞いて別れると、石子はさらに満足そうに頷いた。
「華名さんも、秀太くんって息子も癖があるようね」
「証言した人は、さっきの主婦っぽい女性だけだよ」
「でも、あの様子ではこの美素町では華名さんはあんまり好かれてる様子はないっぽいね」
その後、ベーカリーに行き二人でイートインコーナーでチョコパイやクロワッサンを楽しんだが、石子は調査する事は忘れていなかった。ベーカリーの店主にもさりげなく、華名の評判を聞いていた。
「あぁ、あのヨガスタジオね……。一度音楽がうるさいから文句言いに行ったこともあったけど、旦那が警察官だからって逆に脅された事があったよ。癖が強いよ、あの人」
いかにも温厚そうなパン屋の店主まで華名を悪く言っていた。しかも脅すような事を言われたので、もう何も文句も言えなくなってしまっているという。
「息子さんがいじめられてるって噂よ」
さらに石子は突っ込んだ事を聞いていた。
「たぶん、大袈裟に言ってるんだろ。パパが刑事だからって言ってそうだ」
パン屋の店主の言い分は憶測だが、これが事実だとすれば、いじめというより喧嘩の可能性もあるかもしれない。
「ところであのヨガスタジオは立派だよな。客もいなさそうなのに、お金はどうやってるんだがな。噂では、銃価から資金援助を受けてるとか」
「本当?」
これには石子が身を乗り出して食いついていた。
「いわゆるライト信者ってやつらしい。書店の店長の加賀ちゃんが噂してたぜ」
「ありがとう、パン屋さん!」
石子は笑顔で例を言うと、さっそく商店街にある書店に向かっていた。理世は石子みたいに聞きこみなんてできず、ついて回るだけだったが、初対面の人と会うのも慣れてしまった。緘黙症の症状もあまり出ていない気がした。
そんな事を考えつつ、石子と二人で商店街の書店に向かった。個人経営の小さな書店のようで、店頭のは雑誌が売られているのが見えた。特に児童向けの雑誌や主婦向けの雑誌が多い良いだ。このあたりの客層を反映しているのだろう。そう思うと、この商店街でヨガスタジオを開いている華名は、けっこうなチャレンジャーにも見えてしまった。
中に入ると、メディア化の本や文庫本の新刊が目立つところに並べられていた。中途半端な昼過ぎという時間に行ったせいか、他に客はいなかった。
理世は文庫の新刊をチェックするフリをし、石子はレジにいる店員に声をかけた。50代過ぎぐらいの温厚そうな男性で、黒いエプロンをしていた。おそらくこの店の店長だろう。
「もしもし、ちょっとお尋ねしてもよろしい?」
石子はとても感じの良い笑顔を作り、店長に声をかけた。内面の圧の強さを全く見せていないものだから、演技力はあるのだろう。
「実はうちのあの孫をヨガ習わせたいと思ってるんです。孫はちょっと病気で健康のためにね。華名さんのヨガスタジオってどうなんですね。なにか噂知らないですか?」
華名の名前を聞くと、店長の顔が明らかに曇ったのを理世は見逃さなかった。
「あぁ、あの人ね……。もしかしたらカルト信者かもしれないから、辞めた方が良いかもしれない」
「カルト?」
石子は冷静さを装っていたが、その目はギラギラと光っていた。
「うん。銃価の教祖が書いた本とかを大量注文してきた事あるんだよなぁ。しかもあんな商店街の立地いい場所にヨガスタジオやってるなんて、金の臭いがするな」
温厚そうな店長だったが、ゲスい目を見せていた。人間というか大人は二面性があるのかもしれない。実際、麹衣村の連中は外面とはギャップがある。
「たぶん、華名は銃価のライト信者だろうな。金目当ての信者だよ。俺の知り合いでもライト信者いたが、低金利でお金も借りられたり、マスコミに取り上げてもらって売り上げ上がったろしたらしい」
「へぇ。でもライトだったらお互いウィンウィンでいいんじゃないですか?」
石子は店長とノリを合わせながら、少しゲスい目を見せていた。
「そうでも無いっぽいよ。だんだんとガチ信者から勧誘きつくなったりして、教祖の本買うぐらいでは済まないらしい。最初は入り口を広くして騙してるんだろうね。金や名誉が大事なヤツは騙されるかもねー」
店長の話が本当なら、やライト信者とはいえカルトに関わらない方が良いと理世は思った。ライト信者のことは、礼央の資料にも書いてあyったが、こうして生身の情報を聞くと、怖くなってしまう。
「理世、なんか文庫本買う?」
「うん、グランマ。この歴史小説面白そう」
「歴史小説なんて読むの? 渋いわー」
石子は呆れていたが、理世が選んだ歴史小説を買ってくれた。カルトの話なんて聞くと、そんなもの江戸時代を舞台にした人情ものを読んでみたくなってしまった。石子も料理や編み物の本をレジに持っていき、店長に会計して貰っていた。
「ところで、華名さんの噂は他に知らない?」
会計し終えると、石子はさらに店長に質問していた。少々不自然にも感じたが、こうして本も買ったおかげか店長は何も突っ込んでこなかった。
「そうだな。確かこんな雑誌買ってた」
店長は店頭の雑誌コーナーから、一冊の雑誌を持ってきた。それはオーディション雑誌だった。芸能界を目指すものの為の雑誌にようで、表紙は人気子役の相田美波が写っていた。
「なんでオーディション雑誌?」
石子は思わず首を傾げていた。
「さあ。モデルにもなりたいんじゃないか。ママとセットで売り込む子役のオーディションなんかもあるらしいね。あの人、自己顕示欲強そうじゃん。のし上がる為には、何だってしそうな感じ」
理世は店長の言葉に、深く頷いてしまった。ヨガスタジオの写真やグッズを見る限り、そうとしか思えない。
事件となにか関係あるかはわからないが、華名が銃価のカルト信者というのも間違いでは無さそうだ。おそらくお金の為に信者になったのだろう。権力を持っているカルトなら十分有り得る。
その事で森口と華名はなにか揉めたのだろうか。まだパズルのピースはバラバラだが、必要なピースは揃ってきているようだ。ただ、どうも邪魔なピースも混ざっていそうだ。今は、それを取り除く方が先?
そんな事件の事を考えている理世は、自分の病気の事などすっかり忘れていた。病が気からというのなら、理世の病気は半分ぐらい治っていると言ってもいいのかもしれなかった。




