表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/42

ようこそ、麹衣村編(1)

 よく晴れた春の日、雲井理世は麹村駅に降り立った。無人駅かと思うほど、静かな駅だった。


 コンビニがない。スーパーがない。クリーニング屋もパチンコ屋もカフェもない田舎の駅だった。


 道もコンクリートに整備されていないかと疑うほどだったが、一応駅前ロータリーやそれに続く道は舗装されていた。


 一応、駅の職員に地図を見せながら石子の家を聞いた。


「おぉ、雲井のおばあちゃんのとこのお孫さんかい」


 駅員はそ祖母・石子の名前を聞くと、明らかにニヤニヤしていた。もしかしてこの村で有名人なのだろうか。嫌な予感しかない。特にあの手紙の内容を思い出すと、変人である事はなんとなく察せられた。


「そ、そうですか」


 人見知りというか、緘黙症のある理世は一刻も早く駅から離れたかった。駅員に道を聞いた事をさっそく後悔していた。


「あのおばあちゃんの家は、この森を抜けるのが一番近道なんだが。お嬢さんはやめておこう」

「何でですか?」

「うーん、あっちは銃価っていうカルトの施設もまるからね」

「え」


 カルトというと怖いイメージしかない。


「あと、森の洞窟にクマでるって噂もあるしなぁ」

「えー!?」

「あと、ホームレスもいるっぽいんだよ。まあ、田舎あるあるだな。気にすんな」


 と言われても気にしない方がおかしい。すっかり理世の身体は硬直し、緘黙症の症状がでていた。パッと見、機嫌の悪そうな女子高生にしかみえなものだが、理世の頭の中はパニック寸前だった。


「じゃあ、ありがとうぎございます!」


 理世は荷物であるスーツケースを引っさげ、一目散に駅から逃げた。


 熊? ホームレス? カルト?


 都会で温室育ちの理世は衝撃的だった。


 ずっと駅にいるわけにはいかない。


 さっそく石子の家に向かう事にした。もちろん、恐ろしい近道など使えるわけがない。


 地図通り、駅から北に向かった。地中は坂道もあったが、長閑な田舎道だった。


 前方には山も見え、右手には川も流れている。綺麗な川のようで、おじさんが釣りをしている姿も見えた。


 コンビニやスーパーは相変わらず見えないが、野菜畑が広がり、キャベツや菜の花が植えられているのが見えた。


 カラカラとスーツケースを引っ提げる音だけが響く。吸い込まれそうな蒼い空に、春の暖かい日射し。雲も綿菓子みたいに淡く綺麗。これだけ見ると、ムーミンた谷っぽく見えた。


「そうだ、ちょと休もうかな」


 少し緘黙症のパニック症状が落ち着いてきた理世は、カバンからスケッチブックと鉛筆を取り出し、長閑な麹衣村の田舎をサラッと描いてみた。


 理世は絵が描くのが好きだった。美術の成績だけはやたらといい。都内のコンクールのも入賞した事もある。


 他にこれといって取り柄のない理世にとって唯一の特技だった。成績は良かったので、両親にはあんまり絵を褒められた事はなかったが。


「えー!? めっちゃ絵が上手くない?」


 そこに女子高生らしき人物に声をかけられた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ