ようこそ、麹衣村編(1)
よく晴れた春の日、雲井理世は麹村駅に降り立った。無人駅かと思うほど、静かな駅だった。
コンビニがない。スーパーがない。クリーニング屋もパチンコ屋もカフェもない田舎の駅だった。
道もコンクリートに整備されていないかと疑うほどだったが、一応駅前ロータリーやそれに続く道は舗装されていた。
一応、駅の職員に地図を見せながら石子の家を聞いた。
「おぉ、雲井のおばあちゃんのとこのお孫さんかい」
駅員はそ祖母・石子の名前を聞くと、明らかにニヤニヤしていた。もしかしてこの村で有名人なのだろうか。嫌な予感しかない。特にあの手紙の内容を思い出すと、変人である事はなんとなく察せられた。
「そ、そうですか」
人見知りというか、緘黙症のある理世は一刻も早く駅から離れたかった。駅員に道を聞いた事をさっそく後悔していた。
「あのおばあちゃんの家は、この森を抜けるのが一番近道なんだが。お嬢さんはやめておこう」
「何でですか?」
「うーん、あっちは銃価っていうカルトの施設もまるからね」
「え」
カルトというと怖いイメージしかない。
「あと、森の洞窟にクマでるって噂もあるしなぁ」
「えー!?」
「あと、ホームレスもいるっぽいんだよ。まあ、田舎あるあるだな。気にすんな」
と言われても気にしない方がおかしい。すっかり理世の身体は硬直し、緘黙症の症状がでていた。パッと見、機嫌の悪そうな女子高生にしかみえなものだが、理世の頭の中はパニック寸前だった。
「じゃあ、ありがとうぎございます!」
理世は荷物であるスーツケースを引っさげ、一目散に駅から逃げた。
熊? ホームレス? カルト?
都会で温室育ちの理世は衝撃的だった。
ずっと駅にいるわけにはいかない。
さっそく石子の家に向かう事にした。もちろん、恐ろしい近道など使えるわけがない。
地図通り、駅から北に向かった。地中は坂道もあったが、長閑な田舎道だった。
前方には山も見え、右手には川も流れている。綺麗な川のようで、おじさんが釣りをしている姿も見えた。
コンビニやスーパーは相変わらず見えないが、野菜畑が広がり、キャベツや菜の花が植えられているのが見えた。
カラカラとスーツケースを引っ提げる音だけが響く。吸い込まれそうな蒼い空に、春の暖かい日射し。雲も綿菓子みたいに淡く綺麗。これだけ見ると、ムーミンた谷っぽく見えた。
「そうだ、ちょと休もうかな」
少し緘黙症のパニック症状が落ち着いてきた理世は、カバンからスケッチブックと鉛筆を取り出し、長閑な麹衣村の田舎をサラッと描いてみた。
理世は絵が描くのが好きだった。美術の成績だけはやたらといい。都内のコンクールのも入賞した事もある。
他にこれといって取り柄のない理世にとって唯一の特技だった。成績は良かったので、両親にはあんまり絵を褒められた事はなかったが。
「えー!? めっちゃ絵が上手くない?」
そこに女子高生らしき人物に声をかけられた。