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おばあちゃんは名探偵!〜お隣さんは謎だらけ〜  作者: 地野千塩


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捜査開始編(4)

 理世が掃除を終えると、リビングのテーブルの上には朝食がすでに出来上がっていた。


 今日の朝ごはんは、いかにも日本の朝食と言えるものだった。玄米ご飯、焼き鮭、きゅうりや大根の漬物、菜の花の味噌汁。皿や茶碗は、キティちゃんやドラえもんの柄がついていりので、ちょっと間抜けな雰囲気は否めないが、味噌汁の良い匂いに、日本人の遺伝子がキャッキャと大喜びしている。


 ちなみに立花さんから貰った卵は、今日は冷蔵庫にしまった。石子によると、後で料理に使うという。


「さあ、食前のお祈りして朝ごはんをいただきましょう」


 今日の石子は長々と祈っていた。ご飯の感謝だけでなく、事件が早期解決するよう祈っていた。真摯に祈っている姿を見ると、やっぱり好奇心だけで事件を解決したいと暴走しているわけでは無さそうだった。理世はもう石子には好きにさせ、出来る事なら協力しても良いと思い始めていた。なぜか緘黙症の症状も、そんな酷くは出ていなかったし。


「グランマ、さっき立花さんから面白い話を聞いたんだけど」

「何? 早く教えて」


 石子は腰に巻いたエプロンのポケットから、小さなメモ帳やボールペンを取り出していた。


「……という事で森口さんは、刑事さんに証言出来る状況では無いみたい」

「そっか、なるほどね。やっぱり私達で犯人を見つけた方が良いかもしれない」


 石子はメモを書き終えると、今日の計画を発表した。今日は隣町にある華名の職場であるヨガスタジオを見学しつつ、様子を探ろうという。


「さっそくネットから予約しちゃったわ」

「怪しまれなかった?」

「孫と見学したいって言ったら一発よ。やっぱりおばあちゃんと孫の組み合わせで、何か怪しむ人はいないわ」

「やっぱりね」


 理世は菜の花の味噌汁をすすった。出汁がきき、美味しい味噌汁だった。この味噌汁を飲んで文句をつける日本人はいないだろう。焼き魚も漬け物も美味しく、食べているだけで元気が出そうだった。


 そう言えば都会で暮らしていた時は、こんな朝ごはんを食べる事はあまりなかった。両親は仕事で忙しいし、朝ごはんは菓子パンやカップスープが多かった。心の不調と食べ物も少し関係がある気もしてきた。香村刑事は以外は緘黙症の症状は激しく出ていない。礼央も苦手なタイプだったが、昨日も一緒に夕ご飯を食べて大騒ぎしながら推理している中で、慣れてしまった部分もあった。


 そんな事を考えていたら、礼央がこの家にやってきた。しかも今日は、妻の美幸も一緒だった。少々派手な花柄の服をきた美幸は、予想通り石子と仲がいいようだった。礼央は通勤前なのか、スーツ姿だったが、ちょっとソワソワと落ち着かん様子だった。


「二人ともいらっしゃい! 朝ご飯食べていく?」


 石子が誘うと、二人ともちょっと遠慮していたが、味噌汁の匂いに負けたらしい。結局四人でリングのちゃぶ台を囲んだ。


「この味噌汁美味しいわ」


 確か美幸も陰謀論者として断食していたはずだが、味噌汁を啜ると感無量な顔をしていた。


「うん、もうしばらく断食はやめようと思う。我慢できなくて菓子パン食べてしまう事もあったし。石子さんの味噌汁美味しいです」


 美幸は石子の味噌汁にちょっと涙目になって感動していた。この様子では、礼央との仲も普通に元に戻りそうで、理世は少しホッとしていた。そう言えば美幸とも初対面だったが、あまり緊張もせず緘黙症の症状も出てこなかった。味噌汁のいい匂いで、神経も少しリラックスできている感じもした。


「本当、石子さんのご飯美味しいです。美幸、もう断食なんて無理すんなよ」


 礼央はガツガツと玄米を食べ、満足そうだった。礼央は玄米をおかわりすていて、お釜の中はついに空になってしまった。米だけでなく鮭も漬け物もほとんど空になってしまったが。


「とこで礼央くん、朝から何しに来たの? 何か森口さんの事で良い知らせがあるんじゃない?」


 石子は食後の緑茶を注ぎ、皆に湯呑みを配った。


「そうそう。忘れてたぜ」


 礼央は通勤用のカバンから、どっさりと資料を出して渡してくれた。


「昨日、美幸と一緒に銃価について調べてみたんだよ。その纏めた資料だ」

「昨日、陰謀論人脈を駆使して調べまくったわ。何かの参考になればいいと思ってね」

「あらあら!」


 礼央と美幸から資料を受け取ると、目がキラキラと輝いていた。


「ホームレスについては、私も調べてみようと思ったんだけど、警察が森の中を彷徨いていて出来なっかったんです」

「そんな、気を使わなくていいのよ、美幸さん。それにしてもこの資料、嬉しいわ。ありがとう!」


 石子が感激して喜ぶと、礼央も美幸も戸惑っていた。


「礼央さんも美幸さんもどうしたの?」


 理世は二人の様子に首を傾ける。


「いや、俺たち陰謀論好きは世間からメチャクチャ叩かれてるからさ」

「石子さんにこんなに喜んで貰っているとは思えなくて。石子さんは世間の人と違って優しいわ」


 美幸に至ってはちょっと泣きそうだった。


「まあ、デマみたいな陰謀論は良くないけど、ワクチンだって人命が関わるから必死に反対しているんでしょ? 善意で必死に動いている人達を私は批判出来ない」


 真っ直ぐな目で語る石子に、礼央も美幸も泣きそうだった。


 この様子を見ながら、やっぱり石子は根は優しく正義感が強い人間だと思わされた。礼央や美幸も一方的に陰謀論者として見下げていた自分も理世はちょっと恥ずかしくもなってくる。


 物事は一面だけでは無いのでかもしれない。鬼頭だって顔は怖いし、坂下とトラブっているのは疑問だが、根から悪い人では無い。


 大人はなかなか複雑そうだ。


 でも、全部が全部悪いわけでは無い事をだんだんと理解し始めていた。


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