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おばあちゃんは名探偵!〜お隣さんは謎だらけ〜  作者: 地野千塩


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捜査開始編(3)

 次の日、昨日と違って曇り空だった。


 自室のカーテンを開けると、隣の鬼頭の家も見えたが、変化は何もないようだった。鬼頭の隣にある坂下の家の方も見てみたが、とりあえず今日は平和そうだった。


 昨日はあんな事があり、眠りが浅かったようだ。今日は朝早く起きてしまった。


 とりあえずパジャマからジーナとシャツに着替え、顔を洗いに一階の洗面所に向かった。


 顔を洗ってスッキリしたが、肩まで伸びた黒髪は寝癖がついていた。水ではなかなか寝癖が直らない。昨日、石子から特製の寝癖直しをもらった事を思い出した。


「グランマ、どこ?」


 一階のリビングやキッチン、トイレ、和室にはいなかった。だとしたら、一階の石子の部屋にいるのだろう。この部屋は石子がタバコを吸う部屋でもあり、理世は近づきたくなかった。それでもあの特製の寝癖直しには必要だ。理世は石子の部屋の戸をノックしようとした。


 戸は半開きで石子の姿が見えたが、ノックをするのを躊躇してしまった。


 石子はタバコを吸いながら、部屋の戸棚に飾ってある写真立てを見つめていた。写真立ては、祖父・泰三の顔写真が飾られていた。確か数年前、脳の病気で亡くなった。石子はクリスチャンなのでこの家には仏壇はなかった。おそらくこの写真立てを見ることで故人を偲んでいるのだろう。


「あぁ、泰三さん。困ったわ。村で事件が起きちゃったわぁ。可愛い孫も来てるのに。せっかく料理をしたり、ゴスペルを孫に披露しようと練習してたのに。この様子だとあの子の歓迎会も中止かしら」


 石子はそう言うと、大きくため息をついた。


「何としても犯人を見つけないと。あの刑事は信用ならないし。この村の平和を奪うものは、絶対捕まえてやるんだから。孫や子供達がもし傷つけられたとしたら、いてもたってもいられない」


 元々小柄な石子だったが、余計に今日は小さな姿に見えてしまい、ちょっと切なくなってしまった。タバコの臭いはキツかったが、石子も完璧に強い人間でが無いのだろうとも思った。


 理世は、洗面所に逃げ帰り、髪の毛を一つに結んで寝癖を誤魔化した。


「グランマは、ただのうるさい人ではないのかも」


 泰三の写真を見ながら呟いていた石子は、少し寂しげだった。それに自分の事を可愛い孫と思っているのも意外だった。


 理世は石子を誤解していたのかもしれない。森口を襲った犯人を見つけたいのも、もっと純粋な動機があったのかもしれない。


 そう思うと、石子に協力して森口を襲った犯人を見つけ出すのも悪くない気がしてきた。


 おばあちゃんと孫という組み合わせでは、警察や探偵では漏らさない情報を語るものもいるかもしれない。石子と理世の二人を見て、警戒するものは少ないかもしれない。


 香村刑事も、あの外家ではとてもキレ者には見えなかった。もし事件に関わっていたら、何か隠蔽していてもおかしくはない。まあ、香村刑事や華名が犯人には思えないが、可能性はゼロではない。


「とりあえず、家の前を掃除してみよう」


 寝癖を誤魔化した理世は、昨日と同じように家の前を掃除する事にした。もしかしたら鬼頭、坂下、華名などから情報がゲットできるかもしれない。


 その作戦は、全く的外れではなかったようだ。


 玄関の前を掃除していると、立花がカゴに入った卵を持ってきた。少々猫背で、昨日と同じ割烹着姿だったが、なぜか目がルンルンと輝いていた。


「あら、理世ちゃん。おはよう。これ卵ね」

「おはようございます。ありがとうございます」


 ここで立花の家の方から鶏がなく声が響いた。


「いやね、鶏の鳴き声がうるさくて」

「いいえ、美味しい卵が貰えるなら気にしませんよ」

「あはは、ちゃっかりした現代っ子ねぇ」


 立花は、おばちゃんっぽく理世の肩をバシバシと叩いていた。こんな気さくな立花なので、緘黙症の症状はあんまり出てこないが、少し緊張しながら聞いた。


「ところで、この鶏の声で鬼頭さんや坂下さんからクレームきたりしませんか?」

「鬼頭さんは最初は文句言ってきたわね。でもあの人、お菓子作りが好きみたいで毎日のように卵持っていったら、何も言わなくなったわ。逆にこっちに手作りプリンとかロールケーキ、ホットケーキなんてくれるの。あの人、顔は怖いけど、中身はいい人だよ」


 立花は鬼頭が作ったお菓子を思い出したのか、ちぃっとうっとりした目で語っていた。こうして聞くと、鬼頭はやっぱり悪い人ではなさそうだった。今のところは、鬼頭は森口を襲った犯人から除外しても良さそうだった。


「坂下さんや華名さんからは、クレームこないんですか?」

「華名さんちは、私の家からちょっと離れてるからね。最近越してきた人みたいで、実はあんまりよく知らないの」

「へぇ」

「見た目は筋肉モリモリですごいわよねー。あ、坂下さんはクレーム来ないわ」

「意外」


 あの人が一番クレームをつけそうなタイプに見えたが。実際、鬼頭さんともやり合っている。


「実はあの人の弱味を握ってね」

「え!? 弱味???」


 立花はすきっ歯を見せながら、ニヤニヤと笑っていた。


「ええ。知り合いの知り合いの情報だけど、都内で住んでいた時、ドラッグストアで万引きやったみたい。その事をちょーっとチラつかせたら、黙ったわ」


 大人しそうな立花だったが、 本当に生き生きと楽しそうな目をしていた。この人は敵に回したら恐ろしいタイプだ。情報通らしい。


「坂下さんも銃価カルトの信者。お布施でお金に困っていたみたい。あそこのカルトの信者はみんなお金に困ってるらしいわ。お布施がいい値段みたいよ。そうしないと救われないと脅しているみたいだしね」


 その事は事件と関係あるだろうか。まだ確定ではないが、森口の財布が盗まれている件も何か関係ある気がした。


「ふふ、森口さんの件も聞いたわ。まあ、私は森口さんの情報はあんまり調べてないけどね」

「そんな、残念」


 ガッカリしてしまったが、この立花を敵には回してはいけないと思う。


「あとこれは、石子さん以外に言ってはダメよ?」


 立花は、理世の耳元でボソッと呟いた。


「知り合いの知り合いが隣町で看護師をやってるんだけど、森口さんは病室で大暴れしてとても事情を刑事に話せる状況じゃ無いらしいわ」

「えー? そ、そんな事を言っていいんですか!? 秘守義務とか……」

「はは、この辺りは田舎だからね。秘密なんてあって無いようなものよ」


 再び立花は笑っていた。


「理世ちゃんも無駄に秘密は持たない方がいいわよー?」

「怖いですって、立花さん!」


 軽く脅されてしまった。


 立花は絶対に敵に回したらダメだ。理世は心の中で深く思った。


 再び立花の家の方から鶏が鳴いていたが、さっきより恐ろしい鳴き声に聞こえてしまった。


 田舎暮らしは、まだまだ理世が知らない世界が広がっているようだった。


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