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おばあちゃんは名探偵!〜お隣さんは謎だらけ〜  作者: 地野千塩


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捜査開始編(2)

 ほのぼのの温かみのあるリビングだったが、なぜかホワイトボードが設置され、一同そこの集中して視線を向けていた。


 このホワイトボードは、この牧師館で使われていたものらしい。昔は聖書勉強に熱心な信徒も多かったので、これを利用して講座も開いていたらしい。石子がホワイトボードが必要よと騒いだので、牧師が組み立て持ってきた。その表情はちょっと笑顔だった。呆れてはいるようだったが、こんな暴走している石子は珍しくないのかもしてない。


 さっそく石子はホワイトボードに「森口さん殺人未遂事件」と書いたいた。


「石子おばあちゃん、これって殺人未遂事件なの?」


 環奈が冷静に突っ込むと、「刑事が来てるんだから、そうに決まってる」と自論を述べた。確かにあの森口が倒れていた状況は、病気や怪我、熊に襲われたとは考えにくかったが。


「まず容疑者を割り出そうじゃない。まず一番怪しいのはホームレスね」


 石子はニヤニヤと笑いながら、容疑者リストをホワイトボードに書いていった。


 〜容疑者リスト〜


 ・ホームレス(謎の人物。若い男? 動機はお金や食べ物?)


 ・森口の夫(別居状態。動機はある)

 ・坂下(森口と同じカルト信者)

 ・鬼頭(その坂下とトラブル?)

 ・香村刑事(とにかく胡散臭い)

 ・香村華名(刑事の妻)


「ちょっと、グランマ? 刑事さんや華名さんも疑ってるの?」


 理世はそれが意外で、思わず声を上げるしまう。家族以外の牧師親子や礼央といるわけだが、なぜか全く緘黙症の症状が出なかった。このリビングが温かみがあり、居心地のいい空間だからかもしれない。


「そうよ、あの刑事は私のことを疑いの目で見てきたんですからね。きっと何か隠してるわよ」


 石子はぷんぷん怒りながら、ホワイトボードに香村と思われるイラストを描いていた。案外うまい。石子は多彩なようだったが、それを見ていたら理世も絵を描きたくなってしまった。容疑者リストの横にそれぞれの似顔絵を描いてみた。


「理世ちゃん、超絵がうまいじゃん! ウチとお父さん、それと礼央先生の似顔絵も描いて!」


 環奈にリクエストされ、ホワイトボードにここのメンバーの絵も描いてしまった。みんなから絵が上手だと褒められてしまった。


「さすが私の孫よ。素晴らしい才能じゃない」


 石子にも大袈裟に褒められてしまった。都会でいじめられていた身としては、嬉しくなってしまうが、恥ずかしい。


「ちょっと、皆さん。脱線してますよ。森口さんを襲った犯人は誰なんです?」


 牧師は台所の方からケーキを持ってきて、切り分けた後、そう言った。環奈が言っていたて手作りのケーキのようだ。さっきブルーベリーマフィンを食べたくせに、チョコレートとクリームの甘い香りの負け、みんなでケーキを食べていた。


 話題は殺人未遂(?)事件なのに、美味しいケーキのおかげですっかりリラックスした雰囲気になっていた。この様子の今は理世は自分の病気についてすっかり忘れていた。話はいろいろと脱線しかけていたが、このリビングは笑いが絶えない雰囲気だった。


「牧師さんは犯人誰だと思う?」


 石子はホワイトボードをペンでつつきながら、言う。脱線しかけているこの場にちょっとイライラしているようだった。


「僕はやっぱホームレスが犯人だと思いますよ。森口さんは見た目も派手だし、お金を持っていそうだと思われたんでしょう」

「そういえば牧師さんの言う通りね。あの刑事の話では、森口さんの財布の中身が消えていたらしいわ」

「ちょっと、グランマ。大事な情報見落としてない? 他に刑事さんは何て言ってたの?」


 暴走中の石子の理世は、冷静にツッコミをいれた。理世は再びホワイトボードのペンをってこう書き始めた。


 わかっている事

 ・森口さんの財布が行方不明


「石子おばあちゃん、他に香村刑事はなんて言ってたの? 森口さんが襲われた時間は?」


 環奈も冷静にツッコミを入れ、石子は渋々香村刑事が言ってた事を説明した。おそらく犯行時間は夜中から早朝。今のところ、第一発見者の石子と理世意外の目撃情報はなく、調査中だという。


 理世はわかった情報をホワイトボードにかいた。すっかりホワイトボードは真っ黒になってしまった。


「財布が盗まれていたというなら、ホームレスでしょう。間違いないね。他にアリバイがない容疑者が怪しいが。環奈はどう思う?」


 牧師に促され、環奈も意見を言っていた。


「うーん。普通に考えて夫じゃない? 別居中だったら、何か揉めてるでしょう?」

「でもさ、だったら家で殴れば良くない? わざわざ森で襲う理由ってある? 家の方が密室だし」


 今まで黙っていた礼央が口を挟む。確かに環奈の推理は一つ欠点があった。


「だったら鬼頭さんだよ。顔怖いし。さっきブルーベリーマフィン持ってきたのって怪しくない?」

「顔で判断しちゃダメだって」


 牧師は環奈の推理につっこんだ。環奈は少し天然というかバカっぽいところあるらしい。確かにブルーベリーマフィンを持ってきたのは、怪しいが、それだけでは証拠が弱い。


「だったらカルトの揉め事だろう。あのカルトは評判悪いんだ。猫を変な儀式で殺しているとか、集団でストーキングしているとか、陰謀論の中では有名だよ。俺はカルト中で何らかのトラブルがあったと見るね。うちはあの銃価の会館も近いが、揉める声はよく聞こえてくるね。犯人、または動機にカルトの坂下が関わっておる可能性はある」


 礼央の推理は環奈と違い、一応筋が通っていて思わず石子も拍手していた。


「でも森口さんは生きてるでしょ。意識が戻って証言を待つのが一番いいと思う」


 理世はごくごくマトモな事を言ったつもりだが、礼央と石子に睨まれた。


「カルトが関わっていたら、内部で握り潰す可能性があるさ。実は銃価は警察内部にもかなり入り込んでいるらしい。銃価が持っている幸福引き寄せ党の議員の性犯罪が揉みきされたっていうのも陰謀論界隈では有名だぜ」

「そうよ、森口さんが正しい証言をするとは限らないわ! 礼央くんの下らない陰謀論もたまには役に立つわね!」


 礼央は褒められて嬉しいのか自自身の頭をかいていた。この人もちょっと変人っぽいが、妻の美幸とともに銃価について調べると言っていた。今朝、美幸があんパンを食べていた事は礼央には言わない方がいいだろうと思った。どうもこの容疑者リストを見ていると、大人には秘密がいっぱいあるようだ。


「そんな石子さんは、やっぱり香村刑事や華名さんを疑っているんですか?」


 ギャーギャー騒ぐ石子に牧師は呆れ、ケーキを食べながら言った。


「ええ。あの刑事はこの私を疑ってきたんですもの。何か隠してるわ。同時に奥さんの華名だって何か知ってそう。あれだけ筋肉があれば、森口を殴るのも楽でしょうし」

「根拠弱くない?」


 理世も呆れてツッコミを入れたが、石子は香村刑事とその妻・華名の犯行だと疑っていた。


「動機もなくない?」


 環奈もツッコミを入れたが、石子は意見を変えなかった。


「おばあちゃんの勘がそう言ってるのよ。伊達に長生きしているわけじゃないわ。あの刑事は何か隠しているわ。早速明日は華名さんの職場に行ってみようと思うの。何よりあの刑事より先に犯人を捕まえてしまいたいわ!」


 やっぱり暴走する石子が止められそうにないようだった。


 礼央からは英語や数学の宿題をいっぱい出されたが、この石子の暴走に巻き込まれ、ろくに勉強など出来ない予感がしていた。


 田舎暮らし2日目。


 長い1日だった。さっそく事件に巻き込まれてしまった。


 寝る前に日記を書いたが、5ページぐらい費やしてしまったが、不安が胸に残る。石子は妙に楽しそうの探偵の真似事を始めたが、あのエネルギーは一体どこからくるのだろうか。


 本当に自分と血が繋がっているのだろうか。理世はメンタルの弱さから倒れるし、吐いてもいたので、あの傍若無人っぷりは少し羨ましくもあった。


 同時に石子と一緒にいれば、緘黙症という病気も少しよくなるというか、病識も忘れられそうだった。


 村で事件が起こってしまった事には不安もあったが、少しワクワクしている自分もいた。

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