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おばあちゃんは名探偵!〜お隣さんは謎だらけ〜  作者: 地野千塩


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捜査開始編(1)

「全くあの刑事は、最低よ。私を犯人扱いして疑ってきたんだから」


 石子はそう言って、バターロールを引きちぎった。


 ここは教会の礼拝堂にある牧師館という場所だった。一見普通の民家で、牧師と娘の環奈の住居でもあるらしい。二階建てでかなり古い家だったが、中は綺麗に掃除され居心地のいい空間だった。特にリビングは、シンプルな家具でまとめられ、大きなテーブルもあり、食事もできる。


 あの後、石子と理世はここで夕飯をご馳走になる事になった。香村刑事は仕事があると、小走りに帰って行った。


 リビングの上には、オリーブのサラダ、鶏肉と白菜のクリームシチュー、そしてバターロールがあった。どれも見た目も鮮やかで、さっき吐いていた理世も思わず唾を飲み込む。特にオリーブのサラダはハーブも使っていて、オシャレなレストランやカフェで出して来ても違和感がない出来だった。


 石子、理世、環奈、そして牧師もこのテーブルを囲んで夕飯を食べていた。もう窓の外は真っ暗だった。田舎らしく街頭も少ないので、都会と比べたらやっぱり暗く感じてしまったが、このテーブルの上は暖かく、和やかな雰囲気に満ちていた。今日あった酷い事は全部忘れそうになってしまうが、石子はプリプリと怒りながら香村刑事の悪口を言っていた。


「落ち着きましょうよ、石子さーん。今日の夕飯は頑張って環奈と二人で作ったんですから」


 牧師は呆れつつ、石子を宥めておいた。


「それにしてもパンもサタダも、シチューもおうしいです。どこかで料理の勉強したんですか?」


 香村刑事が帰ったらおかげか、理世の緘黙症に症状も全く出ていなかった。美味しい料理のおかげで緊張も解けていたのだろう。ごくごく普通に牧師に話していた。


「うん、妻が亡くなってから、料理の支度をしなくちゃいけないからね。石子さんや立花さんに教えてもらったんだ」


 牧師は料理を褒められて恥ずかしいのか、自身のグレイヘアを撫でながら話していた。


「私も最近、料理頑張ってやってるよ。石子おばあちゃんにも味噌汁やパンの焼き方教えてもらったから。このパンは私がホームベーカリーで焼いたんだからね」


 環奈はここぞとばかりにドヤ顔していた。牧師親子がこうして話題を変えてしまったので、石子は森口の事件の話が出来ず、ちょっと不満そうだった。


 おそらく牧師親子は理世に気を使っているのだろう。倒れ、トイレで吐いた理世を見て事件の話題はタブーだと判断したようだった。


「それにしても理世ちゃんの歓迎パーティー中止になったの残念。でもケーキは焼いてあるから。理世ちゃん、食後に食べようね」

「環奈ちゃん、ケーキって?」

「ウチが焼いたの。村に新しく友達できるなんてうれしすぎるよー!」


 その言葉を聞いてちょっと涙が出そうだ。いじめられて都会かた追い出されたようなものの理世からしたら、環奈の優しさも美味しい料理も心に染みてしまう。


 石子はちょっと不満そうだったが、この夕食の時間は暖かく、あっという間に過ぎてしまった。テーブルの上の料理もほとんど空だった。


 ちょうどその時、チャイムが鳴り牧師が応対しに行った。片手には、白い箱を持って戻ってきた。


「牧師さん、その白い箱何?」


 牧師がテーブルの中央に白い箱を置いた。石子は目ざとくそう言うと、牧師はちょっと困ったような表情を見せた。


「なんか鬼頭さんだった。何でも坂下さんと今朝からバトルしちゃってお騒がせしましたって。中身はお菓子らしいよ」

「え? 鬼頭さん? なんか違和感があるわね。森口さんの事の噂は耳に入ってないのかしら」


 石子は顔をしかめて首を傾げていたが、箱の中に入っていたブルーベリーマフィンはとても美味しそうだった。表面はこんがりと焼け、バターのいい香りが広がっていた。手のひらサイズでそんなに大きくはないが、見た目もかわいらしかった。


 一同、「何で鬼頭さんが?」と疑問だったが、このブルーベリーマフィンはとても美味しかったので、深く追求する空気が無くなってしまった。砂糖とバター、小麦の力が恐ろしくなってきてしまう。


 昨日もレアチーズケーキを贈ってくれたっけ。見た目は怖いし、坂下と何かとトラブルがあるようだったが、根から悪い人ではなさそうだった。ただ、このタイミングで来るのは森口の件と何か関係あるのか理世は気になってはくる。石子も含めて他の面子は砂糖とバターと小麦粉の力に何も考えていなさそうだったが。


 そんな時、またチャイムがなった。牧師が対応に行くと、今度は新たに客を連れて帰ってきた。今朝会った高校教師の礼央だった。


「聞きましたよ、牧師さん。森口さんが怪我したっていう噂で!」


 そう言った礼央は、ナチュラルにこのリビングのテーブルについてしまった。


「礼央先生は奥さんが料理作ってくれないから、ウチにタカリにきただけでしょ」


 環奈は呆れながら、礼央の文のシチューとバターロールを出してやっていた。オリーブのサラダは意外と好評で全部食べてしまっていた。この様子を見ると、礼央は村の知り合いの家でご飯をよく食べに来ているようだった。一見スーツを着た立派そうな大人だったが、どうも情け無い人に見えてしまった。


「森口さんを襲った犯人って誰だろうね?」


 礼央がそう言ったのを皮切りに、石子の目がキラリと光った。


「そうよ。問題は森口さんを襲った犯人よ。香村刑事が捕まえる前に、私が犯人を捕まえてやるわ!」


 今まで少し大人しかった石子だったが、腕まくりをして立ち上がった。


「誰が犯人かみんなで推理しましょうよ!」


 もうこの暴走し出した石子を誰も止められそうになかった。牧師親子はドン引きしていたが、礼央は面白そうに笑っている。当然、メンタルがお豆腐な理世もこの石子を止められそうになかった。


「捕まえるわよ、犯人を!」

「それはいいですけど、石子さん。その前に禁煙してくださいよ」


 牧師は冷静につっこんででいたが、石子は丸っと無視していた。


「よぉーし。俺も犯人を見つけるぞ。陰謀論者の名にかけて!」

「そうよ、礼央ちゃん!」


 石子と礼央は腕を組んでノリノリだった。さすがの理世も変人二人に引く事しかできなかった。


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