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おばあちゃんは名探偵!〜お隣さんは謎だらけ〜  作者: 地野千塩


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暴行事件編(6)

 森の中に入ると、木々のざわめきと鳥の声も聞こえた。もうすぐ昼間なので案外暗くはないが、夕方や夜に行ったらさすがに怖いだろう。


 森といっても近道と利用されているようで、細い道ができていた。そばに民家もいくつかあるようで、思ったより怖くはなかったが。


 理世は石子の隣を歩きながら、チラリと森から見える民家の庭をみた。


 主婦らしき女性が、庭であんぱんを食べていた。


「あら! あの人、礼央さんの奥さんじゃない。確か断食してるって話だったのに、何であんぱん食べてるの?」


 石子は女性をこっそりみながら、ちょっと興奮したようにカバンからオペラグラスを取り出して、よく見ていた。


「ちょ、グランマ? 何でオペラグラスなんて持ってるの?」

「これが去年演劇に行った時に買ったんだけど、ご近所さんの事を観察するのに便利ねー」

「えー、観察!?」


 理世はドン引きだった。まるでストーカーではないか。


「たまにだけよ。前にカルト信者でもある坂下さんや森口さんに勧誘された事もあったからね。彼女たちが近づいてくる前に、こうしてちょっと見てたわけ」


 事情はわかったが、その割には石子は楽しそうにオペラグラスで礼央の家の様子をみていた。肉眼の理世にはよく見えないが、礼央の妻は確かに癖が強そうな女性だった。真っ赤なシャツにハープパンツ姿、化粧も濃いめだ。礼央の話では、ハイパー陰謀論者で断食していると言っていたが、単純に奥さんの尻に敷かれているような気がした。


 確か名前は美幸という名前だった。ガッツリととあんぱんを齧りつく姿は、とても強そうだ。石子とも気が合いそうだが、あまり接触はないという。


「それにしても陰謀論者として断食しているっていうのに、あんぱん食べているなんて」


 理世は呆れてしまう。


「そんなもんよ、人間って。ご近所さんには、何らかの秘密があるわ。謎とも言えるわね」


 さらに石子はワクワクした表情を見せる。その瞳は野生動物のようにキラキラしていた。顔は皺だらけなのに。全くボケる様子もなく、足腰もしっかりしている。


「グランマにも秘密があるの?」

「あるかもねー?」


 石子はイタズラ好きの子供のような表情を見せた。


「さ、森口さんを探すわよ!」

「ちょと待ってよ、グランマ」


 早歩きで前を歩く石子に追いつくだけで、理世は大変だった。


 しばらく歩いてみたが、森口らしき人やホームレスの姿は見えない。ホームレスが住んでいるという洞窟はこの森の奥の方にあるらしい。


「理世、洞窟の方に行ってみる?」

「え!?」

「いいじゃない、行きましょう


 もう一度火がついた石子を止める事はできないようだった。どんどん深い森の中に進んでいく。近道からもそれてしまったので、民家も全く見えなくなってしまった。


 木々の緑も濃くなってきたような気がし、頭上ではカラスか何かの鳴き声が響く。そういえば昨日、駅員が熊が出るとか言っていたような……。


「グランマ、この森ってクマでる?」


 理世の声はプルプルと震えていた。昼間なのに、太陽も出ているのに、怖さで唇が震えてまう。一方、石子は相変わらず元気そうだった。それどころか目が黒々と野生味も帯びていた。


「そうね、冬にクマが出るって噂があるね」

「いやあ」


 思わず小さな悲鳴のような声が漏れてしまった。


「情け無いわね。これだから、現代っ子は。森に入ったぐらいで、この怯えよう」


 石子は呆れたように肩をすくめていた。


「でも、いい機会じゃない。これで理世にも免疫がつくかもしれない」

「グ、グランマは怖くないの?」

「全く怖くないわ。伊達に長生きしたわけじゃないからね?」


 それにしても肝が据わりすぎている。石子の辞書の中には「臆病」という単語は入っていないようだった。


 こうして理世は腰を抜かしながらも石子の後をついていった。


 せせらぎの音もし、森の中には小川でもありそうだった。


「そういえばこの森、川があったわね。そこで魚釣りすれば、ホームレスでも生きられるんじゃない?」

「えぇ、無理だよぉ」

「私だったら出来るわ」


 森でホームレス生活をしている石子の姿もありありと想像できてしまうから怖い。


「あっちに洞窟が見えてきたよ。そこにホームレスいる? オペラグラスでみてくれる?」

「あら、理世は本当に怖がってるわね」


 前方に洞窟も見えてきたが、直視する勇気はない。


 石子にオペラグラスで見てもらう事にした。


「あれ? 洞窟には、誰もいないわ」

「本当?」

「あれ?でも洞窟の前で誰か倒れているような。行かなきゃ!」


 石子はオペラグラス片手に走り始めた。


「ちょっと待ってよ、グランマ」


 理世はダッシュする石子の背中を追いかけた。森野中の木々はさらに深まり、川のせせらぎの音みうるさいほど耳に響いていた。


「あ!」


 洞窟に前につく寸前、石子は急に立ち止まり、理世もコケそうになってしまった。


「ちょっと、グランマ。急に止まらないで」


 息を整えながら、顔を見上げる。


「大変よ、理世!」

「え?」


 石子が叫んでいる理由がすぐわかった。洞窟の前には、金髪のおばさんが血を流して倒れていた。さっき銃価の掲示板の広報の中のあの写真を思い出す。この女性は森口だった。顔は真っ青で人形のように身体が固まっていた。


「ま、まさか死んでるの?」


 初めて見る死体だった。


 理世の脳内はパンクした。これ以上何も考えられなかった。


「そんな、なんで」

「落ち着きなさい、理世」


 石子は待った動揺せず、森口の身体を調べていたが、理世の膝は砕けてしまったようだ。いても立ってもいられず、意識も手放していた。


 消えかける意識の中で、やっぱり麹衣村はムーミン谷と待った違うと実感していた。


 田舎暮らしは、平和でもスローライフでも癒しでも無いようだった。むしろ逆だ。


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