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おばあちゃんは名探偵!〜お隣さんは謎だらけ〜  作者: 地野千塩


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暴行事件編(5)

 石子や華名の家がある村の住宅街から西へ向かって歩いていた。


 一応県道らしいが、田舎のせいか車や人通りもほとんどなかった。


 村にある森も見えてきたが、想像以上大きく思わず怖気付く。一方石子は楽しそうに早歩きしていた。


「そういえばグランマ、ホームレスいるっていう噂なかった? 大丈夫なの?」

「たぶん、ホームレスと森口さんの失踪は関係ある気がする」

「証拠は?」


 さっき石子のギャグを聞いてしまった後は、ろくに推理などしていない気もする。ミステリ作家を目指していたのは確かだろうが、そうなれなかった理由も何となくわかってしまった。単なる憶測だが、石子はトリックや細かい伏線などがツッコミどころ満載なミステリを書いていそう。


「そんなもんないわよ」

「えー?」


 証拠がないと石子は胸を張っていた……。


「グランマのカンよ。それに森口さんがいなくなったのは気になるわ。確かにカルト信者で変な人だったけど、トラブルメーカーだったしね。何か事件に巻き込まれたのよ」

「ホームレスが森口さんと関係している理由は何? 例えばホームレスが森口さんに危害を与えていたとして、なんかホームレスは得があるの?」


 むしろあのご近所かカルト、あるいは家族とトラブルになったと思う方が自然に思えた。


「待った、理世は意外と現実的ね。現代っ子ってこんなもん?」

「証拠もないのに疑ったらダメじゃん」


 理世のいじめも結局、何の証拠も出てこなかったので、誰にも納得してもらえなかった。自分は特別に現実的ではないが、大人は目に見えるものだけで判断する傾向にあると理世は思う。


 そんな事を話しつつ、森の入り口周辺に近づく。


 そばのカルト・銃価の会館があった。立派な会館だった。大きさも学校の体育館ぐらいあり、屋根も壁もまだまだ新しかった。入り口には銃価を表す旗も飾ってあり、大使館でもイメージして作った会館にも見えた。田舎では立派な会館はとても浮いていた。


「うわ〜、こんなんか〜」


 警備員の姿が見えない事をいい事に、石子は銃価の門に近づいた。門の近くには、掲示板があり、しの教義などが書かれた張り紙が貼ってあった。


「グランマ、カルトの掲示板なんてみて何が面白いの?」

「この広報の記事見てみて。森口さんの写真がでてる」


 石子が指さした先には、確かに金髪で癖の強そうなおばさんの写真があった。今月の広報らしく、お布施額が森口が最高だったと報告されていた。この村は、「麹衣村布教地区」とも言われ、かなり組織的にお布施を集めているようだった。


 お布施の額だけでばく、勧誘の数、数珠や仏壇の購入金額に応じて、毎月優秀な信者を表彰しているらしい。信者というよりまるで会社の営業マンみたいで、石子も理世も顔を顰めていた。


「でも、なんか役に立つかもしれないから、写真撮っておこー」


 石子は半笑いしながら、この掲示板を写真に収めていた。


 ちょうどそこに犬を散歩させている20歳ぐらの若い女性とすれ違った。


 女性は地味なタイプで黒いパーカーとジーンズ姿だった。分厚い黒縁メガネと太眉が印象的だった。


「あら、百合名ちゃん! おはよう!」


 ぼーっと歩いていた女性は、石子に話しかけられると、笑顔を見せてきた。


「石子さん、おはようございます」

「百合名ちゃん、お散歩?」

「ええ。ウチの太郎と」


 散歩させている柴犬は大人しく可愛らしい。理世は石子と会話している百合名という女性をよそに柴犬を見つめてしまった。柴犬の可愛らしさに誤魔化され、この時は緘黙症の症状があまり出てこなかった。


「もしかてお孫さん? 私、縞田百合名っていうの。親はこの村で医者やってるから、風邪とか引いたらきてね」

「は、はい。私は雲井理世です」

「この子はお豆腐メンタルで弱いのよー」

「あはは、石子さん、お豆腐メンタルって言葉知ってるんですね。私もヲタクでコミュ障だから、似たようなもんですよ」


 百合名もこの村の教会に通っていて、環奈とも親しいらしい。少し年上だが、都会のいじめっ子とは全く違う雰囲気で、理世は思わずホッとしたため息をこぼしてしまう。


「ところで、石子さん。この辺りで何やってるんですか? 確か家とは反対方向ですよね」


 百合名は首を傾けていた。心なしか柴犬も「?」のような表情を浮かべているように見えた。


「実は森口さんの姿が見えないのよ。ホームレスの噂もあるし、心配!」


 石子はとても心配などしていないような笑顔を見せていた。皺だらけのクシャクシャの笑顔だった。


「えー? 本当ですか。森口さんね……」

「百合名さん、何か知ってるんですか?」


 理世は思わず身を乗り出して聞いた。なぜか今は緘黙症の症状は全くでず、好奇心のが勝っていた。自分でも知らないうちに石子に影響を受けていたようだった。


「森口さんってこの銃価の熱心な信者」


 百合名は、苦い顔で目の前の銃価の会館を指刺した。


「私もあの人に勧誘されたわ。クリスチャンって言ったら諦めてたけど。金髪にしているのも教義なんですって。金色はラッキカラーだとか。いやね、いい歳したおばさんがそんな理由で金髪って」


 百合名は案外毒舌のようだったが、石子は楽しそうに話を聞いていた。


「他に何か知らない? ホームレスの事とか」

「さあ。でもホームレスはこの森の洞窟に住んでるみたい。農作物も盗まれたりしてない?」

「百合名ちゃん、それは無いわね。でもどうやってホームレスは生きているか疑問ねぇ」


 それは理世も疑問だった。お金や食糧目当てで、ホームレスが森口を襲った可能性はある。確かにホームレスを疑うのは、理屈は通っていた。


「じゃあね、あとで教会でね!」


 百合名は、手をふり、柴犬とともに去っていった。


「やっぱりホームレスが森口さんを襲ったり、関係している可能性はあるかも」

「でしょう? 理世」


 石子はわざとらしく胸をはり、ドヤ顔をしていた。


 行き当たりばったりで森口を探しているわけだが、今は一番ホームレスが怪しく思えてきた。


「さあ、森に入りましょう」

「怖いよー、グランマ」

「大丈夫よ! 心は20歳のグランマがついてるわ!」


 なぜか小柄で老人の石子が頼もしく見えてしまった。この小さ体には、何か得体の知れないパワーが詰まっていそうに感じた。それは自分には全く無いもので、ちょっと羨ましくもなってしまった。


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