推しは推せるときに
はじめまして。
大海原に揺蕩う舟人の一人、幻燈と申します。
普段は一切エッセイの類は書いていないのですが、この度はどうしても衝動を抑えきれず筆を執りました。
とはいえ、伝えたいことはタイトルの一文で既に伝わっていることでしょう。
推しは推せるときに。
よく目にする一文ではないでしょうか。
推せるときに推せばいいんでしょ。そんなの星の数ほど言われてきて耳にタコができてるよ、とお考えの方もいらっしゃるでしょう。
それ程までに聞き慣れた言葉ですよね。
ですが、幾重にも積み重なった(推しを失った方々の)屍を前にしても、私は真に理解していなかったのです。
私がそちら側に立つということを。
これは、私の悔恨を綴った自分語りのようなものです。
私には、かつて創作の世界へと足を踏み入れるきっかけとなった作品がありました。
それは大人から子どもまで、幅広い年代から愛される小説で、学校の図書室でも本屋さんでも本に関する場所であれば見かけぬ場所はないと言えるような作品でした。
文庫本の他、イラスト付きの本も出ており、さらにはコミカライズもされている人気ぶり。
また、その本以外にも出版された本は全て大変面白く、その全てに私は自身の世界を形成されていくのを感じました。
主人公たちの口癖を使ってみたり、似たような服を着てみたり。自分も彼らのようになりたいと、見えないものを見えるふりもしたものです(お恥ずかしい話ですが)。
とにかく、毎日が楽しくて世界が輝いていました。
この感動と感謝を先生にお伝えしたいと思うようになったのは自明の理……否、自然の摂理。
しかし、幼かった当時の私にはどうやって想いを伝えればよいのかもわからず、思いを燻ぶらせる日々でした。
そうして数年が過ぎた頃。
インターネットがそれなりに使えるようになり、携帯を手に入れた私は何でも調べられるようになりました。
そして、思い至ったのです。
「そうだ、これでお手紙を送る方法を調べられるぞ」と。
とても心躍る気持ちだったことを今でも覚えています。
ところが、忙しい日々で調べることを後回しにしておりました。
忘れもしない。冬のことです。
朝の駅で、私はとある一文を見てしまいました。
大好きな先生が亡くなってしまった、という一文を。
その日はどうやって過ごし、家まで帰ってきたのかもわかりません。
ただただ衝撃に頭を支配され、信じたくない思いでいっぱいでした。
それは、ある意味では今までと変わらない日々とも言えるでしょう。
私の心中に渦巻く澱みとは別に、図書館で借りた本を読んでは作品や先生に思いを馳せ、図書館にない作品を買っては世界観に浸りました。
ただ、私が大好きな先生に想いを伝える機会は終ぞ永遠に失われました。
さて、こんな話を書いたのは、ただ当時の想いを昇華させたかったからだけではありません。
最近、新たに信じ難い衝撃が私を襲ったからです。
つい先日、久々に本屋さんに行ったときのことです。
文庫本の並びが変わっており、私は何気なく先生の本を探しました(何年も経った今でもまだ先生が新作を書かれたのではないかと探してしまうのです)。
おかしい。
そう、本棚に一冊も先生の本が並んでいないのです。
確かに二年程前には並んでいたはずなのに。
嫌な予感がして店員さんに調べていただくと、なんと書籍のいくつかが絶版していました。
心の何処かで、先生の作品が絶版することはないだろうと思っていました。
亡くなられた後もずっと完結済みの作品もそうでない作品も本屋さんに並んでいましたし、何よりその作品は本当に面白くてずっと世界に残っているものなのだと考えていました。
わかってます、永遠に存在するものなんてないことくらい。
それでも絶版するの早すぎでしょう⁉ せめて私が死んでからにして!
……失礼いたしました。
結局、またしても出遅れた私は一冊でも取りこぼしてなるものかと小説を搔き集め、絶版した巻を探し求める旅人(あるいは亡霊ともいう)になりました。
私がこの場でお伝えしたいことはただ一つ。
思い立ったときに行動してください。
正直推しは失っても推してますけれども、失った後では伝えたい想いは伝えられないまま死ぬまで残り続けます。
あと、作品も気付いたときには無くなっています。
このWeb上で投稿されている作品のほとんどは、作者の意向で簡単に消え去ります。
明日にはもう無いかもしれない。
そう言う意味では、手に入る可能性が残っている私よりも絶望を感じ、衝撃を受けている方もいらっしゃるでしょう。
好きな作品に対して少しでも伝えたいと思うことがあるのなら、伝えてください。
「面白い」でも「感動した」でも何でもいい、あなたが思うままに。
それが作品の命運を左右するかもしれません。
あなたが私のように後悔しないことをこの舟人の墓場にて祈ります。
ご一読いただき、ありがとうございました。
追伸.
大好きな先生の小説、最後の一冊は私が買いますので、同じ先生のファンの方にはごめんなさい。
でも譲りません。