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随分と長いキスを交わし、腰から崩れ落ちそうになるところで、ようやく解放されたわ。ルドの膝の上にですけど。
「ねえ、重いわよ。話しにくいし、その、恥ずかしいわ」
「重くないし、話しにくくないし、俺しか見てないし、恥ずかしがっているリアも可愛い」
「んーもう! 今日はどうしたっていうの? いつもと違うわ」
「さっきも言ったように、俺は心に従っているまでだ」
「でもっ! ルドには……わたしなんかじゃなくて、恋しい方がいるじゃない」
「…………は?」
え? ルドの口から、は? って聞こえた? やはりルドらしくないわ。
「リア……。俺の恋しい人は君なんだが」
「…………へ?」
今度はわたしの口から淑女らしからぬ言葉が出てしまったわ。失礼いたしました。
「リアは、まさか、俺のこと好きじゃないのか…?」
「っす、好きよっ! ずっとルドのことが好きに決まっているじゃない! それに、好きじゃなかったら、いくら婚約者でも、婚姻前にキスしないわ! ルドだからなの…」
あら? そういえば、今まで、お慕いしていることは伝えていたけど、好きって言ったことはなかったわね。ルドは王族だもの、慕われる意味はたくさんあるっていうのに、わたしったら、なんて迂闊だったの!
いつもと違うルドに動揺して、珍しく素直になってしまったけど、なんてこと! わたしとルドって両思いだったのねっ!! 一般的な政略結婚だと思っていたわ。でも、わたしはルドが好きだから、誘われるがまま唇を許したわけで……。あ、軽い女と思った方、そういったお説教は今は結構よ。
ルドがわたしを好きなら、バルトさんは? でも……。
「わたしは昔からずっとルドが好きよ」
「俺もずっとリアが好きだ。ははっ、なんだ、そうか」
それから、ルドと今までのことを話したわ。
ルドもジェイド様のように、意味もなく、わたしが疎ましく、バルトさんを好ましく思ったのは、紛れもない事実だそうよ。……言葉にされると悲しいし、酷いわね。
でもあの日、ガゼボでわたしと話してから、ルドは、我に返ったようで、学園での自分の行動に違和感を覚えて、内密に調べていたみたい。
ジェイド様も加わり、最終的に一つの仮定に行き着いたけど、確信も証拠もないため、調査に時間がかかったみたい。
わたしは王子妃教育を理由に、学園から逃げ出したけど、ルドは学園もきちんと通って、王子教育も継続して、調査も行ってって…ちゃんと眠れているかしら?
バルトさんが元凶であると思い、彼女に違う意味で近づき、彼女と話しているうちに、本当の元凶が見えてきたそうよ。きな臭いお話だわ。まだ尻尾は掴めていないけど、大体の手筈は整っているみたい。
わたしを巻き込みたくないから、と言ってそれ以上は教えてくれなかったわ。教えてよ! と思わないでもないけど、今はちょっと状況が良くないわね。だって、わたしはずっとルドの膝の上で、抱き込まれているし、時々、頬に額に唇にキスをしてくるの。
「お話はわかりました。でも、落ち着いたら、ちゃんと教えてくださいまし」
「ああ、約束しよう」
にしても、このイチャイチャはいつ終わるのだろうか。終わって欲しいわけではないのだけど、心臓が壊れてしまいそうよ。
「……んっ。…ルドっ!!」
「ん、何?」
チュ、チュ、と啄むようなキスが止まない。
「ぅんっ…何、では、なくてっ! ……はぁ、いい加減になさって!」
「両思いとわかったのに、止められるわけないだろう」
「こっ、わ、わたしも嬉しいのは一緒よ。でも、いい加減、ドキドキしすぎて、心臓が壊れそうよ」
「可愛い。俺の婚約者はこんなにも可愛い。でも、リアはしばらく隣国に行ってしまうではないか。しかもジェイドと。俺だってリアと遠くに出かけたことがないのに、なんであいつが先なんだ」
確かに、わたしも両思いとわかって浮かれていますわ。少し、少ーしだけ忘れていましたわ。今日はその報告も兼ねているんでしたわ。ルドとせっかく両思いだとわかった矢先に、離れ離れになるなんて、嫌ね。
「ジェイド様の国には行きますけど、お兄様も一緒よ? 第三王子であるジョージア殿下の結婚式典に参加するのに、レオンハルト殿下が国を離れられないと言うものだから、ジョージア殿下と親交のあるお兄様が行くことになったのよ。でも、お兄様お一人では何かと不都合が起きるかもしれないでしょ? かと言って、お義姉様は大事な時期ですから同行できないので、ジョージア殿下とお会いしたことがあるわたしが同行することになったのよ」
この式典は、リリー様の出産時期に丸かぶりするみたいで、リリー様を溺愛するレオンハルト殿下はお側にいたいみたい。王族に来た招待状だけど、我が公爵家も元を辿れば王家の血筋で、ご友人でもあるお兄様なら不足はないそうよ。ちょっとしたこじ付けよね。
お義姉様も間もなく出産だから、お兄様も国を離れたくないでしょうに。お可哀想。王太子殿下のご命令だから仕方ないですけどね。
「ふむ。俺もジョージア殿下とは親交もある。王族の結婚式典ならば、王族が参加するのが通例だ。うん、俺がロゼリアと一緒に行こう。そうしよう」
え? ルドが行く?
「でも、確かにルドが言うようにルドが行くのが通例だけど、わたしはお義姉様の代わりで行くだけで、お兄様が行かないなら、必然的にわたしも行けないわよね。ルドは婚約者のわたしがいるとは言え、独り身ですから、あちらでパートナーを用意すると言われるのではないかしら……」
わたし以外の女性をエスコートするなんて腹立たしいけど、隣国の王族と交流を深めるという思惑が飛び交うでしょうし、おもてなしの一環と称して、貴族達は自身の娘を当てがってくるケースもあるわ。本当に本当に腹立たしいけど、もてなされる側にも暗黙のルールがある。
「大丈夫。必ずロゼリアと行けるよう、なんとかしよう。そうと決まれば、早速動かなくては。必ず二人で行くから、その心づもりでいてくれ」
そう言って、先程まで離れがたそうにしていたくせに、あっさりとわたしを離して、先に立ち去ってしまったわ。温もりが離れて寂しいのですけど……?